テラーノベル
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開かれた鉄扉の先には、およそ廃工場とは思えない異様な光景が広がっていた。
埃っぽいコンクリートの床には真っ赤な絨毯が敷かれ、中央には高級な長テーブルが置かれている。
その上には、冷え切ったフランス料理と、最高級のヴィンテージワイン。
テーブルの主座には、榊原の親父が悠然と座っていた。
その隣には、銀髪を整え、隙のないスーツを纏った男――
中臣代議士が、不快そうにハンカチで鼻を押さえている。
「よく来たな、和貴」
親父が手招きをする。
周囲の暗がりには、サブマシンガンを構えた黒服たちが、微動だにせず俺と志摩をロックしていた。
「……飯を食いに来たんじゃねえ。親父、あんたの首を取りに来たんだ」
俺は絨毯を泥靴で汚しながら、テーブルの対面に立った。
志摩は俺の背後で、いつでも銃を抜けるよう身構えている。
「相変わらず情けない男だ、榊原組長。こんな野良犬一匹に、これほどの準備が必要だったのかね」
中臣が冷笑を浮かべ、俺をゴミを見るような目で一瞥した。
「黒嵜君と言ったかな。君が持っている『ゴミ』を渡しなさい。そうすれば、君の弟分の未亡人に、一生遊んで暮らせるだけの見舞金を約束しよう」
「……ゴミだと?」
俺の喉の奥から、低いうなり声が漏れた。
「拓海が命を懸けて守ったものを、ゴミだと抜かしたか」
「そうだ。政治という巨大な歯車にとって、一人の極道の命など油差しの一滴にもならん。榊原組長の教育がなっていないのか」
中臣がワイングラスを傾けたその瞬間、親父がゆっくりと立ち上がった。
「和貴。拓海を殺したのは、俺の意志だ。組織が国と寝るためには、潔癖な正義感は邪魔だったんだよ。お前も、いずれは分かってくれると思っていたが……」
「…分かってたまるかよ」
俺は懐から、血と泥に汚れたあのICレコーダーを取り出し、テーブルに叩きつけた。
「あんたは、俺たちに『筋』を教えた。裏切るな、家族を大事にしろってな。……一番最初に筋を曲げたのは、あんたじゃねえか、親父!」
「……悲しいな、和貴」
親父の目が、一瞬だけ鋭く光った。
それが合図だった。
工場の天井から、巨大な鉄格子の檻が轟音と共に落下してきた。
俺と志摩、そして中臣と親父。
テーブルを囲む四人を、この「鉄の檻」が完全に閉じ込める。
「なっ…榊原!何の真似だ!」
中臣が驚愕して立ち上がる。
周囲の黒服たちも動揺し、銃口を檻へ向けた。
「代議士。和貴は俺の息子だ。…こいつの教育の仕上げは、親である俺が、誰にも邪魔されずにやらねばならんのでね」
親父がジャケットを脱ぎ捨て、ワイシャツの袖を捲り上げた。
その両腕には、俺と同じ昇り龍の刺青が、怒りに狂ったように蠢いている。
「さあ、和貴。殺し合おう。……勝った方だけが、この檻を出れる」
狂気の晩餐が終わり、真の地獄が幕を開けた。
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