テラーノベル
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鉄格子がコンクリートの床を打つ重低音が、工場の空気を震わせる。
外側を囲む中臣の私設部隊がざわめき
銃口が檻に向けられるが、親父は微動だにせず、俺だけを見据えていた。
「榊原!狂ったか!今すぐこれを開けろ!」
中臣が取り乱し、鉄格子を掴んで叫ぶ。
だが、親父はその声を無視して、テーブルの上に置かれた一振りのドスを手に取った。
俺が若い頃、親父から贈られたものと同じ、榊原組の「魂」だ。
「和貴。極道の親子は、血を分けるか、血を流すかでしか繋がれん」
親父がゆっくりと歩み寄る。
その足取りには、老いなど微塵も感じられない。
修羅場をいくつも越えてきた本物の迫力があった。
「志摩……あんたは中臣を見てろ。こいつは、俺がやる」
俺は肩の痛みをアドレナリンでねじ伏せ、ドスを逆手に構えた。
「……ああ。だが、あまり時間をかけるなよ。外の連中がいつ、この檻ごと俺たちを蜂の巣にするか分からん」
志摩は冷めた目で中臣の首筋に銃口を押し当て、盾にした。
中臣の悲鳴が檻の中に響くが、親父と俺の間には、もう外の世界の音など届いていなかった。
「来い、和貴。お前に教えた殺し方、すべて俺にぶつけてみろ」
親父が踏み込んだ。
一閃。
空気を切り裂く音が耳元で鳴る。
俺は紙一重でかわし、親父の脇腹を狙って刃を突き出した。
だが、親父はそれを読み切っていたかのように、俺の手首を掴み、そのまま背後のテーブルへと叩きつけた。
「ぐっ……!」
皿が砕け、冷え切った料理が床に散らばる。
「遅い。迷いがある証拠だ。拓海の死を、まだ自分のせいだと思っているのか?」
親父の言葉が、俺の心に深く刺さる。
「……違う。俺が許せないのは、それをあんたが仕組んだってことだ!」
俺は床を蹴り、体当たりで親父を突き飛ばした。
もつれ合いながら、俺たちは豪華な晩餐の残骸をなぎ倒し、コンクリートの床を転がる。
ドスとドスがぶつかり合い、暗い檻の中で火花が散った。
「和貴、お前は俺の最高傑作だ。だからこそ、ここで俺を殺して『榊原』を超えていけ。それが、お前が人間を辞めるための、最後の儀式だ」
親父の瞳は、狂気に満ちているようで、どこか悲しげに澄んでいた。
この人は、本気で俺に殺されるつもりなのか。
それとも、俺を殺してすべてを終わらせるつもりなのか。
俺の視界が、流れ出した返り血で赤く染まっていく。
鉄の檻の中で、親子の絆という名の呪いが、火花を散らして弾けた。
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