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ノスフェラトゥは目を覚ました。
勢いよく。
ガバッと。
まるで天啓を受けた預言者のように。
数秒。
天井を見つめる。
呼吸が荒い。
鼓動も速い。
そして。
「……」
沈黙。
さらに数秒。
「…………」
その後。
顔が真っ赤になった。
「主様が夢に出た!!!!」
朝五時である。
近所迷惑だった。
もちろん近所はいない。
だが迷惑ではある。
ノスフェラトゥはベッドの上で頭を抱えた。
夢だった。
最高の夢だった。
あまりにも最高だった。
普通なら。
精神への干渉。
夢への侵入。
アイデンティティの侵食。
高位魔族が最も嫌う精神攻撃。
そういうカテゴリである。
だが。
ノスフェラトゥの脳は違った。
処理結果。
「主様が会いに来てくれた」
以上。
終了。
重症だった。
かなり。
いや。
手遅れだった。
「つまり」
ノスフェラトゥは立ち上がる。
「起きている間だけでなく」
服を着る。
「眠っている間も」
マントを羽織る。
「主様と一緒」
髪を整える。
「二十四時間営業」
そこで停止。
真顔になる。
「福利厚生が厚すぎる」
結論がおかしい。
そして走った。
全力で。
廊下を。
朝五時に。
ドドドドドドドドド!!
使用人が見たら通報する速度だった。
目指す先はただ一つ。
スペクターの部屋。
そして。
バァン!!!
勢いよく扉が開いた。
「主様ーーー!!!」
室内。
静寂。
スペクターは起きたばかりだった。
まだシルクハットも被っていない。
まだコーヒーも飲んでいない。
まだ何も始まっていない。
そこへ。
全力疾走した吸血鬼が飛び込んできた。
「夢の続きをお願いします!!!」
スペクター。
三秒停止。
本気で停止。
脳が追いついていない。
「……何?」
「夢です!!」
「うん」
「来てくれました!!」
「うん」
「夢に!!」
「そう」
「最高でした!!」
「そう」
「続編を!!」
「いやだよ」
即答だった。
寝起きとは思えない速度だった。
ノスフェラトゥは衝撃を受ける。
「なぜですか!?」
「朝だから」
正論だった。
圧倒的正論だった。
ノスフェラトゥはさらに詰め寄る。
「ですが主様!」
「うん」
「夢の中ではもっと冷酷でした!」
「知らないよ」
「もっとこう!」
「うん」
「圧倒的な感じで!」
「知らないって」
「ぜひ本編でも!!」
「本編?」
スペクターは頭を押さえた。
まだ起床三分。
もう疲れている。
今日一日の疲労量を先取りしている。
「ノスフェラトゥ」
「はい!」
「今何時だと思う?」
「主様と会うのに最適な時間です!」
「違う」
即答。
もはや反射。
そして。
スペクターは指を鳴らした。
パチン。
「あ」
ノスフェラトゥが消えた。
一瞬だった。
本当に一瞬だった。
そして次の瞬間。
廊下。
ノスフェラトゥ。
正座。
綺麗。
無駄に綺麗。
目の前の扉。
バタン。
閉まる。
カチャ。
鍵まで掛かる。
完璧だった。
プロの追い出しだった。
廊下に静寂が訪れる。
数秒後。
ノスフェラトゥは閉ざされた扉を見つめた。
見つめる。
さらに見つめる。
普通ならショックを受ける。
悲しむ。
反省する。
そういう流れ。
だが。
彼はノスフェラトゥだった。
「……」
頬が赤くなる。
まずい。
嫌な予感しかしない。
「フフ」
まずい。
始まった。
「なるほど」
始まった。
「朝一番の完全拒絶」
もう止まらない。
「高度だ」
何が。
「非常に高度だ」
何が。
「さすが主様」
だから何が。
「待てということか」
違う。
たぶん違う。
絶対違う。
「素晴らしい」
違うって。
ノスフェラトゥは嬉しそうに正座した。
姿勢百点。
笑顔百点。
理解度零点。
「待ちます」
誰も頼んでいない。
「主様が出てくるまで」
頼んでいない。
「ここで」
頼んでいない。
「待ちます」
だから頼んでいない。
その頃。
部屋の中。
スペクターは扉の向こうを見ていた。
聞こえてくる。
かすかに。
「フフフ……」
聞こえる。
「待てか……」
聞こえる。
「高度なお預け……」
聞こえる。
スペクターは天井を見上げた。
深いため息。
そして一言。
「アズール」
近くの影から声。
「はい」
「今日も元気だね」
アズールは即答した。
「元気なのはいいんですけど」
一拍置く。
「たぶんもう治りませんよ」
それについては、
スペクターも完全に同意だった。
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