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ある日の午後。
FORSAKENの応接室。
スペクターはふと思った。
最近のノスフェラトゥ。
従順。
素直。
異常に素直。
いや。
素直すぎる。
「ノスフェラトゥ」
「はい」
即答。
速い。
呼び終わる前から返事をしている気がする。
アズールが呟く。
「最近あいつ反抗した?」
ホスフォラスが考える。
「最後に見たの数百年前じゃない?」
誰も否定できなかった。
そこで。
スペクターは面白そうに笑った。
「ゲームをしよう」
数分後。
応接室。
アズール。
ホスフォラス。
見学席。
なぜかポップコーン持参。
完全に観戦モードだった。
ノスフェラトゥが首を傾げる。
「ゲームとは?」
スペクターは優雅に足を組んだ。
「一時間だけ」
「うん」
「昔の君に戻りなさい」
沈黙。
「……は?」
アズールが吹いた。
ホスフォラスがもう笑っている。
スペクターは続ける。
「反逆王」
「吸血鬼の覇王」
「誰にも従わなかった王」
「今日はそれになりなさい」
ノスフェラトゥが固まる。
「反抗していい」
「命令も無視していい」
「好きに振る舞いなさい」
そして最後に。
スペクターは楽しそうに言った。
「これは命令だよ」
ノスフェラトゥ。
頭を抱えた。
開始前から矛盾していた。
だが。
主命である。
やらねばならない。
ゲーム開始。
ノスフェラトゥは立ち上がる。
マントを翻す。
ばさぁっ。
いい音。
実に覇王っぽい。
腕を組む。
顎を上げる。
目を細める。
おお。
それっぽい。
アズールが小声で言う。
「久々に見たなその顔」
ホスフォラスが頷く。
「ちょっと格好いいね」
ノスフェラトゥは低く笑った。
「ふん……」
いい。
かなりいい。
「スペクター」
おお。
呼び捨てだ。
「お前など」
いいぞ。
行ける。
今回は行ける。
「お前など本来なら私の爪一つで――」
そこで。
スペクターが微笑んだ。
にこっ。
それだけだった。
本当にそれだけだった。
ノスフェラトゥ停止。
「……」
「…………」
胸。
きゅん。
(あっ)
終わった。
アズール。
「あっ」
ホスフォラス。
「あっ」
全員察した。
ノスフェラトゥの顔がみるみる赤くなる。
覇王消滅。
反逆心蒸発。
プライド行方不明。
「お、お前など……」
スペクター。
楽しそう。
「うん?」
「お前など……」
「うん」
「…………」
脳内。
大事故。
(顔が良い)
(好き)
(尊い)
(無理)
(抱きしめたい)
(反抗できない)
(終わった)
ドサッ!!
ノスフェラトゥ土下座。
開始三秒。
館内記録更新。
「無理です!!!」
応接室に響き渡る絶叫。
スペクター。
「早い」
アズール机を叩く。
「三秒!?」
ホスフォラス椅子から落ちる。
「反逆王が三秒で死んだ!!」
ノスフェラトゥは本気だった。
本当に本気だった。
「無理だ!」
「何が」
「顔が良すぎる!!」
沈黙。
アズール。
呼吸停止。
ホスフォラス。
腹筋崩壊。
スペクター。
予想外。
「そこ?」
「そこです!!」
ノスフェラトゥは床を叩く。
「昔ならできた!」
「うん」
「だが今は!」
「うん」
「笑われると無理だ!!」
「そうなんだ」
「優しくされると無理だ!!」
「そうなんだ」
「顔を見るともっと無理だ!!」
アズール。
涙を流しながら言う。
「もう顔ファンじゃん」
「違う!!」
「違わないよ」
ホスフォラスが腹を抱える。
「反逆王じゃなくて古参オタクじゃん!」
「違う!!」
「違わないよ」
完全敗北だった。
しかし。
スペクターは諦めない。
「もう一回」
「まだやるのか」
「やる」
再挑戦。
ノスフェラトゥ深呼吸。
よし。
今度こそ。
「ふん」
いい。
「お前など」
いい。
スペクター。
「頑張ってるね」
終了。
二秒。
記録更新。
ホスフォラス。
「縮んだ!!」
アズール。
「反抗時間が縮んだ!!」
最終結果。
一時間の反抗期ゲーム。
実働時間。
五秒。
ノスフェラトゥはソファの隅で顔を隠しながら呟いた。
「昔はできたんだ……」
誰も信じなかった。
そして帰り際。
スペクターが何気なく頭を撫でた。
ぽん。
ノスフェラトゥ。
「幸せです……」
アズール。
「反逆王とは」
ホスフォラス。
「何だったのか」
こうして。
スペクターが企画した『反抗期ゲーム』は、
開始五秒で
『顔が良すぎて反抗できないゲーム』
へと名称変更されたのであった。
ゆゆゆゆ
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