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「……駄目なんですよ。兄二人と男同然に育てられたので、あまり弱音が吐けなくて意地っ張りな性格になってしまったんです。育てられ方が悪かったとは言いませんが、涼さんみたいに手放しに褒めてくれる人はいませんでした。……だから、褒められると照れちゃうんですよ」
「そこが可愛いと思うけどな」
涼さんは私の顔を覗き込んで微笑み、また頭を撫でてくる。
「照れ屋なのは可愛いけど、困ってるなら治せるよう練習する?」
そう言って、涼さんは一度立ちあがって隣に座ると、両手で私の頬を包んできた。
「えっ……」
驚いて目を見開くと、彼は惚れ惚れするような美貌で私を見つめ、微笑む。
「俺を見て」
少し愉しそうに言った彼は、自分を見れば私が照れると分かっている声をしている。
「ちょ……っ、待っ……、んぐぐぐ……」
目を逸らそうとしても顔をクイッと正面に向けられ、横を向こうとしても、また顔の角度を戻されてしまう。
「恵ちゃん、好きだよ」
あまつさえ告白され、私は涼さんを正視できず、真っ赤になって目を閉じてしまう。
すると、チュッと音を立ててキスされた。
「えっ?」
びっくりして少し身を退くと、彼はニコニコ楽しそうに笑って宣言した。
「目を閉じたらキスするよ」
「そんな横暴な!」
この人、思ってた以上にスパルタだ!
「俺の事は?」
「はい?」
「俺は恵ちゃんが好きだけど、君は俺をどう思ってる?」
言葉を欲しがられ、私はこれ以上なく赤面する。
「そ……っ、その……っ」
「頑張って。ちゃんと言えたらキスしてあげる」
「どっ、どう転んでもキスじゃないですか!」
「嬉しくない?」
「うっ、うれし……っ、……………………くっ、くぅうっ…………」
どう答えたものか悩んでプルプル震えていると、涼さんは「あはは!」と笑って私を解放した。
「困ってる姿も可愛いね。……参ったな、俺、女の子を困らせて喜ぶタイプじゃないんだけど」
涼さんは照れくさそうに笑い、その表情を見てキュンとしてしまう。
どんな内容であれ、彼に初めての感覚を味わわせられたのが、自分だという事が嬉しい。
彼は私を見つめて甘やかに笑ったあと、優しく抱き締めてきた。
大きな体に包み込まれた私は、涼さんの胸板に顔を押しつけてジワリと赤面する。
「……可愛いな。……ねぇ、恵ちゃん。このままうちに住まない?」
「えっ?」
私は驚いて顔を上げ、困惑した表情で涼さんを見つめる。
すぐに「冗談だよ」と言うと思っていたのに、彼は私の意見を窺うように見つめ返してくるだけだ。
「……冗談ですよね?」
半笑いで言ったけれど、涼さんはうっすら微笑んだまま何も言わない。
「……その……、まだ会ったばかりですよ?」
返事をしながらも、「自意識過剰と思われていたらどうしよう」と不安になる。
「俺の経験からだけど、何年もの付き合いでも腹の底が分からない人はいた。でも、本当に気が合う人って、少し話しただけで相手の事が大体分かる気がするんだ。勿論、恵ちゃんとは会って数日だし、これですべてを分かったつもりにはなっていない。でも俺の勘が君なら大丈夫だと訴えてる」
涼さんがとても真剣に言ってくれているのは分かるけれど、私はいまだ彼ほど素敵な人が自分を好きになってくれていると信じ切れていない。
迷って黙り込んでいると、涼さんは私の両手を掴み、顔を覗き込んできた。
「恵ちゃん。『付き合おう』って言葉にOKをくれたよね?」
「……はい」
少し決まり悪く頷くと、涼さんは優しい目で私を見つめ、髪を撫でてくる。
「男性不信を貫いてきた君の気持ちは察するし、俺を信頼しきれていないのも分かる。『俺は裏切らないよ』って言うしかできないのはもどかしいけど、この気持ちは理解してくれているよね?」
「はい。……全部、自分の気持ちの問題なので、涼さんは何も悪くありません」
申し訳なさを抱きながら答えると、彼は私の額にキスをして言った。