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〇月×日
(雨)
あの女に会った。名前は分からない。俺を見ているようで見ていない、何か別のものを眺めて笑っているような目だった。薄気味悪いヤツだと思った。
あの女の後ろ姿を見ただけで全身が粟立った。すぐにその場を離れようとした。なのに目が離せなかった。まるで蛇に睨まれた蛙のように、俺は動けなかった。
声が出なかった。身体が動かなかった。俺はどうしようもなく怖かったんだと思う。何をされるのかも分からず、このまま殺されるか、それともこの身を汚されてしまうのではないかと思っていた。だからあのままあの場にいるのが嫌で仕方がなかった。早く逃げ出したくて仕方がなかった。しかしそれはできなかった。何故なら、俺が逃げ出したら誰が皆を守るというのだ。俺は戦士だ。女子供を守らなければならない立場なのだ。恐怖に打ち勝つことが戦士として最も大切なことだと言うことも理解している。でも、それでも俺は心の底から恐怖を感じていた。逃げ出して、あいつらに蹂躙されて、殺されてしまうかもしれない。そんなことを想像するととても恐ろしかった。自分が情けなくてたまらなかった。
だがそれと同時に、別の感情もあった。心のどこかで期待をしている自分がいた。もしこの行為が終わってしまえば、何かが変わるのではないかと、変化を求めている自分がいた。俺は一体何を求めていたのだろう。こんなことになってしまった以上、何も変わらないことなど分かりきっているはずなのに。