テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第五話 「敵か、味方か」
「お待ちしてました、ボス」
その言葉と同時に入ってきた男は、背が高く、肩掛けした黒いコートは優雅に揺らめいた
群青色の美しい瞳を反射したかのように髪色も美しい
だが、そこには圧倒的な頂点のオーラがあり、空気が締め付けられるような感覚が皮膚を貫通する
目を瞑っていても分かる
「ボス」と呼ばれた男の隣には、タブレットを持った青年もいた
ボスは空を横目に亜蓙冴に近づいた
「ご苦労様。彼が新人君だね?」
「嗚呼。コイツが例のガキだ」
ボスは空を見た
ボスの鋭い視線が空に降り注ぎ、思わず身構えそうになる
「ふ〜ん…」
ボスは空と視線の位置を合わら為に前のめりになり、目を合わせる
空の黒くて信念のある瞳を見つめる
だが、群青色の瞳は感情で色を変えることなく、何事もなかったかのように瞬きをした
「名前は?」
「あ、天海空です」
「空、ね」
ボスが目を離した瞬間、ふと何か見えた
「…!」
少し開かれたシャツの胸元に、花のタトゥーがあった
(この花って……あ)
直後、ボスは姿勢を戻し、タトゥーは見えなくなった
戻る時にピアスが照明に煌めく
それを見ていたボスの後ろに立っている、緑の髪に鴨の羽色の瞳の青年は、妬ましそうに空を睨んでいた
その視線に気付いた空は戸惑った
(す、凄い睨んでくる…。俺何かしたか…?)
その視線に同じく気付いた皐月は、わざとらしく後ろから腕を回し、空を自身に寄せてから青年を見た
「おわっ」
「この子は朝靄叶殊。ウチの情報管理システムを作ってくれたり、色々優秀なんだけど…」
(…この人がシステムを…。凄いな)
ボスが亜蓙冴の方に向かった
やはり、もう一度しっかり見ても、まだ青年だった
空は尊敬の目を向けるが、相変わらず叶殊は妬ましそうに睨むだけだ
皐月の視線は、亜蓙冴と何やら仕事の話をしているボスに行った
空も横目にその様子をみる
その立ち振る舞いで、欧米の紳士とも錯覚してしまいそうだ
だが、彼がいるのはまさに裏社会の頂点とも言える場所
「Night Lily」が活躍しだした頃から、敵組織やそこら辺に集まっていた小さな組織は格段と消え去り、いつからかこの街は争いが減っていた
それだけ、この方の力は凄まじかった
「ボスの事を教祖様みたいに慕っててさ、空は新人だからちょっと警戒されてるみたいだね」
「な、なるほど…」
ちょっとどころではなさそうだが…
今にも襲いかかりそうな様子で叶殊は空を睨みつけている
「…あ」
話を終えたボスは、何かを思い出したかのように空たちの方を振り向く
「叶殊」
「はいっ!」
気合いのこもった声が部屋中に響き渡った
先ほどまでこちらを襲う気で睨みつけていた彼の目は、信者のように輝いていた
これがいつも通りなのか、皐月のため息すら宙に消える
空も理解したように、気付かれないように苦笑した
「昨日来た依頼。空に行かせるから」
「「……え?」」
空と叶殊の声が重なり、目が点になった
「お、最終テストみたいなやつね。楽しみだな〜」
いつの間にか空から離れていた皐月は楽しそうに目を輝かせる
(マフィアに来た依頼を、俺が?)
困惑した空にボスが近づく
「君の眼の事は亜蓙冴に聞いた。今から行ってもらう依頼は後で叶殊が説明してくれる。…君が使える人材か、ここで調べさせてもらうよ」
使える人材
組織に加入出来るかを判断される事だ
だが、空にはここで終われないという強い思いがあった
姉を殺した犯人を見つけ出す為、ここで失敗するわけにはいかない
「はい、分かりました」
力強く返事をする
ボスは満足そうに微笑み、次は叶殊を見た
「叶殊、この子はまだ新人だ。協力してやってくれ」
最初はむっとした表情だった叶殊だが、流石にボスの命令となると受け入れるしか無かったようだ
「…分かりました」
もはや殺気となった視線が空に突き刺さる
未だ彼とは上手くやれる気がしない事に少し観念した
そこに亜蓙冴がやってくる
「出発は明日の午前一時。さっさと準備しろよ」
それだけ言うと、一回り大きな白い扉に向い、扉を開けた
扉の先は通路なのか、コンクリートの壁が見えた
空はボスの方を向き直るが、いつの間にか先ほど入ってきた扉の取手を既に掴んでおり、姿が見えなくなった
その時だった
「…おい」
「っ、」
突然、叶殊が空の胸ぐらを乱暴に掴んだ
「叶殊、よしなよ」
皐月が忠告するが、今度は顔を近づけて二人しか聞こえない大きさの声で言う
「…テメェ、どう言うつもりだ。うちを壊滅させる事が狙いなのか?」
その瞬間、空は気付いた
彼のしていた事は、自身を詳しく調べられた上でやった事なのだと
「…流石にそこまで調べられてましたか…。でも、俺はマフィアに入って姉を殺した犯人を見つけたいだけです。壊滅だなんて、絶対しません」
叶殊は額に青筋を立てたまま胸ぐらを離さない
掴んだ手により力が入る
叶殊の奥歯がぎりぎりと嫌な音を立てる
「おい、もし今回の任務で亜蓙冴さんに手ぇ出したりでもしたら、ぜってぇ俺がお前を殺してやるからな…!」
「いい加減にしなさい!」
その時、皐月が二人の間に割って入った
だが、空の表情は微塵も変わっておらず、代わりに叶殊は殺気を常時放っている
叶殊は舌打ちをすると、手に持っていたタブレットを押し付けるように皐月に渡し、足音を立てながら深緑の扉に入っていった
少しだけ静寂が部屋に響いたが、皐月のため息でそれらは消え失せた
「ごめんね、あの子キレたら止まらなくて」
申し訳なさそうに皐月の眉が下がる
「い、いえ」
「ま、とりあえず部屋に案内するね。ついてきて」
タブレットを持ち直し、先に行く皐月の背中はどこか虚しく、寂しく感じられた
やはり彼女にも何かしら事情があってマフィアに入ったのだろうと、容易に予想できた
襟元から再び黒蛇のアンが出てくる
アンはまるで大丈夫?とでも言うかのように皐月の頬に顔を擦り寄せた
皐月は相棒の名を言うと、優しくその小さな頭を撫でた
アンは静かに瞳を閉じる
その様子を空も静かに見ていた
しばらく歩いた先には、白い扉が左右二つあり、通路の終わりにも白い扉があった
皐月は左側の手前の扉に手を掛けると扉を開けた
コメント
1件
えっと……第5話、読み終わったよ!🥀 ボス、めっちゃオーラあるね…。群青色の瞳とか、タトゥーとか、一つ一つの描写からもう“頂点”って感じがすごく伝わってきた。空が尊敬の目を向けるの、分かるなあ。 それにしても叶殊くん、最初から空にそんなに敵意むき出しで大丈夫?😂 「テメェ、どういうつもりだ」って胸ぐら掴むシーン、ヒヤッとしたけど、ちゃんと組織のこと考えてるからこそなんだろうな…。でも皐月さんが止めに入るところ、ちょっとホッとした。 空の最終テスト、次どうなるんだろう…。頑張ってほしいな、ちゃんと応援したくなるキャラだよ。