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しゅーらいんげつ
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ちょこ
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第六話 「初任務前夜」
「入って」
言われた通りに部屋の中に入る
部屋の中は少し肌寒く、暗闇に支配されていた
後から入った皐月は扉の近くにあったスイッチを押す
蛍光灯に冷たく照らされた部屋には、ベッドや机、クローゼットまで、生活に必要なものが揃っていた
どれもこれも、誰かが使い古したような様子も無く、まるで最初から空を待っていたかのようだ
「この部屋、今日から空の部屋として使っていいよ。お腹が空いたらさっきの中央の部屋に行けば冷蔵庫とかあるし、好きにしていいよ」
空は純粋に驚いた
加入させてくれるだけでは無く、まさか住む場所まで用意してくれるなんて、思ってもいなかったからだ
空は振り返って皐月に聞いた
「そんな、…いいんですか…?」
その不安そうな表情を見て、皐月は気づいた
自分の目の前にいるのは、まだ二十歳もいかない少年なのだと
姉を失い、裏社会に入り、好きなものも、自由も、何もかもを失った孤独の少年
きっと、今まで見たくないものも、本当は手を出したく無かったものも、山ほどあっただろうに
それは、少年の右目の下にある古傷が証拠として残っている
この子は強い。きっと、自分よりも
そんな少年が侵入したマフィアに捕まり、突然加入を認められるとなると、それに不安や心配はつくのが当たり前だろう
皐月は、優しく空の頭に優しく手を置く
「大丈夫だよ。大丈夫」
「っ…!!」
空はそのあまりの温かみと優しい声に震えた
姉も、不安な時はこんな風に撫でて落ち着かせてくれていたからだ
もう二度と、こんな事をされるなんて思ってなかった
ふと、瞳から何かが溢れそうになる
それを堪えて、空は前を向いた
「…ありがとうございます」
皐月は安堵したような表情になる
「それじゃ、任務の説明をするね」
皐月は先ほど叶殊から押し付けられたタブレットを起動した
何度か画面をスワイプする
「…昨日、政治家の柊から依頼がきた。娘が誘拐されたから助けて欲しい、だって」
「政治家が、ですか?」
普段、表社会で人々の上に立っている人間が、裏社会の彼らに依頼をするとは到底思えないからだ
「政治家でも、裏と繋がっている人間なんて、全然いるよ。裏金、裏取引、とか…」
皐月によると、悪事なんて、数えきれないほどあるらしい
それを聞いた空はどこか諦めた
「…なるほど、それで繋がっている柊の娘を誘拐した理由って…」
「大体身代金とか、そこら辺でしょうね」
皐月はタブレットを閉じると、扉へ向かった
取手に手を掛けると、振り返り時計を見る
今は午後十一時だった
「出発は午前一時だったよね。あと二時間あるから、部屋でゆっくりしてるといいよ」
そう言うと、これ以上空の不安を増やさないようにと笑顔を見せて出ていった
静寂に包まれる
マフィアに加入することを判断される初任務
これで成功しなければ多分、お終いだ
覚悟を決めた空はベッドに腰掛けた
両手を合わせて握る
瞳を深く閉じる
その時だけ、部屋から何もかも消えたかのように感じた
再び瞳を開けた空の黒い眼は先ほどとは違う、仕事の眼になっていた
準備を済ませた空は中央の部屋にいた
同じく皐月と叶殊もその部屋にいた
空はソファでスマホを横向きにして遊んでいる叶殊に目が行ってしまう
さらにイヤホンまでしており、こちらの様子を気にしている様子は一ミリもない
二時間前まであんなに殺気をぶつけていた彼はすっかり消え去っていた
突然、外につながる扉が乱暴に開けられた
扉から入ってきたのは亜蓙冴だった
その両手にはビニール袋が抱えられており、扉は足で蹴り飛ばしたようだ
「あらあら、またこき使われたの〜?」
皐月は意地悪く笑いながら言う
亜蓙冴はぴきぴきと青筋を立てながら未だ亜蓙冴がいることに気付いてない叶殊に向かう
しかも真顔で
「…おい」
叶殊に声をかけるが、よほど集中しているのか画面から目が離れない
「このクソガキが…!」
さらに青筋が立った亜蓙冴は乱暴にビニール袋に手を突っ込むと、中からエナジードリンクらしき缶を取り出す
直後、それを叶殊に思い切り投げつけた
未開封の缶は重圧もある為、鈍い音が響いた
「いっっでぇぇぇ!!!!」
投げつけられた衝撃でイヤホンとスマホが飛んでいった
よほど痛かったのだろう、頭を抑えながら悶え苦しんでいる
「…ぷっ」
その様子に皐月も軽く吹き出す
空は飛んでいったスマホの画面を見た
画面の中では、「ゲームオーバー」の文字と共にキャラクターが倒れていた
「いい加減自分で買い物ぐらい行きやがれ!」
「だからって投げつけますか!?しかもエナドリを!炭酸だから…って、ああああ!!??ゲームオーバーになってる!!どうしてくれるんですか!?」
叶殊は喚き、亜蓙冴はそれを叱りつける
さらに皐月は「もっとやれ〜」などと言いながら喧嘩を盛り上げる
何も知らない方から見ると、ただの兄弟喧嘩のようにしか見えない
そのあまりにも普通の家の様な様子を見て空は正直拍子抜けしてしまう
「ったく…」
亜蓙冴はビニール袋を叶殊に押し付ける
思ったより重かったのか呻きながら受け取った
亜蓙冴は空に向き直り、歩き出す
「行くぞ」
それだけ空に言うと、再び出口に向かって行く
「は、はい」
「空」
ふと名前を呼ばれて振り返る
そこには、皐月がいた
「頑張ってね」
親指を立てながら応援した
その優しさに一段と気合が入る
「はい!」
空は先に行く亜蓙冴の背中を追う
(絶対に、『Night Lily』に加入するんだ…!)
黒い瞳が鋭くなる
そして、任務に行く二人はまだ気付いていなかった
この先に、何が待ち構えているのかを。
街の片隅の港には巨大な倉庫が並んでいる
その一番隅にある倉庫から、物騒な物音が響いていた
中には、銃を持ち、武装している人間が少なくても二十はいた
そして、その中心には縛り付けられた少女がいる
少女は怯えており、今にも恐怖に泣き叫びそうだ
積み上げられたコンテナの頂上に、その人物はいた
その人物は、眼下に広がる様子を、ただ静かに見ていた
錆びてぼろぼろになった天井の隙間から、月明かりが漏れる
月明かりが人物を照らす
「…そろそろ来るかな」
人物の髪が夜風に靡く
その瞳には、何も映ってはいなかった
コメント
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お疲れさまです、第六話読みました! 空くんが皐月さんに頭を撫でられて姉を思い出すシーン、すごくじんときました。「もう二度とこんなことされると思ってなかった」っていう心の声に、彼の孤独がぎゅっと詰まってて…。その後、亜蓙冴さんと叶殊さんの兄弟喧嘩みたいな日常に拍子抜けする空くんの様子も、ほっこりしました。 「絶対に加入するんだ」と決意するラスト、この先が気になりますね!頑張ってほしいです🌷