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僕は教え子である真希に告白した。返事はいらない、といったものの、本当は返事を聞くのが怖かっただけなのかもしれない。というかたぶんそうなのだろう。せめて少しだけでも意識してほしいと思って告白したのに、自分のほうが意識しているし、真希はいつも通りだし。なんというか自分だけ意識してるしているみたいで恥ずかしい。まず真希に告白したことさえ間違っていたんじゃないかと思うこともある。一度しかない、やり直せない青春はあっという間に過ぎ去っていく。その青春を奪うに等しいことを僕はしているのではないだろうか。普段クズだの馬鹿だの言われてはいるが・・・。しかしこの気持ちにふたをしようとしてもふさがらないことも消し去ることもできないと、僕は知っているのだ。
「まーき」
「なんだよ」
「あれ、どっかでかけるの?上着着てるけど」
「どこにも出かけねーけど」
「じゃあなんで?」
「全部洗濯してて、仕方なく上着だけ着てきた」
「へー」
・・・ちゃんと着てきただけいいか・・・真希だったらなんか腰巻きで部屋から出てきそうというか、なんというか。
そういえば真希はペットボトルを持ってるけど。
「飲み物買ってたんだ?」
「そーだよ」
「僕おごろうか?」
「いい。人に借りは作りたくねえよ」
一回奢ったくらいで借りだなんてずいぶんご丁寧な子。
「じゃあ、悟さんありがとうって言ってくれたらパーにしてあげる」
「はあ?言わねえよ、んなこと」
あっさり切り捨てられてしまった。まあ絶対言ってくれないだろうってことはわかってたけどね。
「デートした仲じゃん」
「はあっ!?」
ぼっ、という効果音が正しいようなそんな勢いで顔が赤く染まっていく。振り向いた真希に顔を殴られそうになって、すぐに無限を張った。
「デート、とか!してねーから!お前が一方的に!誘ったんだろーが!!」
可愛い。
「可愛い」
「はあ!?可愛くねーよ!!」
どうしよう、かわいいがあふれている。
「可愛いよ、真希」
「うるっせえな!次言ったら殺す!」
真希らしい照れ隠しだ。顔を真っ赤にした、それも自分の好き子にそんなこと言われても可愛いとしか思わないんだけどな。
「じゃあじゃあ、僕になんか買ってよ」
「自分で払えよ」
「だって悟さんありがとうって言ってくれないんでしょ?」
「誰が言うかよ!?つーかお前のことそんな風に呼んだことねーだろうが!」
「じゃあ真希の初めてを僕がもらうんだね」
「語弊を生むいい方やめろ」
そして次の日の授業中。自習にして僕は教卓の前に椅子を持ってきていつの任務かも忘れたような報告書を仕上げる。
単純にめんどくさい。
「ダウト!」
「おっかか~」
「うっそ!?棘さんほんとに!?」
「しゃけ!」
「叫ぶなうるさい!」
・・・自習してないですね、はい。別に構わないんだけど。自習でも普段の座学でも、結局駄弁って授業にならない。
「僕も混ぜて~!」
「おかか」
「お前は駄目だ」
「棘も真希もそういってるから駄目だな」
「報告書飽きたから代わりにやってよ」
「やらねーよ。自分でやれよ」
「つーかだれがやるかよ」
「おかか、高菜」
ボロ負けだ。こういうときだけ・・・じゃないけど一致団結しちゃってさ。まったく教師にやさしくない生徒たちだ。
「じゃあ真希、手伝ってよ」
「あ?何を?」
「いいからついて来てよ」
そして向かった先は談話室。
「はい、そこ座って」
おとなしく座っているけれど、こっちを見てくれる気配がない。でも、そんな仕草でさえ悪態をついているようでかわいらしくて仕方ない。
「妬いた」
「はぁ?」
「真希がパンダたちとだけ遊んでて、妬いた」
僕とも遊んでよ、という意味を込めて。
「教師と一緒に遊ぶのは小学生までだろ」
「そうなの?じゃあ、恋人は?」
ぴくり、と真希の肩が浮いた。いつぞやの告白を思い出したのだろう。
「・・・こ、恋人じゃねえし」
「忘れちゃった?僕は真希のことす「いいから黙れ!」
真希はこめかみに手を添えて、顔を真っ赤にしていた。いつもの真希からは想像もできないような年相応の女の子のような反応。
「真希、遊んでよ。僕と」
「あそ、ぶ、って・・・」
「なんでもいいよ。僕と一緒にいて」
「・・・じ、じゃあ!筋トレ!」
「筋トレは・・・やめようよ・・・」
「お、真希戻ってきた」
おかえりー、とパンダが真希に言う。真希はおう、とだけ返して、パンダのほうを見はしない。
「何してたんだ~?」
「えー、秘密ー」
パンダの問いに、僕は適当に答えて真希の顔を見る。
腹の底から喜びが湧き出てくるような感覚。本当に幸せだ。
「ツナツナ、高菜?」
真希、顔赤くない?
棘の言葉に顔をさらに隠すように手を添えて
「んなことねえよ」
といった。嘘吐き。真っ赤なくせに。
しかしまあ、これでしばらくは良い夢が見られそうだね。
stay tuned.