テラーノベル
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四人は倉庫へ逃げ込んだ。
カキが扉を閉め、マサカゲが内側から簡易ロックをかける。
アオノは倉庫の奥へ進み、棚に置かれていた道具を次々と確認していった。
「ここなら迎撃できる」
「プリン四個で、どうして戦争になるんだよ……」
マサカゲが頭を抱える。
「食べ物の恨みは深いんだよ!」
カキが叫ぶ。
「恨まれるようなことをした自覚はあるんだね」
ミステーが言った。
「あるけど、謝る気はまだない!」
「それは反省していない」
「細かいことはいいんだよ!」
アオノが棚から道具を下ろしていく。
強吸引の掃除機。
クッション製の盾。
ゴム製の模擬ナイフ。
お玉。
フライパン。
そして、防音室の機材を吊るすために使われている滑車とロープ。
マサカゲの顔から血の気が引いた。
「おい。最後の二つは使うなよ」
「安全装置を装着すれば問題ない」
アオノが淡々と答える。
「問題しかないだろ!」
「でも、これならメバルちゃんを――」
カキが言いかける。
その瞬間、倉庫の外から足音が聞こえた。
ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
メバルの声が響いた。
「そこにいるのは分かってるよ」
「……どうする?」
マサカゲが小声で尋ねる。
「沈黙」
アオノが答えた。
四人は一斉に口を閉じた。
倉庫の外も静かになる。
数秒。
十秒。
やがて、扉の向こうからK-Tの声がした。
「開けろ」
低い声だった。
メバルが少し離れた場所で、ため息をついている気配がする。
「ねえ、もう出てきたら?」
「まだ話し合いの余地がある!」
カキが叫んだ。
「なら、扉を開けて」
「それはできない!」
「どうして?」
「俺たちにも誇りがあるからだ!」
「プリンを食べたことへの?」
「そう!」
マサカゲが頭を抱える。
「肯定するな!」
扉の外で、しばらく沈黙が続いた。
K-Tが一歩、扉へ近づく。
そして――
ドンドォン!
倉庫の扉が大きく震えた。
四人が跳び上がる。
ドンドォン!
さらに強く、扉が叩かれる。
K-Tの声が響いた。
「はよ開けんかいゴラァ!」
四人は一斉に叫んだ。
「大阪府警かな!?」
「誰が大阪府警なの!?」
メバルの声が飛んでくる。
「Kさん、言い方!」
「必要だった」
「必要じゃないよ!」
「開けさせるために必要だった」
「もっと普通に言えば開けるって!」
「本当か?」
「たぶん!」
K-Tは扉の前で腕を組んだ。
「では、もう一度言う」
ドンドォン!
「はよ開けんかいゴラァ!」
「だから大阪府警かな!?」
カキが叫んだ。
ミステーが小声で呟く。
「制服が見える」
「見えないだろ!」
「心の中に」
「それはもう何でもありだよ!」
メバルは扉の前へ歩み寄った。
「Kさん、私が話すから」
「分かった」
「みんな、今すぐ出てきて。怒ってるけど、まだ話し合いで済ませるから」
「本当か?」
カキが尋ねる。
「本当」
「竹刀は?」
「持ってるけど、使わない」
「Kさんは?」
「刀とトンファーを持ってる」
「使うのか!?」
「必要なら」
K-Tが答えた。
「使わないで!」
メバルがすぐに言う。
K-Tは少し考えた。
「分かった」
「本当に?」
「メバルが言うなら」
倉庫の中に、妙な沈黙が落ちた。
ミステーが扉越しに言う。
「K-Tは、メバルの言うことだけ聞く」
「今そこを拾わないで」
メバルの声が少し低くなった。
アオノは掃除機を持ち上げる。
「扉が開いた場合、最初に吸引する対象は誰にする?」
「俺以外!」
カキが即答した。
「いや、使うなって言ってるだろ!」
マサカゲが叫ぶ。
「しかし、武器は準備されている」
「武器じゃない。掃除機だ」
「強吸引仕様」
「なおさらだよ!」
扉の外で、メバルがギターケースを床に置く音がした。
K-Tの声が少し低くなる。
「メバル、ギターを置く必要はない」
「戦うときに邪魔になるからね」
「俺が持つ」
「Kさんが?」
「傷つけさせない」
その言葉に、倉庫の中にいたアオノとミステーが反応した。
アオノが扉へ近づく。
「ギターなら、こちらで預かる」
「結構です」
メバルが即答した。
「なぜ?」
「今は、あなたたちに預けたくないから」
「信用が低下している」
「自分で分かってるなら、扉を開けて謝って」
「謝罪は戦略的撤退と同義ではない」
アオノが答える。
「よく分からない理屈を作らないで!」
カキは模擬ナイフを握り直した。
「よし、俺が時間を稼ぐ!」
「何をするつもりだ?」
「扉を開けて突撃する!」
「それは時間を稼ぐとは言わない」
「俺たちの誇りを守るんだ!」
「だから、その誇りは何なんだよ!」
カキが扉の鍵へ手を伸ばす。
その瞬間、K-Tがガラケーを開いた。
画面には倉庫内の監視カメラ映像が映っている。
「カキ」
「な、何だよ」
「三歩下がれ」
「どうして分かる!?」
「見えている」
「カメラ、いつの間に!?」
アオノが天井を見上げた。
「監視カメラは、倉庫の隅に設置されている」
「最初から言えよ!」
「言う必要がなかった」
「今すぐ必要になっただろ!」
K-Tはガラケーを閉じた。
「アオノ。掃除機を置け」
「拒否する」
「ミステー。お玉を置け」
「これは、最後の星」
「置け」
ミステーはお玉を胸元で握ったまま、扉を見つめた。
「K-Tは、怒っている?」
「怒ってるよ!」
メバルが答えた。
「私も怒ってる!」
ミステーは少し考えた。
「では、怒っているメバルを見ているK-Tは、さらに怒っている」
「分析を続けないで!」
K-Tが扉へ手を置いた。
ドンドォン!
「最後に聞く」
低い声が倉庫内へ響く。
「謝るか」
「断る!」
カキが答えた。
「プリンの代金を払うか」
「……それは払う」
「なら、出てこい」
「でも、反撃はする!」
カキが模擬ナイフを構える。
メバルが呆れたように言った。
「どうして最後まで余計なことを付け足すの?」
「俺たちには意地があるから!」
「意地でプリンは買えないよ」
そのとき、アオノが掃除機のスイッチを入れた。
ごおおおおおおっ。
倉庫の中に強烈な風が巻き起こる。
カキのシャツが吸引口へ引っ張られた。
「アオノ! 俺も吸われてる!」
「対象として認識した」
「味方だろ!」
「現在の位置関係では判別できない」
「判別しろ!」
倉庫の外では、メバルの髪も風に煽られた。
K-Tはすぐにメバルの前へ立ち、風を遮る。
「Kさん、私は大丈夫!」
「ギターが倒れる」
「そっち?」
「そっちも」
K-Tは片手でギターケースを押さえ、もう片方の手で扉の取っ手を握った。
メバルが慌ててK-Tの腕をつかむ。
「待って。扉を開けたら、掃除機が飛び出すかもしれない」
「問題ない」
「問題あるよ!」
「では、三つ数える」
「何で開ける前提なの!?」
K-Tは淡々と数え始めた。
「三」
「待って待って!」
「二」
「話し合おう!」
「一」
「早い!」
K-Tが扉を引いた。
同時に、アオノが掃除機の向きを変える。
吸引口がK-Tへ向いた。
しかしK-Tは、扉が開く直前に身体を横へ滑らせた。
掃除機は誰もいない場所を吸い込み、代わりに倉庫内のクッションと新聞紙をまとめて吸い寄せる。
「ごおおおおおおっ!」
カキの身体も引っ張られた。
「アオノ! 今度は俺が本当に吸われてる!」
K-Tは掃除機のコードを踏み、トンファーで本体の側面を軽く叩いた。
掃除機の向きが変わる。
吸引口がアオノへ向いた。
「……計算外」
アオノの髪と服が一斉に吸い寄せられる。
ミステーのお玉も手から離れ、掃除機の横へ飛んでいった。
「星が吸われる」
「実況してないで止めて!」
マサカゲが叫ぶ。
K-Tは掃除機の電源を切った。
静寂が戻った。
倉庫の中には、クッションに埋もれたカキ、服を乱したアオノ、床に座り込んだマサカゲ、そしてお玉を拾い上げるミステーがいた。
メバルは扉の前に立ち、竹刀を肩へ乗せる。
「もう一度聞くね」
四人が顔を上げた。
「謝る?」
カキがゆっくり手を上げる。
「……ごめんなさい」
「誰に?」
「メバルちゃんと、Kさんに」
マサカゲも続けた。
「勝手にプリンを食べて悪かった」
アオノは少し考えた。
「所有権の確認を怠った」
「それ、謝ってる?」
「改善の意思はある」
ミステーはお玉を床へ置いた。
「甘いものを盗むと、甘くない結末になる」
「今のは謝罪なの?」
メバルが尋ねる。
「たぶん」
K-Tは四人を見渡した。
「プリンを買いに行け」
「はい……」
四人が立ち上がる。
そのとき、アオノがメバルのギターケースへ視線を向けた。
「そのケースは、俺が持つ」
「いいよ。自分で持つから」
「重い」
「慣れてるよ」
「指も痛んでいる」
「だからって、触っていい理由にはならないでしょ」
メバルが一歩下がる。
K-Tが間に入った。
「俺が持つ」
アオノはK-Tを見る。
「なぜ、あなたが?」
「必要だから」
K-Tはメバルのギターケースを受け取った。
メバルは一瞬だけ迷い、それから小さく頷いた。
「ありがとう、Kさん」
「問題ない」
ミステーがその様子を見つめる。
「K-Tは、メバルの近くにいる」
「今はギターを持ってるだけだよ」
「それだけ?」
「それ以上でも、それ以下でもない」
K-Tは低く答えた。
その声には、抑え込まれた女性的な響きが混じっていた。
ミステーはその音を聞き分けるように、少し首を傾ける。
メバルは気づいた。
だが、何も言わない。
カキが玄関へ向かいながら振り返る。
「なあ、プリンを買いに行くのはいいけどさ」
「何?」
「戻ってきたら、もう怒ってない?」
メバルはにっこり笑った。
「買ってきたものを見てから決める」
「怖い!」
K-Tがギターケースを肩に掛ける。
そして四人へ視線を向けた。
「走るな」
「分かった」
「逃げるな」
「分かった」
「武器を持つな」
四人は一斉に黙った。
K-Tの目が細くなる。
「持っているな」
カキが背中に隠していた模擬ナイフを取り出した。
マサカゲは盾を置いた。
ミステーはお玉を置いた。
アオノは掃除機を倉庫へ戻した。
メバルが竹刀を軽く振る。
「じゃあ、行こうか」
四人が玄関へ向かう。
その背後で、K-Tが低く呟いた。
「次に勝手に触ったら」
アオノとミステーが振り返る。
K-Tは二人を見た。
「プリン以外も没収する」
「何を?」
カキが尋ねる。
K-Tは少し考えた。
「全部」
四人は青ざめた。
メバルだけが、K-Tの隣で小さく笑っていた。
「Kさん、それはちょっと怖いよ」
「必要だから」
「その言葉、便利に使ってない?」
「必要だから」
二人の声が重なり、玄関へ向かう廊下に静かに響いた。
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コメント
1件
えええ第2話もめっちゃ面白かった!!笑いすぎてお腹痛いwwプリン4つで戦争勃発とかカオスすぎるだろ!しかも「はよ開けんかいゴラァ」からの「大阪府警かな!?」の流れが最高すぎるwww でも最後のK-Tの「全部没収」の台詞、ちょっとゾクッとした…メバルちゃんだけ笑ってるのエモいなあ。二人の距離感がじわじわ縮まってる感じがたまらん!次回も待ちきれないよ〜🌸