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その頃の僕は、今よりずっと能天気だった。
新しいゲームを見つければ飛び込み、知らない人がいれば話しかけ、ブロキシコーラを片手にワールド中を走り回る。
そんな普通のRobloxライフを送っていたある日。
僕は奇妙な噂を聞いた。
「見たか? Guest666」
「呪われるらしいぞ」
「アカウント消されるって聞いた」
「ハッカーなんだろ?」
「近づくなよ」
好き勝手言われているその人物が少し気になった。
だから探してみた。
そして見つけた。
ワールドの隅っこ。
誰も寄り付かない場所。
黒い服。
赤い角付きの黒い帽子。
そして名前。
Guest666
彼は一人でベンチに座っていた。
誰とも話さない。
誰も話しかけない。
近くを通ったプレイヤーたちは、まるでモンスターでも見るみたいな顔で避けていく。
僕は少しだけ眉をひそめた。
(なんだそれ)
別に普通じゃん。
角はちょっと怖いけど。
ほんのちょっとだけ。
たぶん。
きっと。
⸻
僕は黒いキャップを被り直した。
緊張するとついやる癖だ。
そして。
歩いた。
一歩。
また一歩。
近づくたびに心臓が変な音を立てる。
なんでだろう。
知らない人に話しかけるなんていつものことなのに。
でも。
目の前まで来ると。
思ったより怖い。
近い。
背高い。
目つき鋭い。
なんか怒ってそう。
帰ろうかな。
いや帰らない。
帰るな僕。
頑張れ僕。
いけ僕。
そして僕は言った。
「ね、ねえ、一緒に遊ばない?」
見事に声が裏返った。
⸻
沈黙。
五秒。
十秒。
十五秒。
長い。
長すぎる。
なんだこの時間。
死ぬ。
僕は死ぬ。
⸻
シクサーは完全に固まっていた。
まるで回線落ちしたNPCみたいに。
微動だにしない。
目だけが僕を見ている。
怖い。
やっぱり帰ろうかな。
その時。
「……あ?」
ようやく声が出た。
でも。
なぜか顔が真っ赤だった。
耳まで赤い。
怒ってるのかと思った。
実際ちょっと睨まれた。
「何だよ急に」
「え?」
「何で話しかける」
「え?」
「何で俺なんだよ」
「え?」
僕は三回くらいえ?と言った。
だって意味が分からない。
⸻
「だって暇そうだったし」
「は?」
「一人だったし」
「……」
「僕も暇だったし」
「……」
「あと友達欲しかったし」
「……」
シクサーはさらに固まった。
どうしたんだろう。
バグかな。
⸻
やがて彼は顔を逸らした。
「お前」
「うん?」
「変なやつだな」
「よく言われる」
「普通近寄らねえだろ」
「なんで?」
「俺はGuest666だぞ」
「知ってる」
「ハッカーだって噂されてる」
「噂じゃん」
「……」
「実際ハッカーなの?」
「違う」
「じゃあいいじゃん」
即答だった。
⸻
今度はシクサーが黙る番だった。
まるで僕がとんでもないことを言ったみたいに。
変な人だな。
⸻
「そうだ」
僕は思い出したように言う。
「僕はヌーブ」
「……」
「君は?」
「Guest666」
「呼びにくい」
「は?」
「長い」
「長くねえだろ」
「じゃあシクサーでいいや」
「何でだよ」
「666だから」
「意味分かんねえ」
「今日からシクサー」
「勝手に決めるな」
「シクサー」
「やめろ」
「シクサー」
「おい」
「シクサー」
「……」
⸻
三回目くらいで。
彼は諦めた。
小さくため息をつく。
「好きにしろ」
「やった」
「やってねえよ」
「シクサー」
「……」
「シクサー」
「聞こえてる」
「シクサー」
「うるせえ」
でも。
少しだけ。
本当に少しだけ。
口元が笑っていた。
⸻
僕は彼の腕を掴んだ。
「じゃ、行こう!」
「ちょっ」
「レースゲームやろう!」
「引っ張んな!」
⸻
そのまま僕は走り出した。
Guest666は文句を言いながらついてくる。
でも。
手を振り払うことはしなかった。
⸻
その時の僕は知らなかった。
これから先。
何百時間も一緒にゲームをして。
何千回も笑って。
何度も喧嘩して。
何度も仲直りして。
そして誰より大切な存在になることを。
⸻
ただその時は。
友達ができたことが嬉しくて。
シクサーと走りながら笑っていた。