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#悪役令嬢
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「亜香里! 本当に亜香里なんだな……! 生きて、生きてたんだな……!」
まことが感極まって泥だらけの手でエレノア(中身亜香里)の華奢な肩を掴む。外見は、麗しい最高級の公爵令嬢が、下町の薄汚い作業員に物凄い勢いで詰め寄られているという、完全に治安の悪い事案そのものの構図だ。
「感動の再会は後よ! それよりまこと、頭の中に変なアナウンスが流れてきて、24時間以内にあんたとキスしないと消滅するって言われたんだけど!?」
「俺の頭にも流れた! ここじゃ人目が多すぎる、こっちだ!」
周囲の職人や平民たちが「おい、何事だ……」「公爵令嬢様がさらわれるぞ!」と騒ぎ始める中、まことはエレノア(中身亜香里)の細い手首を強く引き、現場から猛ダッシュで逃亡した。そして、ダボの作業場の裏手にある、誰も来ない薄暗い木造の物置の奥へと滑り込み、バタンと扉を閉めた。
埃っぽく、古い工具や藁が転がる狭い空間。隙間から差し込むわずかな木漏れ日が、エレノアのドレスの美しい刺繍を淡く照らしている。
外見は「下町の男が、身分違いの令嬢を連れ込んで乱れている」最悪の不純異性交遊。だが中身は、消滅の呪いを回避するための必死の生存戦略である。
「エレノアの姿だけど、本当に亜香里なんだな……。生きてて、本当によかった……!」
まことは感極まりながらも、頭の中の消滅カウントダウンに急かされ、エレノア(中身亜香里)の華奢な両肩を掴んだ。――その美しい桜色の唇に、自らの唇を強引に重ねた。
衣服が擦れる微かな音と、不意を突かれて小さく漏れた亜香里の甘い吐息が、埃っぽい物置に響く。
その瞬間、二人の脳内に、チリンと清涼な鈴の音が響き渡り、光のパスで強固に繋がれた感覚が走った。
『――条件達成。第一ノルマ【口づけ】が正常に処理されました。フラグの維持を確認』
「ぷはっ……! なによこれ、最悪なんだけど! 久しぶりに再会した幼馴染といきなりキスなんて、どんな少女漫画よ!?」
エレノアの顔のまま、耳まで真っ赤にしてドレスの裾をバタバタと叩いて怒鳴る亜香里。しかし、世界のバグは彼らに息をつく暇すら与えない。
「それよりまこと、もっと大変な情報がこの身体の脳みそから流れてきたの。明日から私、学園で『取り巻きのモブ令嬢たちを率いて、ヒロインのマリアを校舎裏に呼び出して泥水をぶっかけるイベント』をやらなきゃいけないみたい。しかも、お昼の12時半に設定されてるのよ……!」
「12時半って、完全に魂がシャッフルされてる時間帯じゃねえか!!」
本来のゲームのシナリオ通りにいじめイベントをこなさなければ、世界の修正力で世界ごと消される。だが、12時半に亜香里がどの肉体に飛ばされているかは完全にランダムなのだ。
「じゃあ、明日もし私が別の身体に行ってたら、エレノアの身体(中身は別の誰か)が勝手にマリアを苛めるってこと!?」
「いや、中身が本来のキャラクターなら自動でいじめるかもしれないけど……もし中身が王太子ギルバートだったらどうなるんだ?」
「王太子がエレノアのガワでマリアに泥水をぶっかけるの!? 地獄じゃん!!」
まこと(固定)と亜香里(シャッフル対象)の、生存をかけた異世界サバイバルは、初手から脳がねじ切れんばかりの難易度へと跳ね上がっていくのだった。