テラーノベル
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物置での緊迫した作戦会議の後、学園の時計塔が午後2時の鐘を鳴らした。
キーン、コーン、カーン、コーン――。
「あ……っ、頭が割れる……!」
エレノアの肉体に入っていた亜香里が、激しい眩暈に頭を押さえてうずくまる。世界の境界線が再び虹色に歪み、魂の「引き戻し(リセット)」が開始されたのだ。亜香里の魂はエレノアの肉体ごと学園へと強制送還され、まことは下町の路地裏にぽつんと取り残された。
世界線の崩壊は免れた。しかし、シャッフルタイム中に起きた「現実」は、本来の肉体の持ち主たちの精神を、夜な夜な容赦のない悪夢として汚染していくことになる。
◇
その日の夜、王立学園の豪華な男子寄宿舎。
「今回のシャッフルでマリアの肉体に入っていた」本来の王太子ギルバートは、冷たい汗を大量に掻いて、絹のベッドから勢いよく跳ね起きた。
「はぁ、はぁ、はぁっ……! くそ、また、あの忌々しい悪夢か……!」
お昼の12時から2時までの二時間、彼にはまったく記憶がない。だが、その「空白の時間」に、まことと亜香里が下町で繰り広げた「物置のキス」の残滓が、睡眠中に『断片的な触覚の記憶』としてギルバートの脳内に直接フィードバックされていたのだ。
夢の中で、自分(王太子)の精神は、なぜかマリアの可憐な身体を通して、あの泥臭い下町の作業員に力強く物置の壁に押しつけられ、熱烈に唇を重ねられている。唇に残る、生々しい肉の温もりと、傲慢なまでの男の支配欲。
(私はこの国の次期国王だぞ!? なぜ名も知らぬ平民の男に物置で抱かれ、唇を奪われる夢など見て……あろうことか、目覚めた後に私の胸が、こんなにも激しく、気高く脈打っているのだ……ッ!?)
羞恥と激しい自己嫌悪、そして未知の感覚(吊り橋効果による勘違いのときめき)への恐怖で、ギルバートはシーツを血が出るほど強く握りしめ、ガタガタと震えるしかなかった。王太子の倫理観と性的指向の羅針盤が、このバグによって、取り返しのつかない深淵へと狂い始めていた。
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#悪役令嬢