テラーノベル
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ビルの壁面を滑り降り、志摩が手配していた黒塗りのワンボックス車に放り込まれた。
タイヤが悲鳴を上げ、急発進の衝撃で俺の体は床に叩きつけられる。
背後からは、組員たちの怒号と、何発もの乾いた銃声が遠ざかっていくのが聞こえた。
「……志摩。警察が暴力団の若頭を拉致して、タダで済むと思ってんのか」
俺は口の中の鉄の味を吐き出し、座席に背中を預けた。
全身の傷が、アドレナリンが切れるとともにズキズキと痛み出す。
「拉致じゃない、保護と言え。それと、さっきも言ったが今の俺は『警察』じゃない。ただのクビ寸前の男だ」
ハンドルを握る志摩は、バックミラー越しに鋭い視線を送ってきた。
「お前が親父を殺せば、そこで終わりだった。真実は闇に消え、お前はただの反逆者として一生追われる身になっただろうよ」
「今だって似たようなもんだろ」
「いや、違う。お前にはまだ、カードが残っている」
車は都心の喧騒を離れ、入り組んだ下町の倉庫街へと入っていく。
志摩が車を止めたのは、看板も出ていない錆びついたシャッターの前だった。
中に入ると、そこには最新のモニターや通信機器が所狭しと並んでいた。
「ここが俺の……いや、俺たちの『潜伏先』だ。警察のネットワークからも独立している」
志摩はモニターの一つを叩いた。
そこに映し出されたのは、榊原組が関与していると思われる、海外のペーパーカンパニーのリストだった。
「拓海が消された本当の理由は、これだ。榊原組は単なる暴力団じゃない。政財界の『汚れ物』を洗浄する巨大な洗濯機になっている。そして、その洗濯機を回しているのは、お前の親父だけじゃない」
志摩の言葉に、俺の眉間が歪む。
拓海は、その巨大な洗濯機の歯車に挟まって、潰されたというのか。
「和貴。お前の親父……榊原英雄は、ある男と定期的に連絡を取っている。そいつは、お前のよく知る人物のはずだ」
志摩が画面を切り替えると、一人の男の写真が大きく表示された。
その顔を見た瞬間、俺の心臓が不快な拍動を刻んだ。
それは、組の顧問弁護士であり、俺が幼い頃から知恵を借りてきた、兄貴分のような存在だった。
「……まさか。あいつが?」
その時、倉庫の入り口で鈍い衝撃音が響いた。
志摩が素早く腰の銃を抜く。
防犯カメラの映像には、全身を黒いタクティカルウェアで固めた集団が
音もなくシャッターをこじ開けようとしている姿が映っていた。
「早いな……。警察の特殊部隊か?」
「いや、違う。動きがもっと荒っぽい。……『掃除屋』だ。お前の親父が、本気で俺たちを消しに来た」
志摩が予備のマガジンを俺に放り投げる。
「黒嵜、死ぬ気で戦え。ここを生き延びなきゃ、復讐の入り口にすら立てないぞ」
俺はドスを捨て、志摩から渡された拳銃を握り締めた。
手のひらに伝わる冷たい金属の感触が、俺に告げている。
もう、後戻りできる道なんて、この世界のどこにも残っていないのだと。
「……安心しろ。地獄の入り口なら、もうとっくに通り過ぎた」
俺は銃の安全装置を外し、暗闇の中、最初の敵に向けて引き金を引いた。
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