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「土蜘蛛。痛い思いをさせてごめんね」
「な、ぜ。このような仕打ちヲ……全て、タマモを助けるタメなのにッ……!」
土蜘蛛は私を前にして、その体をグラグラと揺らしながら大きな瞳を私へと向けた。
土蜘蛛の腹をちらりと見れば新しい肉が盛り上がり、瞬きの間に失われた部分が再生していた。
私は静かに自分の指先を見た。
さっき、地面に指を突き立て、爪が割れたのに今はそんな傷どこにもなかった。
きっと大きな怪我を負ってもこの体なら、土蜘蛛と同じように、すぐに回復するんだろうなと思った。
「なぜ、我を拒む……っ! ヒトなど愛しても、意味がナィ」
そう言った土蜘蛛の瞳から大粒の雫がはらはらと溢れた。雫はボトボトと地面を濡らす。
「土蜘蛛……」
私はその様子を見て土蜘蛛へとそっと手を伸ばし、土蜘蛛の鋭い脚の一本を抱きしめた。
土蜘蛛に触れた刹那に、土蜘蛛の感情が私へと洪水のように流れて来た。
それは遥か太古の日本。
土地を奪われて、ただ静かに暮らすことも出来なくて、死んでしまった行く当てのない人達の無念が土蜘蛛を形成した。
土蜘蛛となってその無念を人へ復讐するが、それは終わらない殺し合いの始まり。
そんな中で、私や鵺などの力を持った妖と出会った。それは、ほんのひとときの交流。
人から排斥された物達が気まぐれに寄り添った、たわいのない時間。
そんな時間はあっという間に終わり、いつしか鵺も玉藻も消えた。
土蜘蛛はその時間が忘れられなかったと知った。
「そう、あなたは寂しかったのね……」
「あぁ、ァァ……ッ」
地面がまた濡れる。
私の頬にも涙が伝う。
土蜘蛛の気持ちがよくわかる。
私も人に追われて人を憎んだが、人によって救われた。
今世だって家族に冷たい仕打ちを受けたが、そんな私を救ってくれたのは人。鷹夜様だ。
私は人によっていつだって救われた。
しかし、土蜘蛛は誰にも救われず。かつていた仲間も消えてしまい。孤独に追い詰められた果てに──この時代に生を受けた私を、やみくもに求めたのだろう。
決して土蜘蛛のこれまでのことを肯定する訳ではない。ただ思うことは。
「私達、なんで妖に生まれてしまったんだろうね。人間に生まれて来たら、こんな想いをせずに済んだのに」
ごわついた硬い、土蜘蛛の脚を撫でる。その表面は悲しいぐらいに冷たかった。
そして私の周囲に炎を出現させると、土蜘蛛の体が警戒するようにびくりと揺れた。
「土蜘蛛。私と一緒に逝きましょう。鷹夜様の黒洞は痛みも何もなく、全てを刹那の内に消してしまう力。目を瞑っていて、その次に目を開けたら……きっと、私達。人間に生まれ変わっている」
「我が人間に……」
「そこで、やり直そう」
ね? と私も目を瞑り。炎を自分ごと土蜘蛛の体全体を優しく包み込んだ。
すると土蜘蛛は体をぶるぶると震わせたが「暖かい」と小さく言葉を漏らした。
「良かった。土蜘蛛。疲れたでしょう。ゆっくりと眠ろう……」
「あぁ……」
妖、二人。
私達は金色の炎に包まれた。誰にも邪魔されないように。誰もこの中に入って私達に触れないように、私は炎に願いを込める。
そうだ、十年前もこの炎に包まれた。
あの時も暖かさを感じた。
今も春の日差しのようで、穏やかだ。土蜘蛛も暴れる様子はなかった。
そんな中でも瞼の裏に出てくるのは鷹夜様。
私がいなくなったあと、私のことを忘れてもいいから、幸せになってほしいと思った。
あ、でも時たまは思い出して欲しいかも。
──それで十分。
そしてずっと元気でいて欲しい。食事もちゃんと食べて、たまには休んで欲しいとか……。
喫茶店。最後まで行けなかったから、それは来世で一緒に行きたいなと思った。
そうして暖かな炎のなか。ずっと鷹夜様の笑顔を思い浮かべるのだった。