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コメント
1件
うわあ……胸がぎゅっとなりました。千トが「戻ったら2人が危ない」って呟くところ、あの小さな背中にどれだけの覚悟があるんだろうって思いました。お揃いのキーホルダーだけ持って行く細かい描写も、すごく切なくて。右手と左手がまだ気づいてないのが余計に辛い……続きが気になりすぎます。丁寧な心理描写、とても好きです。
右手side
「……遅いですね、千ト」
ナイトアウル探偵事務所のリビング。
窓の外をしとしとと打ち付ける雨音を聞きながら、右手は静かに腕を組んだ。
普段ならこの時間には帰ってきている。
いつも送ってくるメールも来ない。
「だな、何かあったのか?」
左手は端末を弄る。
通り道の防犯カメラをハッキングして確かめているのだろう。
「防犯カメラに千トの姿はねぇな。」
「まだ施設にいるのでしょうか。」
「連絡はしたのか?」
「はい。ですが、まだ既読もついていません。」
そうやって左手と会話を交わした後、千トが向かった施設に行った。
ー施設ー
もう夜だからだろうか。
子供らは寝ていて、とても静かな空間だった。
綺麗に並べられた机には、たくさんの絵があった。
今日、千トと描いたのだろうか。
「こんばんは。」
「すみません、今は営業時間外でして…… 」
「遅くにすみません。申し遅れましたが、私の名前は、星喰 右手。千トの記録者です。」
「!そうでしたか、これは失礼しました。」
「んで、千トが今日、ここに来たろ?」
「ええ……ですが、1時間前程に帰られました。 」
「……!」
「そうですか……」
「ありがとうございます。」
おかしい。
千トは施設を1時間前に出ているはずなのに、なぜ……
「まさか、誘拐か……?」
左手が私に問う。
「……可能性はありますね。」
とりあえず、街中を探してみよう。
そう思い、私と左手は紋躯町を探し回った。
……しかし、そう簡単に見つかることはなかった。
千トside
「これと、これと、あとは……」
(あの後、1度家と事務所に行って荷造りをして来いって言われたけど……)
「右手くんと左手くんが帰ってきたらどうしよう……」
そう思い、少しだけ手の動きを速める。
棚を漁ってたその時、あるものが出てきた。
2人とお揃いにしたキーホルダーやタオル……
その他にも、2人との思い出を感じるものが出てきた。
「……」
千トは、大分迷ってから1番思い出の強いお揃いのキーホルダーをカバンの端のポケットに入れた。
これでよし、と一言。
そして、玄関に向かう。
「ごめん。もう右手くんと左手くんとはいられない……」
事務所のリビングの扉の、その前。
冷え切った朝の空気の中に、小さな名探偵の呟きが溶けていく。
そして、最後に一言。
「さようなら、2人とも。」
そう呟いて、千トは重いリビングの扉をゆっくりと閉めた。
カチャリ。
小さな音が、やけに大きく響いた。
その向こう側にあるのは、いつもと変わらない事務所。
右手のデスク。
左手がよく座っているソファ。
3人で食事をするテーブル。
そして――
「……っ」
千トは扉に背を預け、その場にしゃがみ込んだ。
行きたくない。
本当は、行きたくなんてない。
もう一度だけ扉を開けて、
「ただいま」
と言いたい。
そうすれば、右手がいつものように、
『おかえりなさい、千ト。』
と言ってくれる。
左手なら、
『遅ぇぞ、千ト。』
なんて言いながらも、きっと安心した顔をする。
そんな光景が、簡単に想像できてしまう。
「……だめ、だよ……」
千トは唇を噛んだ。
「戻ったら……2人が危ない……」
それだけを胸に刻み込んで、立ち上がる。
玄関に置いてあった靴を履き、震える手でドアノブに触れる。
もう振り返らない。
そう決めた。
決めた、はずだった。
「……っ」
けれど、最後に一度だけ。
千トは振り返った。
誰もいないリビング。
そこに置かれた、3人分のマグカップ。
壁に貼られた、施設の子供たちから貰った絵。
そして、右手と左手と撮った写真。
「……ごめん」
目に涙が溜まる。
「ほんとに、ごめんね……」
そして千トは、事務所を出た。
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