冬の気配が、町を覆い始めていた。
吐く息は白く、夕暮れがあっという間に訪れる。
花純が町を離れる日が、ついに明日に迫っていた。
その日の放課後、七人はいつもの秘密基地に集まっていた。
けれど、今日は笑い声が響かなかった。
ただ静かに、薪がぱちぱちと燃える音だけが響いていた。
宏光:「……もう、明日だ」
宏光が誰に言うでもなく、呟いた。
高嗣:「まだ信じられない」
二階堂が腕を組み、うつむいたまま言った。
裕太:「花純ちゃんがいなくなるなんて、考えたくない」
太輔:「俺だって」
藤ヶ谷も声を落とした。
宮田は、落ち着きなく座ったり立ったりを繰り返していた。
俊哉:「やっぱやだよ! 引っ越しやめてよ!」
子どもらしい叫びが、秘密基地の天井にこだました。
花純はそんな宮田を見つめて、少しだけ笑った。
花純:「私だって……みんなと一緒にいたいよ」
そう言いながらも、目尻に涙が滲んでいく。
千賀が、絞り出すように言った。
健永:「……俺たち、もう会えないのかな」
渉:「会えるよ」
渉が力強く答えた。
宏光:「20年後に、必ずまた会うって約束したでしょ。あの箱もあるし」
けれど、心の中では全員が分かっていた。
――20年という年月は、子どもたちには途方もなく長い。
本当に会えるのか、不安で仕方なかった。
その時、裕太が立ち上がった。
裕太:「花純ちゃん」
彼女の名前を呼ぶ声は、少し震えていた。
裕太:「俺……本当はずっと聞きたかった。花純ちゃんは、俺たちのこと、どう思ってる?」
花純は一瞬、息を止めた。
七人が自分に想いを寄せていることには、もう気づいていた。
でも――答えられなかった。
花純:「私は……」
唇が震え、言葉が出てこない。
裕太の目が、不安げに揺れた。
その視線に耐えられなくて、花純は無理に笑った。
花純:「……みんなが大好きだよ。それだけ」
その答えに、七人の胸が痛んだ。
けれど誰も、それ以上は追い詰めなかった。
夜も更け、帰り道。
花純は一人で歩きながら、冷たい風に頬をさらしていた。
花純:「玉森くん……本当は、あなたが大好きなのに……」
小さく呟いたその声は、冬の闇に吸い込まれて消えた。
――次の日、彼女は町を去る。
それは七人にとって、そして花純にとっても、忘れられない**「さよならの前夜」**だった。