テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
523
はむ
61
101
30
『ずっと好きなのに、私じゃないんだね。』第10話「もう、頑張れないよ」
夕方、午後5時45分。
コンビニの近くで座っていた私は、スマホを握りしめていた。
「……っ、はぁ……」
頭が痛い。
気持ち悪い。
それに、さっきから身体がどんどん重くなっていく。
「……大丈夫……」
自分に言い聞かせて、立ち上がろうとした。
でも。
「あ、れ……?」
足に力が入らなかった。
もう一度、地面に手をついて身体を起こそうとする。
なのに、膝ががくがくして、うまく立てない。
「……っ、なんで……」
怖かった。
さっきまでは、ゆっくりでも歩けていたのに。
もう少し休めば帰れると思っていたのに。
指先まで力が入らなくなってきて、スマホを持つ手も震えていた。
「……まっつん……」
電話はまだつながっていた。
『○○? どうした?』
「……ごめん……なんか……」
声がかすれる。
「……力、入んなくなってきた……」
その瞬間。
『……は?』
松川くんの声が変わった。
『○○、今どこにも移動すんなよ。絶対ひとりで歩くな』
「……うん……」
『意識ははっきりしてる? 息苦しくないか?』
「……うん、でも……頭、痛くて……』
『わかった。今、助けを呼ぶからな』
いつもの落ち着いた声。
でも、電話の向こうから聞こえる物音で、松川くんが慌てているのがわかった。
『及川! 救急車呼ぶぞ! こいつ、力が入らなくなってきたって!』
「……え……?」
及川さん。
来てくれているの……?
『わかった! 俺、場所向かうから!』
及川さんの声が聞こえた。
『○○! 聞こえる!? 俺、及川!』
「……及川、さん……?」
『そう! 今、まっつんと一緒にいるから! お願いだから、無理して立とうとしないで!』
「……でも……」
『でもじゃない!』
少し強い声。
びくっと肩が震えた。
けれど、すぐに及川さんは声を落とした。
『……ごめん。怒ってるんじゃないよ』
『お願いだから、今は自分の身体を大事にして』
その言葉を聞いた瞬間、涙がこぼれた。
「……っ、うん……」
もう、無理だった。
大丈夫って笑うことも。
平気なふりをすることも。
「……こわい……」
小さく、本音が漏れた。
『……○○?』
「……身体に、力が入らなくて……こわいよ……」
電話の向こうで、及川さんが息を呑む音がした。
『……大丈夫、ひとりにしないから』
『今、助けてもらえるように動いてるから。電話も、つながったままにしておくからね』
私は震える手でスマホを耳に当てた。
本当は、会いたかった。
ずっと、会いたかった。
でも、こんなときにまで及川さんに頼ってしまう自分が嫌だった。
「……及川さん……彼女さん、いるのに……」
『……今はそんなこと考えなくていい』
「……でも……」
『○○』
優しい声で、名前を呼ばれた。
『今は、ちゃんと助けてもらおう。それだけでいいから』
……ずるいよ。
そんなに優しくされたら、また好きになっちゃう。
ううん。
もう、とっくに大好きなのに。
*数分後*
遠くから、車の音が聞こえた。
松川くんが急いで駆け寄ってくる。
「○○!」
「……まっつん……」
松川くんは私の前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か!? ……いや、大丈夫じゃねえよな。ごめん、今、救急車呼んだから」
私の顔を見て、松川くんは心配そうに眉を寄せた。
「無理して喋んなくていいからな」
「……うん……」
少し遅れて、及川さんも駆けつけた。
「○○っ!」
息を切らしながら、私のそばにしゃがみ込む。
「……っ、顔色……」
及川さんの手が、私の肩にそっと触れた。
「ねえ、聞こえる? 俺のことわかる?」
「……うん……及川さん……」
「……よかった」
及川さんは、ぎゅっと唇を結んだ。
いつもの余裕のある笑顔は、どこにもなかった。
「……なんで、こんなになるまで我慢したの……」
「……ごめん……」
「謝らなくていいよ……」
及川さんの声が、かすかに震えた。
「……お願いだから、もう無理しないでよ……」
そのとき、救急車のサイレンが近づいてきた。
松川くんが救急隊員に状況を説明する。
私は質問に答えようとしたけれど、頭が痛くて、うまく言葉が出てこなかった。
救急隊員が状態を確認し、慎重に対応してくれる。
及川さんは、ずっと私のそばにいた。
「……及川さん……」
「ん? ここにいるよ」
「……来てくれて、ありがとう……」
及川さんは一瞬、苦しそうな顔をした。
そして、私の手にそっと触れた。
「……当たり前でしょ」
小さく、そう答えた。
「……大事な人なんだから」
…………え?
頭が痛いのに。
身体に力が入らないのに。
その言葉だけは、はっきり聞こえた気がした。
大事な人。
でも。
あなたには、彼女がいるんだよ。
その言葉の意味を考える間もなく、私は救急隊員に支えられ、救急車へと運ばれていった。
及川さんと松川くんが、心配そうにこちらを見つめていた。
私は、もう笑えなかった。
ただ、及川さんの顔を見つめた。
……ねえ。
どうして、そんな顔するの?
私が好きなのは、ずっとあなたなのに。
——つづく。
コメント
1件
ああ、めっちゃしんどい回だった……💦 主人公が「大丈夫」って言い続けて、限界迎えて倒れるとこ、リアルすぎて胸が締め付けられたわ。 及川さんが「大事な人なんだから」って言うシーン、彼女いるのにその優しさは反則だって思った。でもそれだけ主人公のこと想ってるんだよね……。 次、どうなっちゃうんだろう。続きが気になりすぎる🔥