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『ずっと好きなのに、私じゃないんだね。』第11話「ねえ、どうして泣いてるの?」
——あの日、私は救急車で運ばれた。
頭が痛くて、身体に力が入らなくて。
及川さんの声を聞きながら、病院へ向かったことまでは覚えている。
でも、その先は。
何も、覚えていなかった。
*1ヶ月後・病院*
「…………ん」
……まぶしい。
ゆっくりと目を開けると、白い天井が見えた。
「……え?」
知らない部屋。
いや、病院……?
腕には点滴がつながっていて、身体にはいろいろな機械がついている。
「……ここ、どこ……?」
声がかすれていた。
喉がひどく乾いている。
身体を起こそうとしたけれど、思うように力が入らなかった。
「……っ、いた……」
頭がぼんやりする。
何があったんだっけ。
学校から帰っていて。
具合が悪くなって。
まっつんに電話して……。
「……あ」
思い出した。
及川さん。
及川さんが、来てくれたんだ。
『大事な人なんだから』
あの言葉が、頭の中によみがえる。
「…………」
……会いたい。
そう思った瞬間、病室のドアがゆっくり開いた。
「……え?」
入ってきた人と、目が合った。
その人は、手に持っていた飲み物を落としそうになった。
「…………は?」
数秒間、固まっていた。
そして。
「……○○?」
震える声。
見慣れた顔。
少し伸びた髪。
信じられないものを見るような目。
「……及川、さん……?」
及川さんだった。
及川さんは、持っていた荷物を椅子に置くと、私のところへ駆け寄ってきた。
「○○……? ねえ、本当に……?」
目を見開いて、私の顔を覗き込む。
「……起きたの?」
「……うん……」
そう答えると。
及川さんの目から、ぽろっと涙が落ちた。
「…………え?」
「……っ、ばか……」
及川さんは片手で顔を覆った。
「……ばか、ほんとに……っ」
肩が震えていた。
泣いている。
あの及川さんが。
いつも余裕そうに笑っている及川さんが。
私の前で、泣いていた。
「……及川さん……?」
「……よかった……っ」
ぎゅっと、私の手を握る。
「……ほんとに、よかった……」
その声があまりにも苦しそうで、私は何も言えなくなった。
「……え、なんで……?」
ようやく出てきた言葉は、それだけだった。
及川さんは顔を上げた。
涙で濡れた目が、まっすぐ私を見つめていた。
「……なんでって……」
「……私、どのくらい寝てたの……?」
及川さんの表情が変わった。
「…………」
そして、ゆっくり答えた。
「……1ヶ月」
「…………え?」
「……1ヶ月だよ」
…………。
「……いっ、かげつ……?」
声が裏返った。
「え、待って……1日とかじゃなくて……?」
及川さんは、静かに頷いた。
「……うん」
「…………うそ」
頭が真っ白になった。
1ヶ月?
私、1ヶ月も眠っていたの?
学校は?
みんなは?
家族は?
何より。
「……及川さん……」
「……ん?」
「……私、どうなってたの……?」
及川さんは、握っていた私の手に少しだけ力を込めた。
「……病院に運ばれてから、ずっと治療を受けてたんだよ」
「…………」
「詳しいことは、お医者さんから説明してもらおう。今は、無理して話さなくていいから」
いつもみたいに軽い口調ではなかった。
ひどく優しくて。
ひどく、悲しそうだった。
「……ごめんね」
思わず謝った。
「……心配、かけちゃったね」
その瞬間。
「……っ、違う!」
及川さんが声を上げた。
びくっと肩が揺れる。
及川さんは、はっとしたように口を閉じた。
「……ごめん。大きい声出して」
そして、私の手を両手で包んだ。
「……謝らないでよ」
「…………」
「……お願いだから、もう謝らないで……」
また、涙がこぼれた。
「……俺、ずっと……」
言いかけて、言葉が止まる。
「…………ずっと?」
及川さんは唇を噛んだ。
「……ずっと、怖かったんだよ」
「……え?」
「……目、覚まさなかったらどうしようって……」
その声を聞いた瞬間、胸が苦しくなった。
「……毎日、来てたの?」
小さく尋ねる。
及川さんは、少しだけ笑った。
「……うん」
「……毎日?」
「……うん」
「……部活は?」
「……行ってたよ。終わったら、ここに来てた」
「…………彼女さんは?」
その言葉を口にした瞬間。
及川さんの笑顔が消えた。
「…………」
あ。
聞いちゃいけなかったかな。
「……ごめん、変なこと聞いて……」
「……別れた」
「…………え?」
及川さんは、私から目をそらさずに言った。
「……彼女とは、別れたよ」
心臓が跳ねた。
でも。
嬉しいなんて、思っちゃいけない。
私が眠っている間に、何があったのかわからないのだから。
「……そっか」
それだけ答えた。
すると、及川さんが苦しそうに笑った。
「……ねえ、○○」
「……なに?」
「……俺さ」
少しだけ、沈黙が流れた。
「……お前が眠ってる間、何回も思ったんだ」
「…………」
「……あのとき、もっとちゃんと話せばよかったって」
及川さんの指が、私の手をそっと握り直す。
「……お前が『好き』って言ってくれたとき、俺……何も答えなかったじゃん」
「…………うん」
「……本当は、嬉しかったんだよ」
息が止まった。
「……すごく、嬉しかった」
及川さんの目が、また潤んだ。
「……なのに、俺、自分の気持ちもわかってなくて……」
「…………」
「……お前がいなくなるかもしれないって思ったとき、初めてわかった」
及川さんは、私の手をぎゅっと握った。
「……俺、お前のこと……」
そのとき。
病室のドアが、勢いよく開いた。
「○○!?」
「……え?」
そこに立っていたのは。
松川くんだった。
その後ろには、岩泉さん。
ふたりとも、私の顔を見た瞬間、目を見開いた。
「……おい、及川! 起きたって本当か!?」
岩泉さんが駆け寄ってくる。
「……○○!」
松川くんも、泣きそうな顔で笑った。
「……お前、やっと起きたのかよ……!」
「……まっつん……岩泉さん……」
声を出した瞬間、ふたりとも顔をくしゃっとさせた。
「……ばかやろう……」
岩泉さんが私の頭をそっと撫でる。
「……心配かけやがって……」
「……ごめんなさい……」
「だから、謝んなって……!」
岩泉さんは顔を背けた。
……泣いてる。
岩泉さんまで。
松川くんは、私の顔を覗き込んだ。
「……頭、痛くねえか?」
「……ちょっと、ぼーっとする……」
「そっか。先生呼んでくる。無理すんなよ」
そう言って、松川くんは病室を出ていった。
岩泉さんも、私の肩を優しく叩いた。
「……みんな、お前が起きるの待ってたんだぞ」
「……みんな?」
「烏野も、音駒も。もちろん青城のみんなもな」
「…………っ」
涙が溢れた。
みんな。
心配してくれてたんだ。
1ヶ月も。
私が知らないところで、ずっと。
「……会いたい……」
ぽつりと呟いた。
「……みんなに、会いたい……」
及川さんが、そっと頷いた。
「……会えるよ」
そして、涙を拭ってくれた。
「……だから、今はゆっくり休もう」
優しい手。
優しい声。
ずっと好きだった人が、目の前にいる。
でも。
私は、まだ聞けていない。
さっき、及川さんが言いかけた言葉。
『俺、お前のこと……』
その続きは、何だったの?
及川さんは私の手を離さなかった。
まるで、もう二度と離したくないとでもいうように。
「……○○」
「……ん?」
及川さんは、泣きそうな笑顔で言った。
「……今度こそ、ちゃんと話すから」
「…………」
「……俺の気持ち、全部」
胸が、痛いくらいに鳴った。
だって。
まだ好きなんだもん。
1ヶ月眠っていたって。
どんなに傷ついたって。
私は今も、及川徹が大好きなんだから。
——つづく。♡
コメント
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**寺島あおいです🤍** 第11話、拝読しました。 1ヶ月もの眠りから覚めた瞬間の、及川さんのあの涙――本当に衝撃的でした。あのクールな及川さんが、声を震わせて「よかった」って……。毎日通ってたって告白も、もう、胸がぎゅっとなりました。 最後の「今度こそちゃんと話す」で、また続きが気になって仕方ないです。松川くんと岩泉さんの登場も、みんなの想いが伝わってきて泣けました。 続き、心待ちにしてます🌷