カテリナがマクガレスと一戦を始めたころ、ベルモンド、セレスティンも動き始めていた。
「むぐっ!?」
「悪いな」
見張りの一人に背後から忍び寄り、口を抑えて首をナイフで切り裂くベルモンド。
「ぐげっ!?」
「未熟者めが」
有刺鉄線を首に巻き付けて絞めながら骨を折るセレスティン。
「旦那、それエグいな」
「お嬢様からの頂き物でしてな。ナイフなどに比べれば速効性はありませんが、皮膚に食い込み離さず締め上げて折れば出血量を抑えられます」
事も無げに語るセレスティン。
二人は先程から手分けして支店周囲に居た柄の悪い見張り三人を密かに始末していた。
真夜中とは言え支店は明かりが灯されており、それ故に限られた光源を上手く利用すれば忍び寄るのもさほど苦ではなかった。
「次は店内か。真正面から踏み込むか?」
「お任せを」
セレスティンは笑みを浮かべると、支店の玄関に向かいドアを優しく叩く。
「夜分に失礼を、どうしてもお伝えしなければ行けないことがございます。どなたかいらっしゃいますかな?」
少し待つと、ドアが開いて柄の悪い男が顔を出す。
「何だ爺さん。こんな夜中に」
「いえ、実は先程金髪の少女を見かけましてな?確か手配書にある特徴と一緒でしたので、それをお伝えしようかと。こちらが連絡所でしたな?」
「なんだと?ここが連絡所なんて誰が言いやがった?」
「はて?手配書にそのように記載されておりましたぞ?」
「ちょっと見せてみろ」
男はドアを大きく開く。
「こちらに」
「どれだ?……!」
男の口にそっとナイフが差し込まれる。
「次は光りある道を」
そのまま喉を貫かれた男は悲鳴を上げることもなく脱力して、セレスティンは死体をゆっくりと地面に横たえる。
「静かに殺ったなぁ」
「さほど人は居ないようですな。このまま内部を探りましょう」
二人は静かに店内へ入り、先ずは一階を探索。
ベルモンドは寝室を見つけて、眠っている者三人を発見。
「悪く思うなよ」
「ーっ!」
眠っている三人に忍び寄り、一人ずつ静かに首を折っていく。
一方セレスティンは事務室に忍び込む。
「ふむ、これは使えますな。お嬢様も喜ばれる」
事務室を物色していたセレスティン、『ターラン商会』が『エルダス・ファミリー』に大量の武器を提供していた証拠となる書類を多数確保。それらを近くにあったバックへ丁重に納めた。
一階を掃討した二人は二階へ移動する。二階には二つの部屋があるだけだった。
「ありゃシスターの声か?」
女性の色気ある声が僅かに聞こえる。
「その様ですな。あちらの部屋は最後にして、あちらに参りましょう」
もう一つの部屋に密かに移動した二人は、そこで一人の紳士を見つける。
「何だ君たちは!?見張りはどうし……むぐっ!?」
「騒ぐなよ、旦那」
叫ぶ紳士をベルモンドが素早く後ろへ回り込んで拘束した。
「ふむ……もしや貴方がここの支店長ですかな?」
セレスティンは紳士の身なりを見て当たりを付ける。
「静かに喋ってくれよ。あんたが支店長か?」
ベルモンドは口を塞いでいた手を離しながら囁く。
「あっ、ああ……そうだ。君たちは?」
「あんたが手を組んだ組織の敵だよ。これだけで分かるだろ?」
「まさか、『暁』……!」
「おっと叫ぶなよ?長生きしたいだろ?」
ベルモンドはナイフを首に突き付けながら囁く。
「……これは協定違反だ。会長に報告するぞ」
「話せるじゃねぇか、旦那。その意気だぜ」
「さて、支店長殿。先程事務室からこのように興味深い書類を拝借しました。『エルダス・ファミリー』へ銃器を格安で提供している取引記録ですな?間違いはありませんかな?」
書類を見せ付けるセレスティン。あくまでも柔らかな口調で笑みを浮かべたまま尋問する。
「ーっ……私はなにも知らん」
「はぁ?」
ベルモンドは怒りを露にするも、セレスティンがそれを制する。
「ベルモンド殿。ふむ、存じ上げぬと。ならばこれは部下が勝手に、と言うわけですな?これほどの量を簡単に、独断で動かせる部下をお持ちなのですかな?しかも貴方の署名まである。これはこれで重大な問題では?」
「それは……」
「支店長殿、これは協定違反ですぞ。我々と『エルダス・ファミリー』は抗争中であることは貴方も承知している筈。正直に話していただければ、マーサ会長への口利きをお約束します」
「助けは来ないぜ、アンタだけだからな」
「……仕方なかったんだ。上からの指示だ。『エルダス・ファミリー』に武器を提供しろって」
「具体的には誰の指示ですかな?」
「それは分からない。私はただ指示に従っただけなんだ」
「指示書の類いは?」
「それもない、上からの指示だって使者が来て。もちろん書面がないなら信用できないって言ったんだが、直後に『エルダス・ファミリー』の連中が乗り込んできて。他の従業員はみんな連れ去られた」
酷く怯えた様子を見せる支店長。
「あんた、脅されてたんだな」
「何でも話す。だから、会長に取り成してくれ!私は商売をしたいだけなんだ!こんなことでこれまでの成果を失いたくない!」
「旦那」
「請け負いましょう。貴方の身柄は『暁』で預からせていただきます。宜しいですな?」
「ああ、頼む。死にたくない!」
証拠の書類と十六番街支店長を確保した二人は、カテリナが居るであろう部屋に向かう。
「これはまた、派手に殺ったな。っと、悪い」
ベルモンドはベッドの惨状を見て肩を竦める。そしてカテリナを見て目をそらす。彼女は生まれたままの姿であったからだ
「別に見ても構いませんよ。何なら一発ヤりますか?」
「いや、死体の側でヤる趣味はないかな」
「そのままでは風邪を引いてしまいますぞ。ふむ、こちらを」
カテリナは台無しになったドレスを捨てており、セレスティンが代わりにクローゼットにあった町娘の衣服を取り出す。
「これですか。この際我が儘は言えませんね。そちらの成果は?」
「『ターラン商会』十六番街支店取引記録と、支店長の身柄を押さえましてございます」
「上出来ですね。では引き上げましょうか」
「そうだな、これで『エルダス・ファミリー』もおわりだ」
「古巣でしたか、感慨深いものがありますね?」
「まあな。けど、今は『暁』のベルモンドさ」
「では隠しておいた自動車で去りましょう。すぐに回します」
セレスティンが一礼して部屋を出る。
「ベルモンド、履き物はありませんか?」
「あるだろ?」
「ハイヒールは疲れるのです。いい加減疲れない靴を履きたい」
「そう言ってもなぁ……これしかねぇや。我慢してくれ」
ベルモンドはクローゼットから簡素なサンダルを出す。
「これでただの町娘ですね。次からはこちらにしましょうか」
「だな、ドレスよりは目立たねぇさ。行こうぜ」
「ええ、シャーリィ達の帰りを待ちましょう。いや、あの娘なら帰り付いているかもしれませんね」
セレスティンの回した数少ない自動車に乗り込みカテリナ達は十六番街から出る。それはこの騒ぎの一つの節目となった。
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