ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。簡単な報告を済ませた私は、療養所へ移動していました。
私はドルマンさんが用意してくれた車椅子に座っていて、それをレイミが押してくれています。
「二週間前に一度来ましたが、『大樹』は凄いですね。それに強い魔力を感じる」
「うちの象徴ですからね」
それに、自分の魔力を自覚したからか『大樹』に宿る魔力を感じ取ることが出来ました。確かにマーサさんが気にするだけの事はあります。とてつもない魔力ですね。
「あの『大樹』は元からあるのですか?」
「九歳のころ、マーサさんから苗を買ったんですよ」
「八年であれですか!?」
「まさにこの木何の木?ですね」
「日立?」
「ひたち?」
「あっ、いえ。なんでもありません。凄いですね、お姉さま」
レイミが何か言いましたが、聞かれたくない様子ですし誤魔化されておきますか。
「ええ、『大樹』のお陰で農作物が作れるようになりました。それは大切な資金源です」
「周りの環境さえ変えてしまう『大樹』、気になりますね」
「不思議な木ですよ」
私達は和やかにお喋りをしながら療養所へたどり着きました。そこで負傷した皆を労いながら、本命の場所へ。
「よう、ボス。それに妹さん」
「ロメオ君?」
エーリカはベッドで眠っていて、側にはロメオ君が立っていました。
「エーリカの容態は?」
「悪くはないな。内蔵をやられてないか心配だったが、薬草を煎じて飲ませた。多分大丈夫な筈だ」
「そうですか」
良かった。
「エーリカさん……」
「レイミ、今は休ませてあげましょう」
「あんたも絶対安静だからな?ボス。風呂もやめとけ。傷口に障る。今日は清拭で我慢しな」
「それは残念です。みんなの事お願いします」
「来て早々大忙しだよ、全く」
ぼやきながらも何処か嬉しそうなロメオ君に皆を任せて、私達は療養所を後にしました。
「レイミはどれくらい居てくれますか?」
「この騒ぎが収まるまではここに居ますよ。それ以降もしばらくは滞在させてください」
「もちろん、ここはレイミの家でもあるのですから。お義姉様は許可してくれますかね?」
「あんまり長いと泣いちゃうかもしれませんから、手紙は書きますよ。意外と子煩悩なんです、あの人」
優しげな笑みを浮かべるレイミ。あのお義姉様が、意外なものです。
「落ち着いたら改めてご挨拶に伺わないといけませんね」
レイミを拾って今まで育ててくれたご恩は必ず返さないと。
「それよりも、お姉さま。もう休みましょう。身体の清拭は任せてください」
「レイミはお風呂に入ってください、私は大丈夫ですから」
「いえ、お姉さまと居たいんです。駄目ですか?」
ふぉっ!?レイミの上目遣い!?これに抗える存在は居ませんね。居たとしたら、排除ですね。
「例え世界が滅ぼうとも断ることなどありません。出来ればずっと側に居てほしいのですが」
「それは出来ません。リースさんから受けた恩に報いるまでは。お姉さまだって恩知らずな妹は嫌いでしょう?」
「レイミが恩知らずなわけがありません。むしろその場合は恩を返すに値しない相手だということです」
当たり前ですよ。息を吸うことと同じくらいに。
「ふふっ……ええ、それでこそお姉さまですね」
姉妹はそれまでの空白を埋めるように語らい続ける。いつも無表情なシャーリィは、花の咲いたような可愛らしい満面の笑みを終始浮かべていた。
その日の夕方。途中『ターラン商会』本店に寄って、捕縛した支店長をマーサに引き渡したカテリナ達。
「では、尋問を任せます。出来る限りの情報を抜き取ってください」
「分かってるわ、カテリナ。うちのゴタゴタに巻き込んでしまったわね」
「シャーリィは早く貴女が『暁』に加わることを望んでいますよ。まだ悪あがきをするのですか?」
「悪あがきも出来ないような女、シャーリィも願い下げでしょう?危険が迫るまでは何とか踏み留まるつもりよ。今回の騒ぎを引き起こした黒幕を掴んで見せるわ」
マーサとカテリナが語らう。
「下手を打って死なないように。既にマーサはシャーリィの大切なものです。死んだら私が殺しにいきますから」
「滅茶苦茶じゃない。シャーリィにはもう少し待つように伝えて。私に反旗を翻してる奴等の背後をもう少しで掴めそうだから」
「手早くお願いしますよ」
「分かってる。それとその服、意外と似合ってるわよ」
「うるさい」
マーサと別れた三人は自動車を駆って農園を目指す。だが時間はかかり到着した時には夜となっていた。
「やれやれ、我が家に帰ってこられたな」
「感慨深いものがありますな。おや、ご覧を」
セレスティンが指した先にある『大樹』がうっすらと光を放っている姿が見える。
「うぉっ!?光ってる!?」
「益々何の木か分からなくなりましたね。まあ、シャーリィならこれも面白がっているでしょうけど」
「お帰りなさいませ!」
兵士が三人を出迎える。
「おう、帰ったぜっと!」
カテリナがベルモンドを押し退ける。
「先に教えなさい、シャーリィは戻りましたか?」
「はっ!今朝方お嬢様方は無事に生還されました!」
「それは良かった。さっ、行きますよ」
「真っ先に聞きたかったんだな」
「お嬢様も良い『母』をお持ちになりましたな」
そんなカテリナを見て笑みを浮かべる二人は、逸るカテリナを追いかけてゆっくりと農園へと入っていく。
最初に三人は防衛部隊の司令部に顔を出す。その三人を司令部に詰めていたマクベスが迎えた。
「先ずは無事の帰還、喜ばしいことです。お三方、怪我はなさそうですな」
「まあな、お嬢達はどんな感じだ?」
「お嬢様方は皆疲労困憊、特にお嬢様は軽くないお怪我をなされています」
「やっぱり無傷とはいかねぇか」
「シャーリィの傷は深いのですか?」
「右肩を撃ち抜かれ、また裸足で移動したのか足にも怪我が多く見られました」
「手当ては?」
「幸いなことに、海賊衆が戻りましてな。エレノア殿の弟殿が医療に心得があり専門的な治療を行っております。ご不在の間に発生した戦闘による負傷者の治療にも従事しておりますな」
「それは良いタイミング、お嬢様も常々医師の必要性を説かれていましたからな」
「遂に念願叶ったか」
「それで、シャーリィ達はどうしました?」
「お部屋にて休まれておられます。あの自主訓練に熱心なルイス殿も休まれているほどです。皆様も先ずはお休みを。明日には二週間の出来事を擦り合わせる予定ですので」
「分かりました。叩き起こすつもりはありませんし、私達も今夜は休みましょう」
「だな」
「では、私も少しばかり仮眠を」
こうして『暁』は全ての人員が農園への帰還に成功する。それは『暁』が『エルダス・ファミリー』、より正確に言えば黒幕のひとつ『闇鴉』の罠から脱したことを意味していた。
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