テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
その夜も、いつものようにヒョヌはジホの隣で目を閉じていた。
けれど、眠ったふりをしているだけだった。
(……逃げなきゃ……)
指先がゆっくりとシーツを掴む。
ジホの寝息が静かに聞こえる。
(今度こそ……)
ヒョヌは少しずつ体を起こす。
だがその瞬間、背中に冷たい金属が当たった。
「……どこ行くんだよ。」
ジホの声は低くて静かだった。
振り返ると、薄暗い部屋の中で、
紫の髪が微かに光を反射している。
ジホの右手には小さな拳銃。
それをヒョヌの背に押し付けたまま、ジホは笑っていた。
「何度言ったらわかる?ヒョヌ。」
指が頬に触れる。
優しく撫でるその手の先に、冷たい銃口がある。
「お前は俺のものだって。」
「……やめ……ジホ……」
ヒョヌの声は震えていた。
ジホの瞳は笑っているのに、
その奥には何もなかった。
「外に出たいのか?」
ヒョヌは答えない。
ジホは笑ったまま、引き金に指をかける。
「大丈夫だよ。お前がどこに行こうとしても、俺が全部止めてやる。」
そのまま銃をテーブルに置き、ジホはヒョヌの頬に口づけた。
「もう誰にも渡さない。誰もお前を見れないようにしてやる。」
ジホはゆっくりとポケットから小さな瓶を取り出す。
(……何だ……)
ヒョヌの腕を掴み、無理やり注射針を突き立てる。
「やめろ……ジホ……!」
「大丈夫、大丈夫。眠ればすぐ楽になる。」
薬が血管に流れ込む感覚が、ヒョヌの意識を引き剥がしていく。
「ずっと、俺だけのものだからな。」
ジホの声が遠くなる。
まぶたの裏に、冷たい闇が広がっていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!