テラーノベル
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春の匂いがした。 桜の花びらが、風に乗って校門の向こうへ流れていく。
新しいクラス。 新しい教室。 新しい一年。
何もかもが、初めてのはずだった。
「……なのに、なんでこんなに懐かしいんだろ」
窓際の席で、勇斗はひとり呟いた。 机に頬杖をつきながら、ぼんやりと外を眺める。
どこかで見たことがある景色。
この学校も。 この桜も。 この春の空気も。
全部、知らないはずなのに。 胸の奥だけが、ずっと前から知っているような気がしていた。
その日の放課後。
勇斗は昇降口で、ひとりの男子生徒とぶつかった。
「ごめん」
「あ、いや。こっちこそ……」
顔を上げる。 目が合った。 その瞬間だった。
――ざあっ。
風が吹いた。 桜の花びらが舞う。 そして、頭の中に知らない景色が流れ込んできた。
夕暮れの河川敷。 五人で並んで歩く背中。 笑い声。 誰かが転んで、それをみんなで笑っている。
そして最後に――
ひどく泣いている誰か。
「……っ」
勇斗は思わず目を閉じた。
「大丈夫?」
目の前の男子が心配そうに顔を覗き込んでいる。
「……名前」
「え?」
「君の名前、何?」
「柔太朗だけど……」
その名前を聞いた瞬間。 勇斗の目から、一粒だけ涙が落ちた。
「……やっぱり」
「何が?」
震える声で、勇斗は言った。
「俺のこと……知らない?」
「…知らない、けど」
柔太朗は困ったように笑う。
「なんか、初めて会った気がしない」
その言葉に、勇斗は笑った。 泣きながら。
「俺も」
その夜。 二人は何時間も話した。
最初は、学校のこと。 好きな食べ物。 趣味。 くだらない話。
けれど、話しているうちに少しずつ思い出していった。 何度も同じ夢を見ていたこと。 五人で過ごした記憶。 自分たちが、今まで何度も出会ってきたこと。
「……俺たち」
勇斗が呟いた。
「また、生まれ変わったのかな」
柔太朗はしばらく黙っていた。
そして、小さく笑う。
「たぶん」
「じゃあ……」
勇斗が顔を上げる。
「他の三人もいるのかな」
その瞬間、二人の間に沈黙が落ちた。 もちろん、いる。 なぜか、そう確信できた。
五人だった。 いつだって五人だった。 何度、人生が変わっても。 何度、名前が変わっても。 何度、時代が変わっても。
いつも五人で出会っていた。
「探そう」
勇斗が言った。
「今度こそ、五人でいよう」
柔太朗は少しだけ驚いた顔をして、それから笑った。
「ああ」
その約束から、一週間後。 また一人、記憶を取り戻した。
太智だった。
そしてさらに数日後。
舜太も二人の前に現れた。
「……やっぱり、皆やったんか」
そう言って笑った舜太の目には、涙が浮かんでいた。
四人は、久しぶりに揃った。 それだけで、胸がいっぱいになった。
でも。
「……あと一人」
太智がぽつりと言った。 三人が顔を見合わせる。 そして、勇斗が頷いた。
「うん」
四人には、はっきりと分かっていた。 自分たちには、もう一人いる。 いつも一緒だった。 誰よりも大切だった。
五人目。
「……絶対、見つけよう」
勇斗はそう言った。 誰も反対しなかった。
ただ一人だけ。 四人がまだ知らない場所で。 その名前を聞いた少年が、静かに目を伏せていた。
そして、誰にも聞こえない声で呟く。
「……来ないで」
春の風が、窓を揺らした。 その声は、誰にも届かなかった。
コメント
1件
うわ、これめっちゃ刺さったわ……! 「初めて会った気がしない」ってセリフ、もうそれだけで泣ける。 五人で輪廻してる設定、まだ2話目なのに確かにそこにある「繋がり」が丁寧に描かれてて、胸がギュッてなった。 最後の「来ないで」って声、なんでやねんマジで気になる!続き読みたい🔥
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