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「まず、手がかりが少なすぎる」
机の上に広げられた四人分のスマートフォンを見ながら、柔太朗が言った。
放課後の教室。 窓の外では、桜が少しずつ散り始めている。
「名前は?」
太智が尋ねる。
「覚えてる」
勇斗が答えた。
「顔も?」
「もちろん」
「じゃあ、誕生日は?」
「……」
「そこまでは覚えてないんか」
柔太朗が笑った。
「いや、前世の記憶なんだから仕方ないでしょ」
「でもさ」
太智がスマートフォンを覗き込む。
「今の名前も分からへんなら、探しようがないよな」
四人とも黙った。 確かに、その通りだった。
前世での名前は覚えている。 顔も、声も、笑い方も。 好きだったものも、嫌いだったものも。 五人で過ごした時間も。 最後の日のことも。
なのに――
今世の彼について知っていることは、何一つなかった。
「……でも、絶対にいる」
勇斗が言った。
「なんでや?」
舜太が聞く。
「分かるから」
勇斗は胸元に手を当てた。
「俺たちが再会したときもそうだった。見た瞬間に分かっただろ?」
三人が頷く。
「だったら、あいつもきっと俺たちを見つける」
「……そうか?」
太智が小さく呟いた。 その声には、ほんの少しだけ不安が混じっていた。
「俺たちのこと、覚えてへんかったら?」
「それでも探す」
即答だった。 勇斗は窓の外を見た。
「今度こそ、五人でいたいから」
その言葉に、誰も何も言わなかった。
五人。
その言葉だけで、胸の奥が温かくなる。
前世では当たり前だった。 学校帰りに集まって。 くだらない話をして。 誰かが落ち込めば、残りの四人が騒いで笑わせて。 喧嘩をしても、次の日には何事もなかったように隣にいた。
――ずっと、そうだと思っていた。
あの日までは。
「……ねえ」
柔太朗が口を開く。
「俺たち、最後のときに何か約束してたよね」
三人が顔を上げる。
「何だったっけ」
「……」
誰も答えられなかった。 記憶はある。 なのに、その部分だけが妙に曖昧だった。
五人で笑っていたこと。 最後に別れたこと。 誰かが泣いていたこと。 そこまでは覚えている。
でも、その夜に交わした言葉だけが思い出せない。
「まあ、ええやん!」
舜太が笑った。
「また五人になれば思い出すやろ!」
「そうだね」
その日から、四人は探し始めた。
前世で住んでいた場所。 覚えている学校。 好きだった店。 記憶に残っている景色。 何か一つでも、今世の彼に繋がるものがないか。
けれど、一週間経っても。 二週間経っても。
何も見つからなかった。
そして五月。 四人が諦めかけた頃。
「……これ、見てや」
太智がスマートフォンを差し出した。
そこには、一枚の写真。 地域の大会の集合写真だった。 たくさんの人が写っている。
その端に、一人の少年がいた。
顔は少し遠い。 それでも。 四人には分かった。
「……嘘」
柔太朗の声が震える。
「見つけた……」
勇斗は何も言わなかった。
ただ、画面を見つめていた。
そこにいる。 確かにいる。 ずっと探していた五人目。
名前は――仁人。
今世でも、同じ顔だった。 少しだけ大人びていて。 少しだけ違う雰囲気をしていて。
それでも、間違えるはずがなかった。
「会いに行こうや」
舜太が言った。
「うん」
四人はすぐに立ち上がった。 ようやく会える。 また五人になれる。 そう思っていた。
その頃。
仁人は自分のスマートフォンに届いた一枚の写真を見ていた。 そこには、四人の姿が写っている。 笑っている。 昔と何も変わらない笑顔。 仁人は画面を伏せた。
会いたい。 本当は、今すぐ会いたい。 名前を呼びたい。 もう一度、あの四人の隣に戻りたい。
でも。
それをしてはいけない。 仁人は静かに目を閉じた。
そして、前世の最後に自分が願った言葉を思い出す。
――来世では、会いませんように。
「……約束したんだから」
誰に言うでもなく、そう呟いた。 四人が自分を見つける前に。 自分から、離れなければならない。
そうしなければ――
また、同じことが起きる。
仁人はスマートフォンを鞄の奥へしまった。そして、四人から届いていたメッセージを、開かないまま消した。
コメント
1件
うわあ…今回、すごく切なかったです🥀 四人がやっと仁人を見つけたのに、仁人側で「会いませんように」って願ってたのが、もう…胸がぎゅってなった。 「また同じことが起きる」って何か知らないけど、絶対に嫌な予感する。 五人でいたい気持ちと、離れなきゃって気持ちの両方が痛いくらい伝わってきて、続きが気になりすぎます。