テラーノベル
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「ねぇ、この間めめが帰ってきた時、話し、できた?」
唐突に聞いてみたくなった。
「あー、この間な。全然時間あらへんかったから、特に何も話せんかった。ラウは?」
「俺も。本当は次のライブの相談したかったんだけどね」
「まぁいつでも連絡できるしな。帰ってくるまで、もう半年切ってんねんしな。」
そうだねぇ、そう言って二人で思わず夜空を見上げた。
「そうだ、こーじくん。写真、撮ってよ。」
「今?カメラ、今日ないで?」
スマホでいいよ、と言って、海辺をバックにポーズをとってみる。
こーじくんはすぐにスマホのカメラを向けてくれた。
次第に乗ってきたこーじくんは、いろい注文をつけてきた。
「もっと右に寄ってみて。そう、ええね。」
「じゃあ、今度は一緒に撮ろうよ。俺、自撮り棒持ってるから」
そういって右腕を伸ばすと、「なんやそれ」と言って、こーじくんが爆笑してくれた。
自分のスマホを持って、こーじくんと並ぶ。
こーじくんの顔が俺の顔に近づいてくると、鼻先にふんわりといい香りが漂ってきた。例の香水の香り。
とても心地いい香り…。
レインボーブリッヂをバックにツーショットを撮っっていると、ふざけたこーじくんが、口唇を尖らせて、ちゅーしようとしてきた。
だから。
俺は思わずキスをする。
「う…うぉい!びっくりしたぁ!!」
「へへ、いいじゃん。最初にしてきたのはそっちだし!」
普段は自分からひっついてくるくせに、こういう時は動揺してソワソワしているこーじくん。
本当に子犬みたい。
可愛いなぁ。
抱きしめてみてもいいかな…。
ぎゅっと抱きしめると俺の方が大きいから、こーじくんの身体がすっぽりとおさまってしまう。
身体の強張りが、こーじくんの緊張を俺に教えてくれる。
「また休みができたら、一緒にご飯行こうね。」
「おぉ、ええね。行きたい店、あったら教えてな」
「うん。それで、こうやって二人でデートもしようね。」
「はは、デートか。おもろいこと言うやん。」
最後に思いっきり抱きしめてから、その身体を離してあげる。
ぷはぁとわざとらしく大きく息を吸って、こーじくんが振り返った。
「おっしゃ、そろそろ帰ろか。コーヒーのカップ、俺、捨てとくわ。それ、ちょーだい」
やっぱりこーじくんは気遣いを忘れない。
「ありがと」
そう言ってカップを渡す。
来た道を今度は二人で話しながら、歩く。
さっきと同じ砂浜を歩いているはずなのに、どうだろう。
とても軽く感じるではないか。
「さっきの写真、めめに送ってみよ?」
「しよしよ。加工してへんけど、ええか?」
もちろん、その方がリアルでいい。
めめはよっぽどのことがないかぎり、嫉妬なんてしない。
けど。
今日はどうかな。
「今、カナダ何時やろ…」
向こうは朝の十時頃か。
俺たちが加入した時に作った三人のグループチャットに、こーじくんが写真をアップする。
最後に俺が二人で撮った写真を付け加える。
「コメントなしやけど、まぁええか!」
「ええねん!ええねん!」
「でた!エセ関西弁!もう、やめぇ…」
また二人で意味もなくゲラゲラ笑い合う。
こんな楽しい夜はいつぶりだろう。
車に戻ると、俺はさっきと同じように助手席に座る。
こーじくんが運転席に座るまでの、ほんの一息ほどの時間に、俺はめめに追加の写真を送ってみた。
グループチャットではなく、めめ個人宛に。
どんな反応、するかな。
「ほな、いこか。」
深夜の街を起こさないよう静かに走り出す。
こーじくんのその声は、さっきまでの沈黙より少しだけやさしくて、俺は窓の外へ流れていく東京の灯りを、もっと好きになれそうな気がした。
高層ビルの窓明かりも、遠くのマンションのひとつひとつの部屋も、橋のたもとの街灯も、みんな夜の底で静かに瞬いている。
その光のあいだを、俺たちの車はただひとつの小さな影みたいに走っていく。
たぶん、人との距離は大きく縮まるものじゃなくて、こういう夜をひとつずつ重ねるうちに、気づかないくらい静かに形を変えていくのだろう。
ふと、夜空を見上げた。
雲の切れ間からのぞいた月は、欠けているくせに、少しも足りないようには見えなかった。
Fin
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memi(めみ)
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コメント
1件
今夜のエピソード、すごく好きでした。キスをした後のこーじくんの動揺と、それを見て「子犬みたい」「可愛い」と思う主人公の距離感がたまらないです。二人で写真を撮る流れから、最後にめめ宛てに個別で写真を送る仕掛けにもドキッとしました。欠けた月が「足りないようには見えなかった」という一文、とても美しくて何度も読み返しました。温かくて、切なくて、ぎゅっとなる夜でした🌙