藤澤さんにはそのあとなかなか会えなくて、阿部ちゃんにそれとなく聞いてみてもめめかぁ、ちょっと···と濁されてしまってチャンスもない、と思っていたけどその時は突然訪れた。
「あれ、目黒くん?」
「藤澤さん!えっ、こんな朝早く?」
「うん、朝の番組にね、数日呼んでもらってるの」
まさかこんなところで会えるなんて!
まだ本当に朝早いのにいつも通り元気いっぱい可愛さいっぱいの藤澤さん。
「朝早いの大変ですよね···夜まで仕事ですか?」
「うん、夜もお仕事ある···けど、途中お昼寝させてもらうから大丈夫なんだよ、昼間は自由なの···それに毎日じゃないし朝は得意だから」
それなら誘っても良いのか···?
夜とは言わない、せめてお昼くらいなら···?
「もし良かったら、お昼ご飯一緒にどうですか?」
「いいの?嬉しい、近くでいいならぜひ!」
よしっ!
思わず心のなかでガッツポーズする。
次の予定もあるさら時間と待ち合わせ場所を決めて一旦解散する。
ようやく一歩近づいた気がして俺はわくわくと仕事を進めた。
「藤澤さんっ···!おまたせしました!
」
テレビ局の玄関近くで待ってくれてた彼に駆け寄る。
「あ、目黒くん〜!お疲れ様、全然まってないよ」
ふにゃりと笑う笑顔に仕事の疲れも吹っ飛ぶ···あぁ、このまま連れて帰りたい。
「近くにおすすめの個室の和食のお店があって、そこでもいいなら···すぐ行けるんですが···」
好みとかも知らなくて勝手にこっそり予約してしまったけど、だんだん不安になって声が小さくなる。
「もちろん!目黒くんのおすすめのお店なんて嬉しい」
近くだけど騒ぎになるといけないのでタクシーに乗って移動する。
終始にこにこといろんなことを話してくれる彼が、少し話下手だなと思う俺にはありがたかった。
ご飯をもぐもぐ、という音がぴったりな食べ方で美味しそうに食べる姿も愛らしい。
食べ終えたところでどうしても聞きたかったことを聞く。
「あの、良かったらこれからもこうしてご飯とか行きたくて、連絡先って交換してもらえませんか?」
じぃっとそのきょとん、とした瞳を見つめる。
俺はきっと彼なら笑って受け入れてくれると思っていたからその答えにびっくりしてしまった。
「···ごめんなさい、勝手に連絡先交換しちゃだめなんだ」
「···?え、っと···勝手にって?」
ごめんねぇ、と申し訳なさそうな藤澤さんだけど俺は意味がわからなくてハテナでいっぱいになる。
「それはどういう···?」
「涼ちゃんはふらふらしてて危ないから勝手に連絡先とか交換しちゃだめ!···って元貴たちに言われてるの」
なんだって?
確かに可愛いけどもういい大人の彼にそんなとこまで束縛してんの?あのお二人。
「藤澤さんはそれでいいの···?」
「んー、うん。だって好きな人に嫌われなくないからね···」
「好きなひと···」
それってつまりどっちかを好きってこと?もしかして俺は告白どころか連絡先交換する前に失恋たってこと?
「ちなみに、どちらのことが?」
不躾だけど、気になるし。
そしたら満面の笑みで彼はあっさりと答えてくれた。
「どっちも!元貴も若井もおんなじくらい好きなの」
えへへ、と頬を桜色に染める彼はただの恋する乙女だ。
···俺の完敗です、っていうか勝負にもなってない。
「そっか···じゃあ、もしいいよって言われた時にはお願いします···」
絶対ない、あり得ないけど一応頼んでおこう。
そう思うと阿部ちゃんはあの2人から許可貰えたってことか、すごいな···。
「うん、ごめんね。けどランチ誘ってくれてありがとう、楽しかった!」
キラキラした笑顔がずるい。
けどこの人を俺のものにしようだなんて100年くらい早かったのかも。
トイレに行く、と伝えてお会計を済ませておいた俺に恐縮しまくってくれた彼とまたタクシーでテレビ局に戻る道中、 ふと、もちろん魅力的なのは百も承知でどこが好きなのか、それほどまでに彼が愛するのか聞いてみたくなった。
「あのお二人のどこが好きなんですか?」
「えっとぉ···2人とも僕に優しいし、辛い時はいつだって側にいてくれる···あと可愛いとかたくさん言ってくれて寂しい時は抱きしめてくれて···ギター弾いてる時とか歌ってる時とかかっこいいしねぇ、他にもいっぱいあるんだけど···」
うん、終わらなさそうな想像以上に甘い話にこっちが恥ずかしくなるのでそこらへんで止めておく。
「すごくよく分かりました···お二人も藤澤さんのこと大好きですよね···。あの!大丈夫なら、名前で呼んだらだめですか?俺のことをもめめって呼んでくれていいんで!」
「もちろん、めめ、なんて呼んでいいの?可愛いよね、嬉しい」
可愛いのはあなたです。
ドキドキしながら タクシーが着いて降りるとそこには例の過保護なお二人が俺たちを待ち構えていた。
「目黒さん、お疲れ様です。すみません、迎えに来ちゃって」
「涼ちゃん、ちゃんとお礼いった?ありがとうございます」
2人がさっと藤澤さんの両隣に立って鞄やジャケットを持ってあげている。
···彼氏じゃん。
俺はせめてもの抵抗でにっこりとアイドルスマイルを作ると藤澤さんの手を握る。
「いえ、こちらこそ。とーっても楽しかったです。会えてよかった···りょうちゃん、またね?」
「こちらこそ!ありがとうございました、またね···めめ?」
戸惑いながらも手を振ってくれる彼に手を振り返して俺も次の仕事へと向かう。
遠くで、少し騒がしい声が聞こえるけど···それは許して貰おう。
失恋したのは寂しいけれどあの3人のなかに入るのは誰であっても無理そうだ。
「にしても、可愛いんだよね···」
可愛いもの好きとして、また会ったらきっと声をかけてしまうな、そして名前で呼ぼう、の笑顔を見せて貰うために。
その頃3人は···。
「りょうちゃん···なんで名前で呼ばれてるの?」
「しかもなにさりげなく手握られてるの?しかも涼ちゃん、目黒さんのこと愛称で呼んでるし!いつの間に?元貴も俺もヤキモチ妬いちゃうよ?」
「えっ、呼んでいい?って言われたから···手は握手でしょ?ヤキモチ焼く若井も可愛いね」
「若井は可愛くないし、あれは絶対手を握られてた!油断も隙もない···涼ちゃん、俺と手つなご?」
「元貴ずるい、俺も!」
そう言ってぎゅう、と僕の両手は2人に繋がれる。
2人とも僕のこと大好きなんだって感じでとっても嬉しくなる。
「2人ともそんなにヤキモチやかないでよ···」
「焼くよ。それに夜の仕事のためにお昼寝しないとでしょう?フラフラしちゃうよ」
「本当だ、すぐ休んでて!俺と元貴は仕事だけど、ひとりで寝られる?寂しくない?なんなら俺が添い寝を」
あ、元貴に若井が叩かれた。
いってー!と大袈裟に若井が頭を押さえてるのに元貴は完全に無視してるけど。
「本当は俺も一緒に寝てあげたいくらいなんだけど。夜は一緒に寝ようね?」
「俺も!俺もー!」
「ふふ···夜、楽しみにしてる」
2人は仮眠を取るために借りた部屋で僕をぎゅっと抱きしめてから頬にキスをしてくれた。
離れようとしない若井をひっぱって元貴は部屋を出て行った。
こて、とソファに寝転ぶとすぐにウトウトしてくる。
2人のことが大好きだから他の人なんて気にならないのに、いつだって僕を愛してくれる2人のことが愛おしい。
目黒くんにはなんだか申し訳ないと思いながら、僕は元貴と若井が夢に出てきてくれますように、と願って瞼を閉じた。
コメント
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みんなに愛され💛ちゃん好きです🤭❣️
あれ···? こんなはずじゃ···💛✕🖤にならない、いつも通りの3人になってしまいました···。