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カチャリ、と鍵が閉まる。
(さて、アーサーさんが出かけたことですし……皿洗いでもしますか)
玄関からリビングへ戻ると、机に並べられた二人分の食器を重ねて手に取り、流し台に置いた。
スポンジで泡を立てている最中も、頭の中ではずっと昨夜の情事のことを思い浮かべていた。
(アーサーさんのばかばか!! いつも流されてしまう私も悪いんですけど!!)
夜のアーサーは基本、菊の体を気遣ってくれてはいる。痛みはないか、と低い声で囁かれながら、きちんと前戯を行い、菊のそこが受け入れられる状態にしてから本番を迎えている。けれどもたまにタガが外れて、まるで獣のように菊を襲ってくる。菊……!!菊……!と耳元で熱い吐息をかけながら興奮して必死に菊の体を求めてくるのだ。大抵その翌日は、菊の腰はお陀仏になっている。
(今夜は優しくする、って言いましたけど……)
今朝のアーサーの言葉を反芻し、顔を真っ赤に染めて呟く。
「別に……激しいのも嫌いじゃないですけどね」
アーサーはツンデレ気質でなかなか本心を菊に伝えてくれない。そんな彼が、ただ一心不乱に自分を求めてくれている、というのは思い出すだけで胸が熱くなる。情事の最中に見せてくれる彼の自分への愛情は、確かなものであった。
(まあ、多少束縛が強いのはご愛嬌と言いましょうか)
結婚後、仕事に通っていた菊に対し、主夫になってずっと家にいてくれないか、と提案したのはアーサーであった。
その後も菊が出かけるたびに、どこに行くのか相手は、としつこく質問攻めにあい、最終的にスマホにGPSを仕込まれた。
初めは多少面食らったものの、うまく素直に表現できない彼なりの愛情の裏返しであると気づき、胸がじんわりと温かくなった。彼にとっての束縛とは、ずっとそばにいたい、離れたくないという気持ちの表れであったのだ。
(素直になれない、そんなところも可愛らしんですよね)
ふふっと笑みが溢れる。
ピンポーン
朝の静寂を突き破るチャイムに、菊は一瞬で現実に引き戻された。
「はーい。誰でしょうね……何か予定はなかったはずですが……」
突然の来訪者に驚きつつも、食器の山を後にして玄関へ向かい、鍵を外した。
「Hey菊!! 遊びに来たんだぞ!!」
勢いよくドアが開かれ姿を現したのは、手提げ袋をぶら下げたアルフレッドであった。
「〜〜っあ、アルフレッドさん!? 本当、来るのがいきなりですね……」
金髪碧眼の青年。人懐っこい笑顔で尻尾をブンブンと振る子犬を彷彿とさせる。
アーサーの元弟でもあり、過去に色々なしがらみはあったものの、今は関係は良好である。
初めは遠慮など知らずにずかずか踏み込むアルフレッドの性格に戸惑ったものの、今では二人で家でゲームをするほど仲が深まっている。元々菊はオタク気質なところがあり、アルフレッドも軽度であるがその性質があったため、すぐ打ち解けることができた。
「今日発売の新作のゲーム、持ってきたんだぞ!! 菊も一緒にやるんだぞ!!」
「もう手に入れたんですか!? あの超人気作を!?」
菊は目を輝かせて興奮しながらアルフレッドの手を握った。春とはいえ、まだ寒くコートの手放せない中、長蛇の列を並んで手に入れたのだろう。
「どうぞ、上がってください! 早速始めましょう!」
「HAHA、菊ならきっと喜んでくれるって思ってたんだぞ!!」
二人はリビングへ向かうと、カセットを取り出し、ゲーム機の電源を入れた。
(アルフレッドさん、アーサーさんと容姿こそ似ていますが、性格は正反対ですよね。
けれども、明るく人懐っこいところが愛らしく魅力的と言いましょうか……。
ふふっこれではまるで孫を見守る爺ですね)
「菊、始めるんだぞ!!」
「ええ、もちろん。負けませんよ!!」
二人はコントローラーを手に持ち、ゲーム画面に夢中になって食いついた。