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「ただいま、お兄ちゃんお迎えありがと――」
「おかえり夢月! 無事だったか!?」
「……お兄ちゃん、まだ駅です」
皆と別れた後、最寄り駅まで到着したところで。
なんか、兄から強烈なハグを受けてしまった。
たった数日で大袈裟と言うか、私が通う駅なので恥ずかしいんですけども。
「怪我とかしなかったか!? 変な事されなかったか!? ちゃんと無事帰って来たんだよな!?」
「ちょっと落ち着いて……ん? 待って、お兄ちゃん凄く顔色悪い。ちゃんとご飯食べてる? ちゃんと寝てる?」
「…………」
「今、妹は質問をしています。とても、普通の、結果を述べるだけで済む質問を」
抱きしめられながらも、ジトッとした眼差しを向けてみると。
相手は、とても分かりやすく視線を逸らした後。
「インスタントって、久々に食べたけど……あんまり美味しくないね」
「お兄ちゃん……お給料良いんだから、外食とかでも良いんじゃ……」
「早乙女さんに無理矢理連れて行かれて! 食べたぞ!? 本当に! けど、こう……心配で、それどころじゃないっていうか。もしかしたらパソコンの方に連絡が来るんじゃって思ったら、すぐ帰りたくなって……だな」
「早乙女さんに迷惑を掛けた上に、ろくに食べてないって事で良いんだね?」
ベシッと相手の顔を両側から掴み、無理矢理こっちを向かせてみると。
兄は気まずそうに視線を逸らすが……目の下には、物凄くクマがある。
これ、もしかしたら睡眠時間も……。
「心配性が過ぎると思います」
「だ、だってなぁ……夢月は、年頃な訳だし。それに、他県まで一人でって言ったら……」
「一人じゃないし、流石に心配し過ぎ。帰る前に、色々買って行こう。ちゃんとご飯食べて、今日はもう寝て? これじゃ私の方が心配になっちゃう」
「め、面目ない……」
という事で、たった数日離れただけでやつれてしまった兄を引きつれて。
私はいつも通りの日常へと戻って行くのであった。
健康に良さそうな物とか、元気になりそうなご飯作らないと。
もしも私が家から出るような事態になったら、お兄ちゃん本当に大丈夫かな……。
◆
「雄一郎、今回の罰だ。今日中に宿題全てを終わらせなさい」
「いや、爺さんは知らないかもしれないけど! 最近の学生の宿題は多いんだぜ!? ほら、時代の流れ的なヤツでさ!」
「お前のお父さんの時代より、ずっと少ない様に思えるがな。付きっきりで見てやったから、よく覚えているぞ」
今回も派手にやらかしてくれたお馬鹿に、一言も二言も言いたかったが。
とりあえず、やる事をやってからにしようという事で。
道場に正座させながら、全ての宿題を並べさせた。
「なぁ流石に無理だって! 普通の高校生なんて、最終日に皆で答え写し合うのが普通だって!」
「今回来た皆様は、合宿前に全て終わらせたと言っていたぞ? この為に、あの中の一人が付きっきりで教えたそうだ。それ等を全て、皆様は自力で終わらせてからココに来た。だというのに、お前は泣き言ばかりだな? 同い歳だろうに、恥ずかしいとは思わないのか?」
この辺りも、少し懸念してお声掛けした結果。
シックスこと白川さんが、皆様と連絡を取りながら数日で全て完遂したらしい。
実に素晴らしい。
そして彼女の教えを受け、合宿に集中する為に、そして休みの後半を皆で全力で楽しむ為に頑張った皆様も素晴らしい。
なのにウチの孫、これである。
まだたった数問しか解いていないのに、早くも言い訳を始めている。
分かっている、私も分かっているのだ。
まだ子供だから、男の子だから。
色々思う所はあるが、それでも他の子達……というか今回来た彼等彼女等を見てしまうと。
なんとも、情けなくなるという訳で。
「雄一郎、そもそもお前は何故皆様が“あのゲーム”のプレイヤーだと知っていた。お父さんから聞いた訳ではあるまい? アイツには、此方からきっちり口止めしておいた筈だが」
「ハッ! 甘いな老人! 今や時代はデジタルだ! どこからでも情報は入って来るんだぜ!?」
「つまり……お前、担当様からしつこく聞き出したな? 私と、お前のお父さんがやけに注意深く道場に来るなと言ったのを不審に思い、そちらから情報を引き出そうとしたな?」
「…………ウス」
コイツは……コイツは!
どうしてこう、おかしな所で執着心を燃やすのか!
こやつの担当様は日頃から苦労しているだろうし、何より孫は賞金首最年少などと言われているのだ。
白川さんの方が数か月誕生日が早いというだけなのに、その言葉に流されて調子に乗って。
しかもこのレッテルに影響されて、担当様も甘やかしている……訳では無いのだが、どうしてもガードが緩くなるのは当然の事。
何とか言いくるめようと、少しだけ情報を提供して下さったのだろうが……それを、コイツは!
妥協なのか協力なのかも理解出来ないのか!
「いいか!? お相手は、貴様の“担当”を引き受けて下さっているサポーター様は! 社会的な意味でのお前の“窓口”を代わってくれているだけなのだ! 社会はお前が考えている程単純ではない! 上だ下だと簡単に言える訳では無いのだ! 決してお前の小間使いではない上に、お前の我儘で不要な時間を取って良い存在ではない! 業務上仕方なくお前を優先し、“あえて”、時間を“作ってくれている”んだ! だというの子供みたいな我儘で、私生活に関わる事までしつこく聞いたのか!? しかも他の賞金首に関わる情報を! 私は身内だとしても、立場上別々の賞金首。これが駄目な事だと何故分からない!」
「あーあーあー! また始まった! 結局爺さんの話しか教えてくれなかったし良いじゃんよ! なんか言い淀んでたから、絶対別のナンバーズが来ると思ったのに……何だよ一般プレイヤーじゃねぇか! って、思ったけど。いやはや……なかなか、面白い奴が居たもんだ。クックック……」
「黙れ大馬鹿者! その舐め腐った態度をどうにかしてから社会に出ろと言っているのがまだ分からないのか!」
「うっせうっせ! もう俺はプロですー! 既に社会に出てますー!」
「だからこそもっと礼節を弁えろと言っているんだ大馬鹿者! 今回来た皆様の方が、ずっと大人だったと何故分からない!? 未熟なまま社会に出ているからこそ、代わりに私達が周囲に頭を下げてばかりいるんだろうが!」
思いっ切り、怒鳴り合ってしまった。
どうしてこう、どうしてこうなのだろう。
孫のこの……なんだ?
おかしな感じに、俺は凄いんだと思っている様な、アレ。
確かに若者特融の思考回路に近いのだろうが、少々行き過ぎているというか。
本当にどうしたものか。
今回来ていただいた皆様を見ると、コレを社会に出している我が家が非常に恥ずかしくなってくるのだが。
「なんだよ! “出っ歯”だって俺と同じテンションだったろ!? やっぱどこでもそうなんだよ!」
「一緒にするな小童! 彼だってあの数日で、大きく成長した上に貪欲なまでに技術を盗もうとしていたぞ! 確かにお前と同じ様に勢いで動く癖はあるが、それでも学ぶ者の姿勢としては彼の方が数段上だわ!」
「え……マジ?」
マジ? ではない、たわけめ。
彼は仲間達が習得した技術に対して素直に教えを請い、何より自分だけでも反復練習しておったわ。
皆が寝静まった後でも庭に出て、何度も自主訓練していた程だ。
言動や行動は確かに孫に近いモノはあるが……それでも、とにかく真っすぐな男児だったと言えよう。
「ほ、他の奴等はどうなんだよ? ぶっちゃけ、大した事無さそうなのが揃ってたろ?」
「それこそ、馬鹿めと言ってやる。お前の目は節穴か」
グレーと呼ばれていた少年に関しては、とにかく誠実だった。
確かに他の皆様と比べると、成長は遅かったかもしれない。
しかし真面目に、しっかりと自分の出来る事を認識し、確かだと思える状態まで着実に伸ばしていく。
訓練中にも思ったが、まだ“自信が無い”だけであり、ゲーム内では随分と良い動きを見せてくれた。
教えられた事をしっかりと一つ一つ、確実に理解しながら進む人間だと言えよう。
そして小鳥遊 柚さん。
皆様からナナさんと呼ばれて親しまれている彼女、賞金首のseven。
あの子もまた……随分と自分に自信が無い様だが。
だが、とにかく牙が鋭い。
恐らく思考と感情に、大きな溝を作ってしまった過去があるのだろう。
現実では何処か自信無さそうにしながらも笑い、しかし技術を必死で覚える姿はとても真っすぐ。
これを感情が邪魔している様に思えたが……ゲームに入ってからは、完全に鋭い牙を見せる“猛獣”と化した。
私だって本当にヒヤヒヤするくらいに、勢いよく攻めて来る肉食獣の様な存在だったのだ。
アレは……良い。
凄く、良い。
彼女はきっとこの先も、どんどん伸びて行く若者なのだろう。
という事で、賞金首の情報は伏せながら言い聞かせてみれば。
「んだよ……お客様だからって、随分と褒めるじゃん。てか、他にも二人居たろ? あっちはどうなの。ホラ、見た目パッとしないというか。一番モブっぽい二人」
「それこそ、節穴だな……お前の目は」
「はぁっ!? 俺の目は超最強レベルにレアモノだっての!」
「はぁ……まったく、大した“最強”があったものだな。はっきり言うと、あの二人こそ……“化け物”だ」
「……へ? 爺さんがそこまで言うとか、珍しいじゃん」
まず黒沢君……彼は、教えに対してとても“素直”だ。
そして何より、環境適応能力と順応する速度が半端なモノではない。
知識を得て、すぐに疑問を抱き、その上で自らの経験を含めて試行錯誤を繰り返す。
それら全てがどうしたら自らに一番適応するのか、どうやったら一番自分の糧になるのかを考え続け。
その結果を、最短で叩き出せる才能の持ち主だ。
恐らく彼に私の暗殺術を叩き込めば、それこそ数年でもゲームでは負けなしの近接格闘術が繰り出せるほどになるだろう。
いや、現実だったとしても……もっと月日を掛けて修行すれば順応出来る筈だ。
つまり、伸びしろがとんでもなく多い。
才能の塊と言っても過言ではないだろう。
なんたって此方が教育しようとしている方向とは別の角度から、いち早く答えに辿り着こうと自分なりの方式を見つけ出したのだから。
「最後の一人は? あのちっこい、女の子。一番弱そうだったじゃんよ」
「あの子こそ、真の怪物だろうな。例えるのなら広い湖だ。波もなく、とても穏やか。しかしそこに私という一滴の水が加われば……たちまち吸収し、一部としながら再び穏やかな顔を見せる」
「いや、表現が訳わかんねぇけど……」
正直、私にも“分からない”と言う感想が一番近いのかもしれない。
あんなにも“抵抗”の少ない子は、初めて見た。
誰かの教えに、疑問を抱かない。
理解出来なくとも、肯定して飲み込み、その上で自分の中へと馴染ませていく。
その結果が……たった一晩、たった十分足らずの“お試し”で。
あの夜私が教えたかった事を、次の日には理解して実行し始めた。
たかが一手、基礎の基礎。
だとしてもソレが加わった6keyという存在は、あんなにも変わってしまったのだから。
まさに学習能力の怪物、知的好奇心の化け物。
それこそ天才とも言えるソレだったのだが……彼女の瞳は、とにかく綺麗だったのだ。
あんなにひ弱で、皆に守られる様にしながらも。
彼女の瞳は、常に“答え”を探している様に私の事を射貫いて来た。
そして……シックスと戦う度に思うのだ。
一手、また一手と手の内を見せる度に。
少女は全てを吸収し、コレに対して次の一手を冷静に差して来る。
例えば一年、365日あの子に教育をした場合。
現実では体力が付いて来なかったり、筋力の問題で越えられない壁が発生したとしても。
ゲームの世界に、VRの世界に入ってしまった瞬間。
白川さんは、途端に怪物へと変貌する事だろう。
頭で理解し、計算し、自らで行使可能な方法をその場で見つけ出し。
その上で、活用してくる。
この成長速度に、おそらく私程度ではいつか付いて行けなくなる事だろう。
長い年月をかけて学んで来た此方の技術だって、一年も使えば本当に全て習得してしまうのでは?
何を馬鹿なと、自分でも言いたくなるソレだったとしても。
あの子なら……もしかしたら。
そんな風に考えてしまう程、白川夢月という少女の学習能力は異常だったのだ。
頭だけが良い訳では無い、本来身体で覚える筈の感覚すらも“理解”で補う。
全てを肯定し、その全てを糧としながら。
ただただ、知覚する世界を広げているかの様。
もしも今回教えた“空間の把握”を徹底的に練習した場合……もしかしたら私は。
目を瞑っている6keyにすら、近接戦で勝てなくなってしまうのでは?
などと、おかしな想像をしてしまったくらいだ。
という話を、やはり賞金首の名だけは伏せながら話してみると。
「なるほどな……白川夢月か。つまりアイツを倒すか、もしくは俺の彼女にすれば、こっちの勝ちって事だな?」
「…………」
孫は目に入れても痛くない、とは誰が言いだしたのか。
私は、コイツの話を聞いているだけで頭が痛くなるのだが。
その影響で、ずっと眼の奥が痛くなって来るんだが。
どうしてこう、どうしてこうなのだろう。
そして男女のお付き合いを果たせば勝ちというのは、どういう理論だ?
あぁ、くそ……また頭痛がしてきた。
更に言うのでは、彼女の想い人はどう見ても……いや、それは流石に無粋な勘繰りなので止めよう。
「……身の程を知れ、馬鹿者」
「だってあっちは一般プレイヤー! 俺はプロだぜ!?」
「身の程を、知れ。本当に、本気で。情けなく溶岩に落とされた奴が、どの面下げて“プロ”を名乗るか」
「アレは仕方ないだろ!? ステージが悪いって!」
「言い訳するな。それでも勝たないといけないのが、本物と言うものだ……はぁぁ……どうして、どうしてこう、ここまで違うのか。子供の頃からもう少し、厳しくするべきだったか……」
ウチの孫、この先本当に大丈夫なのだろうか……。
「ついでに言うと、もしも今回の様な真似が続けば……お前はプロですらなくなるぞ? 会社との契約と言うのは、子供の約束事とは訳が違うのだ。もしもし相手がお前のフォローを止めれば、今でも即座にクビだろうな」
「んなっ!? そ、そんな簡単にクビにされる成績じゃねぇし……」
「関係ないのだよ、“契約”という言葉の前には、成果など。社会的な約束というのは、守らなければ関係が終わる。場合によっては賠償金が発生する。そうなった場合の経歴は、この先ずっと貴様に付いて回る。規約違反を犯す愚か者を、他の会社が使ってくれると思うか?」
「ガッ! ゥ、ゴッ!?」
「分かったらさっさと宿題を終わらせて、担当様に頭を下げろ、全力で謝罪しろ。そして二度と軽率な行動を取るな。それが契約と言うものであり、大人の“約束事”であり、“信用”と言うものだ。プロを名乗りたいのなら、しっかりとプロになる事だな」
あぁ、もう。
頭が痛い……。
コメント
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兄と夢月のやりとり、めちゃくちゃあったかくて和みました。数日離れただけでやつれてる兄、ツッコミながらもご飯作ろうとする妹…本当に良い兄妹関係だなあと。 一方で、その後の道場シーンは一転して厳しい空気。爺さんの孫に対する説教、特に「あの二人こそ化け物」という評価がめちゃくちゃ刺さりました。黒沢君の順応速度と、夢月の「広い湖」という比喩…あの表現、すごく腑に落ちました。彼女の吸収力は確かに異常で、だからこそ6keyとしての成長が楽しみです。 あと雄一郎の「プロだぜ」発言に爺さんがキレる流れ、笑ったけど同時に説教の内容が重くて胸に来ましたね。この対比が心地いい。
くろぬか
3,144
柘榴とAI

441
柘榴とAI

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#マックス・マカリスター