「あら、気を遣わなくていいのに。みんな張り切ってイチオシの手土産を持ってきているから、冷蔵庫がパンパンなの」
カウンターの中にいる女性――小牧さんは親しみやすい笑みを浮かべる。
彼女は清潔感のある美人アナウンサー風の女性で、着物を着ているからか、そこはかとない色気がある。
だから以前にこの店から出てきた尊さんを見た社員が、『美人女将としっぽりやってる』なんて言っていたんだろう。
「朱里さん? こんにちは。初めまして」
奥から出てきたワンピース姿の女性は、小牧さんと似ているので、きっと弥生さんだ。
彼女は母と姉を見てプンプンと怒ってみせる。
「皆、自己紹介しないと駄目じゃない。ただでさえ人数が多いんだから……」
奥には『HAYAMI』の社長さんや、副社長夫婦もいて、こぢんまりとしたお店の中はごったがえしている。
……と、事前に聞いていない人物がいて、私は「ん?」と目を見開いた。
なんか見た事のある、やけに美形な男性がお店の奥に座り、枝豆をおつまみに日本酒を飲んでいる。
(どこかで見た事が……)
そう思っていた時、隣で尊さんが声を上げた。
「涼! なんでいるんだよ!」
「あっ!」
名前が出てやっと気づいたけど、その男性は以前に尊さんが写真を見せてくれた、三日月涼さんだった。
「えええ……?」
速水家の皆さんが来るのは分かっていたけれど、尊さんの親友とはいえ、どうして涼さんがここにいるのか分からない。
涼さんはこちらを見てニヤリと笑い、ヒラヒラと手を振る。
……てか、うん。格好いい。
彼は目と髪の色素が薄く、キリッとした眉に二重の幅が広い大きな目をしている。
鼻筋もスッとしていて、唇の形もいい。
立ちあがると身長が高くて、尊さんに負けないぐらいある。
彼は鮮やかなターコイズブルーのシャツに黒く細いネクタイを締め、黒い細身のパンツを穿いている。
シャツはなかなか難しい色だと思うけれど、サラッと着こなしている。
多分、顔立ちが派手なほうだから、強めの色にも負けないんだと思う。
モノトーンを着ても似合うだろうし、ゆるダボなコーデとか、ビシッと黒シャツのスーツでも、なんでも似合いそうだ。
髪型はソフトツーブロックで、仕事の時は外しているんだろうけど、両耳には小さなリングのピアスをしている。
ポーッと彼を見て色んな事を考えていると、涼さんが私を覗き込んで微笑んだ。
「空中を凝視してる猫みたい」
一言目にそんな事を言われ、私はちょっとびっくりして目を見開く。
「お、警戒した」
ちょっと喜んだ涼さんは、ネクタイの端を持って私の前でピラピラと振ってみせた。
「猫じゃないです!」
「ははは!」
機嫌良さそうに笑った涼さんは、ポケットに手を入れて「あげる」と言ってきた。
とっさに「どうも」と手を出すと、ポンとカリカリ小梅がのせられた。
「???」
目を丸くしていると、尊さんが溜め息をついた。
「おい、変人。だからどうしてここにいる」
尊さんが溜め息をついて尋ねると、小牧さんが笑顔で言った。
「私が呼んだの。涼くんもよく来てくれてるし、友達だからいいじゃない」
「小牧ちゃん……」
尊さんはガックリと項垂れ、溜め息をつく。
その時、ニコニコした裕真さんが歩み寄ってきて奥の席を示した。
「いつまでも立ち話はなんだから、座りなさい」
そう言われ、私たちは奥の四人掛けのテーブル席に座った。
向かいには大地さんと弥生さんが座り、雅也さん、裕真さん、ちえりさんはもう一つのテーブル、涼さんと貴弘さんはカウンター席、そのお嫁さんの菊花さんは小牧さんを手伝っていた。
お二人の三人のお子さんは、今日はシッターさんに任せてきたそうだ。
「朱里さん、飲みたい物があったら言ってね。大抵のカクテルなら作れるわ。趣味が高じて、家にもバーカウンターがあるのよ」
陽気に言った小牧さんの後ろには、色んな酒瓶が並んでいる。
勿論、日本酒の酒瓶も沢山あるけれど、「楽しく料理を食べてもらうために」という信条で、女性客も利用しやすいように色んな飲み物を出しているそうだ。
「はい、あとでいただきます。最初はビールで!」
「分かったわ」
カウンターの中で、小牧さんと菊花さんがビールサーバーからグラスにビールを注ぐ。
全員にビールが行き渡ったあと、尊さんが立ちあがり、私も立つ。
コメント
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色気のある美人女将♡店内にはお身内の美男美女がひしめき合っているのだろう😍 しかも涼さんもいらっしゃるとは❣️