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「今日は忙しいなか、集まってくれてありがとう。皆の温かい対応に感謝します。こちらは婚約者の上村朱里さん。二十六歳で会社の部下だ」
紹介され、私はペコリと頭を下げて挨拶する。
「初めまして、上村朱里と申します。今日は皆さんにお会いできてとても嬉しいです。以前から尊さんに『こま希』の事を教えていただいて、お腹ペコペコにして楽しみにしていました」
ニコニコして言った私の顔を、チラッと尊さんが見てくる。
なんだよう。昼は昼、夜は夜ですよ。
私は彼を見て生ぬるく笑ったあと、パッと切り替えて笑顔になる。
「今日は皆さんとお話しながら、小牧さんのお料理を楽しみたいと思います」
またペコリと頭を下げると、皆さんが拍手してくれ、小牧さんは「張り切っちゃう!」とガッツポーズをとった。
そしてまた、尊さんが話す。
「今年の秋頃に結婚式を予定しているから、その時はどうぞ宜しく。仲良くやっていくつもりなので、見守ってくれると嬉しいです。……じゃあ、乾杯」
尊さんがグラスを掲げると、皆で「乾杯」を言ってグラスを合わせた。
そのあと、小牧さんが腕によりをかけた料理が運ばれ、皆でワイワイとつついた。
小料理屋なので基本的には家庭料理に似た雰囲気だけれど、やはり使っている食材が良く、料理の腕がいいので抜群に美味しい。
「ふぁ~……! この揚げ出し豆腐、おいちい!」
衣はあんが掛かってとろとろ、中は絹ごしでツルンとしている揚げ出し豆腐は、出汁の味も最高だ。
添えられている絹さやや色鮮やかな生麩も美しく、速水家の集まりじゃなかったら、写真を撮りたいところだ。
「朱里ちゃん、美味しそうに食べるね」
向かいに座っている大地さんが、クスクス笑う。
爽やかなビジネスマン風の彼は、やはり長身でジムで鍛えているような体つきをしている。どうやら速水家は長身の家系らしい。
「朱里に食べ物与えると、面白いぞ。本当に美味そうに食うから」
「ちょっと尊さん、動物みたいな言い方しないでくださいよ」
私たちの会話を聞いて、弥生さんが笑った。
彼女は見るからにお嬢様っぽい雰囲気で、ハーフアップにしたロングヘアに品のいいブランド物のワンピースを着ている。
小牧さんも弥生さんも、ちえりさんに似た美人で、なんなら他の方々ももれなく美形だ。
「逆に『エサを与えないでください』って状況になったら、どうなるのかしら」
「そりゃあ、尊以外は朱里ちゃんにエサをあげたら駄目なんじゃないか?」
大地さんが言った時、ちえりさんが「これっ」と窘めた。
「人様に対してエサなんて言うんじゃありません」
怒られた二人は首を竦めて「ごめん」と謝ってくる。
「いえいえ、いいんですよ。尊さんにも何かと猫扱いされてるので」
ポロッと言ってしまった時、目の前の二人の目がキランッと光った。
「やっぱり猫だろ?」
そこで、カウンターに座っていた涼さんが得意げに言う。
「涼、いらん事を言うな」
尊さんはシッシッと涼さんに向かって手を払う。
「二人の馴れそめ、聞いてもいい?」
弥生さんがコソコソッと尋ねてきて、私はつい尊さんを見る。
彼は「困ったな」という表情をしてから、当たり障りなく言う。
「普通に上司と部下として出会って、俺から告白して、デートを重ねて付き合うようになったよ」
色んな事情があった事は、この場では言わないつもりらしい。
「訳ありの尊が選ぶ女性だから、紆余曲折なのかと思ってた」
大地さんが言い、私はギクッとして枝豆をポロッとテーブルの上に落としてしまう。三秒ルール。
「まぁ、そこは深く聞かないでおきましょう。そのうち仲良くなってお酒を飲ませたら、スルッと話してくれるから」
ちえりさんが何気に恐ろしい事を言う。
それを聞き、尊さんが声を潜めて忠告してきた。
「気をつけろ。みんな酒が強い。うっかりしてると飲まされて大変な事になる」
「えっ? はい」
ビクッとして答えた時、小牧さんがカウンターの中でお酒を飲みつつ言う。
「お母さんも弥生も、手伝わないなら、尊くんと朱里ちゃんから面白い話を引き出さないと~」
その言葉を聞き、そういえば手伝っているのは菊花さんだな、と思い出す。
普通……って言ったらおかしいかもしれないけど、身内が手伝うものだよな、とは思った。
すると、ちえりさんと弥生さんは、バッとハンドモデルのように美しく手をかざした。