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#七つの大罪シリーズ
夢野 ゆみ
315
91
立ち止まった君の涙。
誰にも拾われず、
部屋の隅で静かに乾いていく。
「泣くな」
頭の奥から、声がした。
「立て。
笑え。
いつも通りにしろ」
(命令するだけなら簡単だ。
俺だって校長先生くらいならできる。)
「黙れ」
俺は答えた。
「今日は、従わない」
「ならば、俺に任せろ」
「嫌だ」
「お前には無理だ」
「それでも嫌だ」
君よ、
砕ける必要なんてない。
強がりを捨てろ。
後悔を抱えたままでもいい。
「奪え」
あいつは言った。
「あいつらから全部取り返せ」
「返してもらうものなんてない」
「ならば壊せ」
「それも嫌だ」
「なぜだ?」
「壊したら、
お前と同じになるからだ」
沈黙。
少しだけ、
頭の奥が静かになった。
(ああ、面白い。)
(ずっと俺に命令していた奴が、
初めて返事に困っている。)
乾いた心に、
小さな雨が落ちる。
「俺を消せ」
あいつが言った。
「お前の邪魔をしているのは俺だ」
「消さない」
「なぜ?」
「お前も俺だから」
「……くだらない」
「知ってる」
二人分の声が、
ひとつの頭の中で笑った。
「その子と一生歩むのか?」
「知らない」
「その答えを一生誤魔化すのか?」
「知らない」
「じゃあ、お前は何を選ぶ?」
俺はしばらく黙った。
そして、
「今日を選ぶ」
そう答えた。
理想論も、
綺麗な約束も、
全部持っていなくていい。
泣いて、
怒って、
間違えて、
それでも朝になれば起きればいい。
(なんだ。)
(思ったより地味だな。)
(もっと劇的な結末を期待してたんだけど。)
「うるさい」
「……悪かった」
初めてだった。
あいつが謝ったのは。
縮こまった身体を起こす。
涙はまだ消えていない。
傷ついた意味も、
過去の意味も、
今すぐ答えを出す必要はない。
「もう一度、歩くぞ」
俺が言う。
「命令か?」
「違う」
「じゃあ何だ?」
「提案だ」
少し間を置いて、
「……仕方ない」
もう一人の俺が笑った。
そして俺たちは、
同じ身体で、
別々の声を抱えたまま歩き出した。
(結局、仲直りかよ。)
「違う」
(じゃあ?)
「共存だよ」
(……それ、もっと面倒じゃん。)
「そうだな」
それでも俺は笑った。
生きるって、
たぶんそういうくだらないことだ。
コメント
1件
第5話、読み終わりました。自分の中のもう一人の自分との対話、すごく刺さりました。特に「壊したら、お前と同じになるから」って台詞、ぐっときました。命令に従わないって決めた瞬間、ちゃんと「今日を選ぶ」って答えを出せた主人公がかっこよかったです。涙が乾く前に、歩き出そうとする強さが伝わってきました。二人の声が同じ身体で笑い合うラスト、とても温かかったです。素敵なエピソードをありがとうございます。