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玄関で立ち尽くしている𓏸𓏸の後ろから、優しげだけれどどこか疲れた声が聞こえた。
「……𓏸𓏸ちゃん?」
振り返ると、涼ちゃんのお母さんが心配そうな顔で立っていた。
𓏸𓏸が頭を下げると、お母さんは小さくため息をつきながら「中、入ってくれる?」と促した。
リビングのソファに座ると、お母さんはぽつりぽつりと話を始める。
「……ごめんね、何もおもてなしできないけど……」
お母さんの手は落ち着きなく膝の上で揺れている。
「最近の涼架……すっかり元気なくなってしまってね……。あの子、前よりずっとご飯も食べてくれないし……」 声が震え、喉が詰まる。
「リスカも……私が止めようと腕を掴んでも、夜になったらまた……。どうしても、やめてくれないの」 無理に笑おうとするけれど、その表情は今にも泣き出しそうだった。
「病院にも相談してるし、いろんなことしてるつもりなんだけど、私、もうどうしたらいいのか分からなくて……」 お母さんの手は小刻みに震え、目元をぬぐう。
𓏸𓏸は、何も言えずただ静かにうなずいた。
涼ちゃんの身に刻まれた傷、弱々しくなった背中。
そして、母親が見せる限界ぎりぎりの優しさと、どうしようもない無力さ――。
「……ごめんね、𓏸𓏸ちゃん。学校でも何かあったのかな……あの子、友だちとも話さなくなっちゃって……」 お母さんの問いかけに、𓏸𓏸もまた黙り込む。
リビングの窓の向こうで、夏の夕暮れがゆっくりと沈もうとしていた。
二人きり、静かな部屋の中に、どうしようもない心の痛みだけが残った――。