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永 遠 . @ 眠
「やめろ!!」
鋭い怒声が村中に響く。
従者たちが一斉に振り返った。
伊波ライは肩で息をしながら立っていた。
髪は乱れ、狩衣の裾には土がついている。
急いで駆けつけたのだと分かった。
「……若君」
従者たちが慌てて頭を下げる。
だがライは彼らを見ようともしない。
真っ直ぐ、地面に倒れたマナだけを見ていた。
「マナ!」
ライは駆け寄り、膝をつく。
その手が震えていた。
「しっかりしろ」
「……ライ」
マナはなんとか笑おうとした。
けれど口の端が切れていて、うまく笑えない。
ライの顔が苦しそうに歪む。
「誰がやった」
低い声だった。
従者たちが息を呑む。
「若君、これは――」
「誰がやったと聞いている」
静かな声なのに、恐ろしいほど冷たい。
マナは初めて見るライの姿に驚いた。
普段の彼は穏やかで、怒鳴ることなど滅多にない。
なのに今は、空気そのものが張り詰めている。
やがて先頭の男が口を開いた。
「その者が若君を誑かしたため、我らは――」
「黙れ」
男の言葉を、ライは一蹴した。
「俺は命じていない」
「しかし旦那様が」
「父上の命であれば、人を傷つけてもいいのか」
従者たちは答えられない。
ライの瞳が鋭く細められる。
「二度とマナに触れるな」
その言葉に、村人たちがざわついた。
若君が、一介の農民を庇っている。
本来ならあり得ない光景だった。
「……ライ」
マナはふらつきながら起き上がる。
するとライが慌てて支えた。
「無理をするな」
「大丈夫やって」
「大丈夫に見えるか」
珍しく強い口調だった。
その声に、マナは少し目を丸くする。
ライは本当に怒っていた。
自分のことで。
「若君」
従者の一人が慎重に言う。
「その者から離れてください」
ライはゆっくり振り返った。
「嫌だ」
即答だった。
従者たちの顔色が変わる。
「若君……!」
「何度言わせる」
ライはマナの肩を抱いたまま言った。
「俺が望んでここへ来ている」
その言葉に、皆が息を呑む。
つまり。
若君自ら農民へ会いに通っていると認めたのだ。
「……っ」
マナの胸が苦しくなる。
こんなふうに庇わせたいわけじゃなかった。
ライの立場が悪くなる。
絶対に。
すると従者の一人が険しい顔で言った。
「旦那様へ報告いたします」
その瞬間、空気が凍る。
ライの父――この地を治める高位貴族。
もし正式に知られれば、もう今まででは済まない。
マナは咄嗟にライの袖を掴んだ。
「……もうええ」
「マナ」
「俺は平気やから」
ライは苦しそうに眉を寄せる。
マナは小さく首を振った。
「ライがこれ以上怒られるん嫌や」
「しかし」
「お願いやから」
その声に、ライは何も言えなくなる。
やがて従者たちは、重苦しい空気のまま去っていった。
だが最後に向けられた視線は、明らかに敵意を含んでいた。
村人たちも散っていく。
誰も何も言わなかった。
言えなかったのだ。
若君と農民。
決して交わってはいけない二人。
その現実を、皆突きつけられてしまったから。
静かになった村の外れで、ライはそっとマナの頬に触れた。
「痛むか」
「……ちょっとだけ」
嘘だった。
本当はかなり痛い。
けれどライの顔のほうが、もっと辛そうだった。
「すまない」
また謝る。
マナは困ったように笑った。
「謝ってばっかやな」
「お前を守れなかった」
「守ってくれたやん」
ライは目を伏せる。
「足りない」
その言葉に、胸が締めつけられた。
ライはきっと、本気で自分を守ろうとしている。
身分も立場も捨ててしまいそうなほどに。
それが怖かった。
「……ライ」
「なんだ」
「俺、怖い」
正直に言うと、ライが目を見開いた。
「お前が酷い目に遭うんが怖い」
風が吹く。
ライの長い髪が揺れた。
「俺のせいで、全部失ったらどうするん」
その問いに、ライはしばらく黙っていた。
やがて静かに口を開く。
「それでも」
紫の瞳が、真っ直ぐマナを見つめる。
「お前がいないほうが、俺は苦しい」
胸が痛かった。
嬉しいのに、苦しい。
叶うはずがないから。
「……そんなこと言うなや」
涙が出そうになる。
ライはそっとマナを抱き寄せた。
今度は優しく。
壊れ物を扱うみたいに。
「少しだけ」
耳元で囁く。
「少しだけ、このままでいさせてくれ」
マナは抵抗できなかった。
ライの腕の中は温かくて、泣きたくなるほど安心したから。
けれど同時に。
二人の未来に、静かに暗雲が近づいていることを。
マナは嫌というほど感じていた。
コメント
1件
マジでやばい…!!😭💦💦 ライがマナを守ろうとして「嫌だ」って即答するところ、心臓ぎゅーってなったよ…!! 身分違いの恋と分かってるのに「お前がいないほうが俺は苦しい」って言われたら、もう涙止まらんやんけ…🥺💔 ラストの「少しだけこのままでいさせてくれ」が切なすぎて、キュン死にしかけてます!!! しろまるさん、この胸の苦しさどうしてくれるんですか…!!🤯💕 続きが気になりすぎて今夜眠れないかも…!