テラーノベル
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その日を境に、伊波ライは村へ来なくなった。
一日。
二日。
五日。
待っても、待っても来ない。
夜の川辺には、ただ月明かりだけが落ちていた。
「……ライ」
緋八マナは石の上に座り、川面を見つめる。
風が冷たい。
いつもなら隣にいるはずの人がいないだけで、こんなにも世界は静かになるのかと思った。
七日目の夜。
とうとう耐えきれず、マナは山道を歩いていた。
向かう先は、山の向こうにある大きな屋敷。
ライの住む場所だ。
本当は行ってはいけない。
見つかれば、今度こそただでは済まない。
それでも。
「……顔、見たい」
それだけだった。
山を越え、森を抜ける。
やがて見えてきたのは、巨大な門と高い塀だった。
村の粗末な家々とはまるで違う。
灯籠の火が並び、広い庭が月に照らされている。
ここがライの世界。
あまりにも遠い場所だった。
マナは木陰に隠れながら塀を見上げた。
「どうやって入るんやこれ……」
当然だが、簡単には入れそうにない。
その時だった。
「……マナ?」
聞き覚えのある声。
振り返ると、そこには若い従者が立っていた。
年は二十歳前後だろうか。
驚いた顔でマナを見ている。
「え、あ……」
逃げるべきか迷う。
だが男は、険しい顔で周囲を確認すると、小声で言った。
「なんで来た」
「ライに会いたくて……」
その瞬間、男は深くため息をついた。
「若君、本当に会いに来るとは」
「ライ、どうしとるん!?」
思わず身を乗り出す。
すると男は眉を寄せた。
「閉じ込められてる」
血の気が引いた。
「……は?」
「旦那様に知られた。お前とのこと」
マナの指先が冷たくなる。
「若君は外へ出ることを禁じられた。部屋にも見張りがついてる」
「そんな……」
ライが。
あの自由を嫌っていたライが、閉じ込められている。
胸が苦しくなった。
「……俺のせい、や」
「そう思うなら来るな」
男は厳しい声で言った。
「これ以上若君を苦しめるな」
その言葉に、マナは俯く。
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何も言い返せなかった。
すると男は少しだけ表情を緩める。
「だが」
「……?」
「若君、毎日お前の名前呼んでる」
心臓が止まりそうになる。
「え……」
「食事もろくに取らん。ずっと外を見てる」
マナは唇を噛んだ。
ライ。
会いたい。
今すぐ。
その時だった。
二階の一室に、灯りがつく。
マナは反射的に顔を上げた。
障子が少し開く。
そこに現れた人影を見た瞬間、息が止まった。
「……ライ」
月明かりの中。
伊波ライが立っていた。
ライもこちらに気づいたのだろう。
紫の瞳が大きく見開かれる。
「マナ……!?」
声は届かない。
けれど口の動きで分かった。
次の瞬間、ライは勢いよく障子を開けた。
だがすぐに、後ろから誰かに止められる。
従者だ。
ライは振り払おうとしている。
必死に。
その姿を見た瞬間、マナの胸が締めつけられた。
「……もうええ」
小さく呟く。
ライが苦しむ姿なんて見たくない。
「マナ?」
隣の従者が振り返る。
マナは涙を堪えながら笑った。
「顔見れたから」
嘘だった。
本当は足りない。
触れたい。
声を聞きたい。
抱きしめられたい。
でも。
これ以上ライを追い詰めたくなかった。
マナは一歩後ろへ下がる。
すると二階のライが、何かを叫んだ。
声は聞こえない。
けれど必死にこちらへ手を伸ばしている。
その姿に、胸が壊れそうになる。
「……帰る」
マナは踵を返した。
「待っ――!」
遠くで障子が激しく開く音。
誰かの制止する声。
けれどマナは振り返らなかった。
振り返ったら、きっと戻れなくなる。
山道を走る。
息が苦しい。
涙で前が見えない。
「っ……!」
なんでこんなに苦しいんだ。
好きになっただけなのに。
ただ会いたかっただけなのに。
その頃。
屋敷では、ライが従者を振り払っていた。
「離せ!」
「若君、おやめください!」
「マナが帰ってしまう!」
必死だった。
生まれて初めてだった。
こんなにも誰かを失うのが怖いのは。
だが次の瞬間。
低く響く声が部屋を凍らせた。
「……随分と見苦しいな」
ライの動きが止まる。
襖の向こうに立っていたのは。
彼の父だった。
コメント
1件
うわぁぁ…ライもマナも苦しすぎるよぉ…!😭💔 「顔見れたから」って笑って帰ろうとするマナ、強すぎて泣ける…そして必死に手を伸ばすライ…あの障子の音と声なしかえって伝わる切なさがエグいです… 最後の父親の登場で一気に空気凍った…この先どうなっちゃうの!?次が気になりすぎる!!🔥