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背はあまり高くない真住だけど、運動神経はズバ抜けていた。2年生の先輩との試合だというのに全く引けを取らない身のこなしで試合を優位に進めていた。
「ナイスシュート!わー、カット速いね!すごっ。あんなパス私がしたら見当違いなとこ飛んでく」
「ねぇ」
「ん?」
「それって僕に話しかけてる?それとも独り言?」
五十嵐も瀬南も試合の様子を見続けながら会話を続ける。
「んー、どっちも?」
「何どっちもって」
「思わず声出しちゃう半分、瀬南くん反応してくれたらラッキー半分」
「もっと静かに試合見れないのって台詞は言うだけ無駄なわけね」
「わっ、見た?!今のますみんのシュートすごかった~!」
「見た見た」
試合開始から3分で瀬南は五十嵐の独り言を減らす事を諦めた。声のボリュームはいつもより小さいからか、別の所へ行って欲しいとは思わなかったようだ。
「瀬南くんは自分の試合いつなの?」
「もう終わった。1回戦で部活経験者と当たったから」
「そっかぁ、応援しに行きたかったなぁ」
「絶対嫌」
「何で~?全力で応援するのに」
「それが嫌なの」
大きな声で応援されるの嫌そうだもんな…さっきみたいに距離感半分って思いながらだったら来年は応援行ってもいいかな?
「声は小さめでいくので来年は応援しに行ってもいいですか?」
「は?」
「スポーツやってる瀬南くん見たい」
「もう来年の話?気が早すぎ。そして絶対嫌」
「何で~?!」
「運動は得意分野じゃないの」
瀬南くんって運動苦手なんだ?何でも器用にこなしそうだから、てっきり運動も得意なのかと思ってたや。
「得意じゃなくても瀬南くんはすごい集中した顔で試合に臨みそうだよね」
「想像しなくていいから」
「なんとなくだけど、何をするにしても真剣にやりそう」
「…まあ、そう思われてるのは悪い気はしないけど」
そう答える瀬南くんは相変わらず試合を見つめていて、こちらを向く気配は一切ない。
「来年楽しみだなぁ、頑張ってる瀬南くん見れるんだもんね」
「観に来るってことは観られる覚悟もしておきなよ」
「え?!」
「だってそうでしょ?僕だけ一方的に観られるなんて不公平なんだから」
「私の試合は観に来なくていいよ」
「僕の所に来たら絶対行ってやるから」
試合を見ながらだからかな?いつもより会話が弾んでいる気がする。
それから真住のクラスが2連勝するまで瀬南と五十嵐の会話は続いた。
「…五十嵐ってさ変わってるよね」
「何で?」
「僕と会話してて嫌にならないの?」
「瀬南くんとはクラス違うし、部活後くらいしか会えないじゃん?でも今日は隣でたくさん話せて楽しいから全然嫌じゃないよ!」
ニコッと笑いかけてくる五十嵐に普通ならプラスな反応を示しそうなものなのに瀬南は顔を顰めて五十嵐を見つめた。
「…あのさ、人たらしってよく言われない?」
「ひとたらし?」
「ほんと人の懐に転がり込むのが上手いというか何というか…」
「それ’転がり込む’じゃなくて’入る’じゃない?」
「五十嵐は入るよりも転がり込んでくる感じなの」
「えー?」
笑いながら話を聞いていたら、瀬南くんがジッとこちらを見つめてきた。
「だからだろうね」
「何の話?」
「人受けが良いから、言い寄られるんだよ」
そう言われて頭に浮かんだのは水島くんだった。なんとなく認めたくなくて気付かないフリをしていたけど、彼はたぶん私のことをそういう目で見ている。けれど、彼だけ対応を変えるのはそれはそれで違う気がする。
でも、もし仮に付き合ったとしても…
「一緒にいて面白いとか楽しいって感じてるだけだよ」
「だから寄ってくるんでしょ」
「仲のいい友達と一緒」
『別れよう?…いや、好きなんだけどさー、友達の方がしっくりくるっていうか、彼女って感じしないっつーか、女として見れねーんだよな』
どうせ彼女になっても私なんかすぐに飽きられて捨てられる。
「私を女として見てる人なんていないよ」
視線を外して呟いたから瀬南くんがどんな顔をしているのかは分からなかった。
試合が終わり、下にいる真住が移動するのを見て声をかけに行くことにした。
「ますみんに声かけに行こっ」
明るい声でそう呟いて私は瀬南くんから離れていった。