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『 綺麗な君は桜の木 』
「アンタって本当になにもできないのね。」
冷たく、冷え切った言葉を吐き捨てられる。
どんなに罵倒されようともなにも言い返すことができない、ただ謝罪の言葉を述べるだけ。
でも、どれだけ謝ったとしても母親が許してくれることなんてない。
本当に俺も母親も馬鹿なんだなって思わされるよ。
「ごめんなさい。」「は?」の繰り返し、それなのに母親は罵倒する言葉を辞めた日などない。
それに対して謝ることを辞めた日など一切ない。
桃「………」
母親からの説教(罵倒)が終わり、解放される。
特にリビングに居てもやることはないしただただ、だらーとスマホを弄っていたとしてもどうせ頬を殴られるに決まってる。
あんな毒親のことだ、部屋なんて用意してくれるわけはない。
なんならスマホを与えてくれたことが奇跡だなんてさえ思ってしまう。
スマホと財布…この季節だしコートを羽織り、外へ出る。
その際に小さく「行ってきます。」と言ったが誰も優しく「行ってらっしゃい」だなんて微笑みかけてくれる人は居なかった。
桃「…ふぅ…」
いつもの公園につく。
すぐ近くに俺の通う高校が建てられてあり、平日の放課後にここへ来ると教師や居残りしていたであろう生徒の帰宅姿が見えるときもある。
ギィーギィーと音を立ててブランコが前後する。
トントン…と地面を蹴って前後するブランコの勢いをさらに加勢させる。
勢いのついたブランコが高く舞い上がり冷え切ったかぜがゴーゴー俺に体当りしてくる。
桃「……………高。」
と、呟いたのと同時にこのまま落っこちて居なくなりたい。
なんて考え事をしてしまうが思わず顔をブンブン横に振る。
駄目だ駄目だ…!!タヒぬなんてただただ色んな大人の人に迷惑をかけてしまうだけだ。
そう自分の心の中で抑え込み、勢いが落ち着いてきたブランコからゆっくり立ち上がる。
…それと同時に公園の入口に人が立つのが見える。
とても綺麗な青年だった。
スラッとした体型に高身長。綺麗な青髪と綺麗な青い瞳がうっすらと赤くなった空に輝いて見えた。
青「…? あ、ちわっす。」
俺のことに気づいたみたいで一声かけてくれる。
別に話したことも、仲良くしたこともない、今日が初対面。
歳は同じくらいだろうか…、ここの近所に住んでる人なのか?
だとしたらここの公園はたくさん来ているがこんな人見たことない。
桃「……」
ただ青髪でちゃらそうな人に話しかけられたのが怖かっただけ。
そう自分に言い聞かせ隣を通り過ぎる。
ふわっと感じたその匂いはなぜか俺の脳裏にこびりつくほど、印象深い匂いだった。
桃「……最っ…悪……」
そう発したきり、歩くスピードが早くなるのがわかる。
寒い冬に息が上がり、全身が熱くなるのも伝わってくる。
はぁはぁと乱れた呼吸をしっかり整え、また歩き始めた。
「行ってきます。」
AM7時、ここからそう遠くない高校へ足を運ばせる。
いつも通り朝家を出たときにも「行ってらっしゃい」の1言もなく、ただただシーンと静まり返っていた。
そんな空気に寂しさなんて感情は抱かない。
もうそれが“当たり前”。それ以外の何でも無い。
桃「……はぁ…はぁ…っ…」
うっすら寒くて体温が奪われ、自然と体力がなくなる。
そうすると息が上がってしまい、呼吸しづらくなる。
時間にも余裕がないため…と、肩に掛けといたカバンを手でしっかり握り、走る。
…向かい風が急に強くなった気がして寒さに震えながらも足を止めず、ずっと走る。
ガラガラと扉を開けて教室にはいる。
教室の中には人が2,3人居てその2,3人とも特に交友関係を築いているわけでもないため無視される。
俺も別に特に「おはよう」だなんて声をかけず小さく「おはようございます」と呟くだけ。
朝の支度を終わらせたきり、時間が予定より余ったため机に顔を伏せる。
寝るなんて気持ちはないがこの眩しい太陽の光が苦手。
なんて考え事をしていると続々とクラスメイトが教室に入ってくる。
静かだった教室もざわざわとしだす。
朝のHRの5分前には殆どのクラスメイトが集まりざわざわより、ワチャワチャが正しいだろうか。
それくらいにまで騒々しくなっていた。
「はーい、静かに。」
「今日は転校生がやってきた、ちょっと待て。」
野太い声でそう発される。
「静かに」という声は本人はそういうつもりがなかったとしてもひゅっと息を呑んでしまいたくなるくらいの威圧感を感じる。
うちの学年でも怖い方の先生として噂されている先生だけある…って感じだな。
陰キャ特有と言ったらなんだが、俺は先生とだけは深く関わりを持っている先生が多い。
この担任もそのうちの1人で、実はそんなことはないし、その噂に気にしていることも知っている。
…からこそ、そのような空気感、噂などを聞くと思わずため息を漏らしてしまう。
扉が開かれた先に入ってきた人は、その先生と…見覚えのある青髪だった。
青「猫宮いふです。よろしくお願いします。」
昨日、あの公園にいて話したこともないのに挨拶をしてきた人。
彼への第一印象はそれなわけで、思わず目を背けてしまう。
しかし彼は俺のことに気づいたみたいで、にっこり俺の微笑みかけてくる。
…そんな笑顔に思わず固まってしまい、4,5秒なにも考えられなくなる。
「あそこの端っこに座れるか?」
青「あ、はい。」
俺の後ろに来るみたいで思わずふっと目線を黒板に向けてしまう。
嫌がらせとかそういうじゃないが、あまり関わりたくない。と俺の勘がそう働いたからただあまり関わらないようにするだけ。
しかしその俺の中での誓いはビリビリに破かれるかのように彼は俺に「こんにちは」って声かけてくる。
無視するのは流石に申し訳ないから簡単な1言を伝えると彼は元々にこにこだった表情が更ににこにこになる。
…調子が狂う、こんな奴……
「じゃ、一限目はじめてくぞー。」
彼が席についた時、担任は自分の教科の授業を始めようとする。
みんな、時間割は常に把握しているため机の上には用意されており、彼の準備が終わった瞬間黒板に文字を移し始める。
ザッザッ…、って響く黒板とチョークの音と後ろから聞こえるノートを書く音がどうも授業への集中を妨げてきた。
2限、3限、4限と授業が進んでいき、昼時間。
不器用に包まれた弁当袋を広げ弁当箱を出す。
青「…手作りか?」
桃「うぉ…びっくた…」
青「ん? あー、ごめん」
胸の前辺りで手を合わせて「ごめん」なんていう。
別にいいけど…、なんてぽつり呟くと彼はにっこり笑って先程の質問を繰り返す。
嗚呼、だめだ調子が狂う…こんなに話しかけられたことも優しくされたことも、俺に向けた笑顔を見せてくれることも。
全部が久しぶりすぎて調子が狂う…
桃「…いや、弟が作ってくれた。」
青「ほぇー、弟さんが弁当作ってくれるのええな〜、俺んとこの弟なんて作ってくれへんよ」
ヘラヘラ笑って俺にそう言う。
…彼んとこの家もなにか複雑なのか…?それとも普通に思春期で作ってくれないだけなのか?
なんて考えるもズカズカ人の家庭に入り込むのも常識というものがある、辞めておこうと、心の中で秘めておいた。
桃「…ぃふさん…の弟さんってどんな感じなんですか…?」
青「いふさんて…まろでもなんでも呼びーや?」
青「それに『なんですか』って何。タメなタメ。」
俺の両頬をぎゅーって摘む。
口をとがらせてそう言うもんだから思わずふっと笑みがこぼれてしまう。
それに対してまたむぅーみたいな表情になる彼。
ほんっっとうに表情が変わりやすくてわかりやすい。
桃「…まろって何w」
青「んぁ…?そーいえばそうやな…?」
んぁなんて気の抜ける声を出すもんだからこっちの気も緩くなるのを感じる。
そして俺の勘がこの人といたら楽しそうだな、って感じた。
少しくらい気を許してやってもいいだろう。なんて上から目線で心の中で誓った。
あの出会いの日からどれほど経ったのだろう。
あの日出会った公園で2人で遊んだり近くのデパ地下で遊んだり、なんてした。
でもそんな楽しい日々でも彼の表情がたまに暗くなる日がある。
最近となっては彼が欠席する日が3日に1日ぐらいに増え、俺の後ろが静かになる日が多かった。
「お?内藤〜、悪いが、猫宮のもとに…」
欠席も増えると当然、プリント類などの配布物だって増える。
それを届けないと行事やら勉強やらなにもついていけなくなってしまう。
が、どうやらまろと家が近くて仲も良いのは俺くらいしかいないらしく、結構な頻度でパシリみたいに使われることが増える。
桃「わかりました!」
断る理由もないし、断ったら先生からの俺の評価も下がる。
そんなデメリットしかない行動を取るわけがない。
それにまろの家に行った時、運よくまろとすれ違ったりして少しでも話せたら…そんなの一石二鳥だ。
桃「…あ、では失礼します。」
チャイムが鳴り、授業が始まる合図がする。
先生の視界に入らなくなったことを確認し、少し小走りで教室に向かう。
次の授業の教室に入った時、先生に「遅刻だぞー」だなんて注意される。
「すみません…」って肩をすぼめて言うと、クラスメイトのみんなからの大きな笑いが立った。
そんな様子に少しだけ顔が熱くなるのがわかった。
桃「ふぅ…まろの家、行かないと」
なんてまるで義務!みたいな言い方をしてしまう、それにハッと気づいて思わず口元を塞いでしまう。
そんなこと思ってないし、まろの家に行けるなら大歓迎…なはずだ。
思ってもいないことを発してしまうなんて人間って怖い…。
なんて考えながら学校を後にした。
ガタンガタン…
大量のプリント達が、郵便受けに入っていくのがわかる。
その音に少しびっくりしてしまい、心臓がバクバク言うのもわかる。
きっと体調不良で今眠っているであろうまろを起こしてしまったら……なんて自分の心配しょうがでてしまい、どうも落ち着けない状態で、歩き始める。
微かに後ろからガチャ…なんて音が聞こえるもんだからびっくりして振り返る。
その先には見覚えのある青髪…と、必死こいて止めている?水色髪。
青「…ないこ!」
桃「んゎ……まろじゃん」
水「ちょ…いふくん…!!」
「いふくん」といいながらまろを止める彼はきっとまろの弟だろう。
アホっぽい面してるし。
一方、まろはというとほんのり頬が赤い気がするし、目がとローンとしている。
典型的な風邪って感じ。
青「ごほごほっ………ん”ん”ッ…」
桃「大丈夫?家で休んでなよ…」
水「本当だよ!!寝てなって何回も!!」
相当大事にされているのか、強めではあるが愛のある伝え方をされていて思わず胸がズキッとする。
自分でもわかってる、この光景を俺達内藤一家で比べてしまっているのも。
体調不良の兄…うちで言う、弟。
猫宮一家は弟…もう片方が心配してあげられてる。
でも内藤一家、俺は弟の体調不良を心配してやれない。
ただの八つ当たりなのも知ってる、ただの俺のエゴなのも知っている。
それなのに……、なんてモヤモヤ思考をフル回転させているとまろの弟さんが不思議そうにこちらを覗いてくる。
水「…? 大丈夫ですか?調子悪いのであれば家で休むのもできますけど…」
桃「ぁ…、大丈夫です!じゃあ帰りま…」
「す」と発音する前に俺の腕を掴まれる。
その腕の主はやっぱり、まろだった。
引き留めようとしているその意志も腕から伝わってきた。
青「嫌だ、ないこたん帰らんといて。」
バカップルか。だなんてツッコみたくなる言葉を吐き散らかされて思わずなにも考えられなくなってしまう。
隣りにいた弟さんも目をパチクリさせて驚いているようだった。
まろは俺を離す気なんて更々無いようで、ギリギリ俺の腕を掴む手の力が強くなっていく。
青「…ほとけとないこに看病してくれたら…まろ…頑張る。」
水「あのねぇ〜!あんた、ないこさんに迷惑かけたくないって…!」
青「…ふん、まろのことはまろが決めるの。」
ここ数ヶ月一緒に過ごしてきたが初めて聞いた一人称が「まろ」。
それにたまげていると、なにか言い争っている2人。
それに今弟さんが「ないこさん」って…、なにもかもが驚きだらけでなにも追いついていけなかった。
青「…ないこたんに迷惑かけたくないのはほんまやけど、俺が今ここでぶっ倒れてる方がないこたんにとっては迷惑やろ。」
青「そんなん、親友兼相棒の俺が知らないとでも?」
水「はぁ???マジでなに言ってるの!?言ってることが支離滅裂すぎなの!!」
「親友兼相棒」
いつの間に親友にも相棒にもなったのかよくわからない言葉を吐かれる。
本当になにも俺はついていけない。
ついていこうとしてもどんどん進んでいくから結局1テンポ遅れてしまう。
青「とーにーかーく。」
青「まろはないこたんに近くに居ってもらいたいの。」
青「それなりの迷惑はかけてまうかもしれへんけど…」
なにも話がついていけない。
「ないこたんに迷惑かける」「ないこさんに迷惑をかけたくない。」
さっきから言われるそんな言葉。
俺のいないところでそんな話が出ているらしい、から…どんどん進んでいくのだろうな。
水「はぁ…、ないこさんですよね。」
水「すみません、家の兄が。 少しだけ付き合ってくれますか?」
桃「大丈夫ですよ。」
俺があの家に居たとて、それこそ迷惑しかかけてない。
弟の看病も母親の空気読みも家の家事もなにもできない俺があの家に居ても迷惑でしかない。
父親だって家に帰ってきやしない。
そんな家にいて俺だっていい気はしない。
水「ほら、いふくん!!ないこさんが付き合ってくれるんだから大人しく寝てなさいよ!」
青「はいはーい〜」
唯一無二な可愛らしい声でそう発す。
まろ曰くぽえぼ…?らしいがぽえとはなんて考えてしまう。
そんなん考えてたら収集のつかないことになってしまうので深く考えないでいるがな。
桃「おじゃましまーす」
水「なにも用意できてなくてごめんね…」
申し訳なさそうに謝ったきり、まろが向かった…おそらく寝室に走っていった。
水「ないちゃーん!」
弟さんともすっかり打ち明けられ、ないちゃん、ほとけっちタメで話すような仲に。
まろの様子は結局ほとけっちがつきっきりでみるらしく俺はリビングでくつろいでろとのこと。
…え、俺居る必要あるか?
桃「ん?どした〜?」
さっきまでソファでダラダラスマホを弄っていたら階段を降りながら俺の名を呼ぶほとけっち。
それになにー?って応えると、要件をすぐに話してくる。
水「だから買い物行かなきゃなんなくて…、いふくんの様子見てきてくれる?」
桃「俺買い物行くよ?」
水「いーのいーの!いふくんもないちゃんと2人きりになりたいだろうし…笑」
なんて言って机の上においてあった財布をバッと取って、出ていってしまった。
ほとけっちって嵐みたいに勢いがすごい人だよなー、なんて考えながら階段を登る。
一軒家ならではの急な階段、申し訳ないがトラウマが植え付けられている家の階段とそっくりで小走りでかけ上がることにした。
いふとかかれたネームプレートが吊り下げられた扉をノックする。
しんどそうに俺の名を呼ぶから、なるべく冷静に扉を開ける。
青「…なぃ…こ?」
桃「ないこだよ、大丈夫?」
青「んー、……だいじょばない…かも…?」
なんて面白おかしそうに笑ってみせるから思わず頭を叩いてしまう。
いてwと笑ってくれたはいいものの、その笑顔でさえ引きつっているから相当熱も高いししんどいのだろうってわかる。
そんな彼の様子を見てると感情移入して胸がズキッとする。
桃「……頭、撫でていい?」
青「ん…、すきにせぇよ〜…」
桃「ありがと」
いつも学校ではヘラヘラしていてこんな感じに弱っている姿を見せてくれないから新鮮。
なんかいつもと違うからこそ…悪い気がしてきた。
桃「……ふふっ、かぁいい…」
青「んな……かわいいなんて言うなって…」
熱のせいで体が暑いからなのか照れているのかわからないが頬が真っ赤に染まっている。
しまった、声が漏れていたのか。恥ずかしいな。
…なんて意識した瞬間、ぽぽぽっと体が暑くなるのを感じる。
これは全部部屋が少し暑いせい。
そう思い込んであまり意識しないようにした。
桃「…本当のことだよ、別にいいじゃん」
青「気持ち悪いって、急な素直…」
桃「なんでよ、親友兼相棒なんだろ?」
笑ってそう言ってやると「覚えてやったか」みたいな顔をされる。
そんなくだらないやり取りがどうも面白くて笑ってやると少し拗ねたような表情をあらわにする。
そんな彼の表情に胸が締め付けられるような気がしたのもきっと気のせいだ。
青「……ふん、ないこたんの方がかわええやろ。」
桃「ん?なに、イチャイチャする気?」
青「俺ら付き合ってないやん。」
桃「そういう問題か〜」
体調不良の人に対して喋らせすぎてしまった。
心の中で後悔しながら近くにあった毛布をかける。
青「…なんやねん。」
桃「病人は寝ましょうね〜」
青「さっきタヒぬほど寝たからもういい。」
って言って、俺がかけてやった毛布を剥いだ。
折角俺がかけてやったのに……
青「……ないこたん、一緒に寝たい。」
桃「は?タヒぬほど寝たんじゃないの?」
青「違う、寒いの。」
桃「……はぁ、しゃーなしね?」
青「やった、ないこたん大好き」
「大好き」なんて簡単に言ってしまうもんだから慣れてしまった。
もちろん出会って最初の頃にまろから「大好き」やら「好き」って言われたときは照れてしまっていた。
でも…なんかもう慣れてしまうんだよな、彼の好きと大好きは簡単に言えてしまうぐらい軽いんだよ。
多分もっと彼女に向けてとかの好きはもっと真剣な雰囲気になってるんだろうっていうのがわかる。
青「……すきやからこんなこと出来るんやで。」
桃「んぁ…?」
まろの眠っている布団に潜り込んでまろと至近距離になった瞬間、そう言われる。
俺の考えていたことが見透かされたみたいに耳元で言われた。
その言葉は今までとは明らかに違う…それこそ恋人に向けられたようなトーンでそう言われるもんだから心臓がバクバクうるさくなる。
嗚呼、もう恥ずかしすぎる。このクソイケメンが……
青「んふっ、俺の気持ち伝わった?」
桃「な…!体調不良に告白してくるバカがどこに居るんだよ…!」
青「人類初、体調不良にて告白した男?」
近くで笑う彼はとても画になる。
美しい、キラキラしてて見惚れてしまう。
整えられに、整えられたその美貌が俺に対して微笑みかけてくれる。
そんな嘘みたいな現実があっていいのだろうか。
桃「……しかも告白なのかよ。」
青「男が男に告白して気持ち悪い?」
桃「いーや、そうは思わんね。」
告白されてるとは思えない空気感、あまりにも緩すぎる。
もっと…こう、ドキドキする…照れちゃう…!!
みたいにならない。告白してる側も告白されている側もバカすぎるからこそのこの空気感。
俺ららしいけどな、こんな告白ないだろ、ってツッコみたくなる雰囲気。
青「ならよかった…ゎ…」
途切れ途切れに話される。
彼の瞼はゆっくりと落ちてきていたがまだ寝たくないの意志も感じ取れた。
ばかじゃないの?なんて考えながら背中をゆっくり優しく叩いてあげる。
桃「おやすみ、まろ」
青「ん……っ」
ゆっくりと夢の中へと落ちていった。
そんな彼の様子を見て自然と俺も意識を落としてしまった。
翌日、まろの体調もすっかり治ったみたいでしっかり朝には学校に登校していた。
ちなみにあの後買い物から帰ってきたほとけっちに付き合ってるんじゃないかって騒がれながら叩き起こされた。
別に付き合ってないんだけどなぁ、なんて苦笑しながら帰りの支度をし、そのまま家へ。
明らかに帰ってくるのが遅くなったせいであの後とんでもない説教を受けたのは説明するまでもないかな。
青「ないこ〜……」
桃「なんだよ…」
青「頭痛い〜、………まさかーなにかした?」
桃「なんもしてねぇよ、低気圧じゃないの?俺も痛いし。」
青「ちぇ〜」
いつもと変わらないしょーもない会話をしてしょーもない笑いをする。
昨日の弱ったまろが、勢いでばかみたいな告白をしてきたまろが本当に今のまろと同じなのかと目を疑いたくなるくらい。
桃「…アホらしい。」
青「んぇ、それが俺らやん、どしたん?」
桃「いやべーつに。」
そんなアホらしい俺達がいいのはわかってるが口に出てしまった。
しかも「アホらしい」のみ。それは流石に嫌味にしか聞こえないだろうな。
キーンコーンカーンコーン
授業の始まりの合図が鳴る。
後ろを向いていた俺の姿勢を前に整えてしっかりした姿勢に治す。
そんなことをしているときに後ろからにひっと笑う声が聞こえてきたような気がした。
更に数カ月後。
季節は冬、2月頃。
高3の俺達には受験のためにも勉強しなきゃいけなくなり、遊んでばかり。みたいなことはできなくなった。
それでもまろと俺の仲は変わらず良い方で学校にいるときはずっと行動しているような仲だった。
青「…うぅ…寒いよぉ〜」
桃「俺のカーディガン着る?」
青「大丈夫…」
ずびっ…と鼻をすすりながら震えているまろ。
大丈夫って言ってるが明らかそうは見えないから俺の羽織っていたカーディガンを脱ぎ、まろに羽織らせる。
青「大丈夫やって言うとるやん……」
桃「ん?なんてー???」
なにも聞こえないふりしてそう言ってやるとまろははぁってため息を大きくつく。
それに対して別になにも怒りが沸かないのはさすが俺達、ってところだろうか。
青「………っあ”…?!」
しばらくの沈黙が続いた時、急にまろが口を開いたかと思ったら胸と口元を抑えてひざまずく。
俺は何がなんだかよくわからないがとにかくまろを抱き上げて保健室へ連れて行く。
なるべくまろの体に衝撃を与えないように、とゆっくり持ち上げる。
桃「ごめんね、すぐに連れてくからね。」
近くの女子が空気を読んでくれて教室の扉を開けてくれる。
アイコンタクトで礼を言うとその女子は頬を赤らめた気がした。
そんなやり取りをしている時、まろが俺の体にしがみつく力が強まった気がもした。
保健室の近くに行った時、不在の看板が吊り下げられていて、仕方なくと片手でまろを頑張って支え、保健室の扉を開ける。
ガラ…ガラ…とすっかり古くなった扉をこじ開けるように開ける。
中には誰も居なく、シーンとしていて冷たい空気が開いた窓から、流れ込んでくる。
青「………ぅ…っ…」
そんなこんなしている間にもまろの唸る声は途切れることなく、定期的に聞こえてくる。
自分がまだ意識あるよーと教えてくれているのかわからないが喋らないでほしいため、口を塞ぐ。
ベッドに寝転がせると、ガラガラと後ろから扉の開く音が聞こえる。
「…いふくんよね、なにがあったか説明できる?」
桃「はい。」
きっとクラスメイトの誰かが養護の先生を呼びに行ってくれたのだろう。
すぐに保健室に来てくれて助かった、なんて油断した気でいたら。まろの咳する声で現実に呼び起こされる。
桃「あ…、まろが急に苦しみ始めたんです。」
そこからは冷静にゆっくりと言葉を選んで先生に伝える。
緊急時だからこそ、パニックっていたら大変だ。
…急いで、でも冷静に説明する。
桃「俺がわかるのはそれだけです。」
「なるほど、私が出来る限りのことしとくからないこくんは救急車呼べる?」
桃「はい、わかりました。」
保健室にある電話機を借りて、救急車を呼ぶ。
また同じように説明をする。
救急隊の人たちが指示してくれたことをそっくりそのまま養護の先生に伝え、まろの命を守る。
数分ぐらいした頃だろう、救急車がサイレンを鳴らしてこちらへ向かってくれるのがわかる
その音を聞くだけで膝から崩れ落ちそうになる。
まだ安心する場ではないはずなのに胸がホッとなるのがわかる。
「どちらですか!?」
「こっちです!!」
「わかりました!!」
教員と救急隊の人たちが大声を張り上げてこちらに向かってくるのがわかる。
その声でさえ少しだけ恐怖心を抱いてしまい、足が震えてしまう。
「ないこくん。私は救急車に同行するから、貴方は帰ってなさい。」
桃「……ぇ、あ…」
大人が出す指示に逆らうこともできず、黙って教室に戻ろうとした時。
まろがまた声を出す。
それに救急隊の人は「声を出さないでください!」って注意されるが声を出し続ける。
青「………なぃ…くぁ……」
桃「…まろ……声出さないでよ、しんどいんでしょ…」
青「……ふふっ…すぃ…やぁ…ら…」
掠れて痛そうに声を出す。
俺のせいでその状態が悪化したら、なんてグルグル黒い思考が渦巻く。
「……すみません、あなたに同行を願いたいのですか…」
桃「いいんですか?」
「はい、いふさんも貴方が望んでいるみたいですし…」
養護の先生とも話していたみたいでこくこくと軽く頷いてくれている。
溢れそうになった涙を抑えてまろに付き添う。
お願い、無事でいて。
なんてそんなことだけ。
「では乗っていただけますか?」
桃「ありがとうございます。」
病院につくと緊張した空気が流れていた。
肌が痛くなるようなピリピリした雰囲気。
「ないこさんはここで待っててください。」
桃「はい、わかりました。」
どこで手に入れたのかわからない俺の名前を呼ぶ。
でもそんなことを考えられるほど俺の心に余裕はなかった。
病院の方たちに迷惑かけまいと一生懸命深呼吸をする。
しばらくした後、見覚えのある水色髪が見える。
桃「…ほとけっち」
水「大丈夫?顔色悪いよ?」
俺の変化に気づいて1番に声をかけてくれる。
いいよ、ほとけっちはまろの方に行ってよ家族じゃん。
水「よくないよ……、いふくんが無事で戻ってこれたときにないちゃんが無事じゃなかったら意味ないじゃん!」
桃「…でも、俺はただの兄の友達じゃん、まろはほとけっちの兄だよ?」
水「はぁ?今さっき言ったこと聞いてた?」
頬をぶん殴られそうな勢いで問い詰められる。
でもほとけっちのお陰で調子が復活してきたような気がする。
ずっとピリピリして静かだったのが俺にタメで話しかけてくれるのがやっぱ違うんだなって実感する。
桃「…ふぅ、ごめん、ありがとう。」
水「ほんっともう二度とそんなこと言わないでね?」
桃「……? 何を?」
水「っ、もういいよ!!」
怒ってない、ツッコむような感覚でそう言われて思わず笑ってしまう。
それにほとけっちも笑ってくれる。
冷え切ってた心が温まるような感覚。涙が零れそうになる。
水「……大丈夫だから、いふくんはきっと大丈夫」
桃「…うん、そうだよね。」
なんてほとけっちは言ってくれたのに。
俺達に告げられた言葉はそんな都合のいい言葉じゃなかった。
「……ほとけさんとないこさん…」
水「…兄は…!」
「…………ぁ、…すみません…やれることは尽くしましたが…」
成功したなんて言葉はどれだけ経っても言ってくれなかった。
昏睡状態。いつ目を覚ますかわからない。
ただ、我々に出来ることは全力で尽くしたがもうこれ以上手を出すのも危険な状態。
なんて冷たく突き放されたような言葉をかけられる。
ほとけっちは泣いていた。
そりゃあそうだ大切な家族がもう目を覚まさないかもしれないです。その確率が高いです。
なんて言われたら泣いちゃうに決まってる。
でも俺は涙なんてもん出てこなかった。
さっきまであんなに泣きそうだったのに結局現実を突きつけられると泣けなかった。
桃「ほとけっち………」
水「うぅ…っ”…あぁっ”…!!」
うめき声に近い声で泣くほとけっち。
それをただ頭を撫でやることしかできない俺。
本当に悔しくてしょうがない、もっとなにかできたらいいのにって。
それでもなにもできない俺は本当の無能なのだろうな。
— 数日後 —
まろは未だに目を覚まさないまま。
騒がしく話しかけてきた後ろの席には誰も座らず静かなまま。
昼休みに一緒に弁当を食べてくれるやつも、弟が作った弁当を褒めてくれるやつも居ない。
心の中が空っぽになってしまった感覚、よく聞くあの感覚が今痛いほど感じてる。
クラスメイトも空気を読んでくれているのか話しかけてこない。
桃「………」
そして今日、卒業式を迎える。
母親も外では“普通”の母親を演じているから卒業式に出るための正装くらいは用意してくれた。
…もし、まろが居てくれたら「ないこたんかわいい」なんて言ってくれたのかな。
桃「…は? 俺は可愛くないし……」
1人でそんなことを呟いてる変なやつ。になってる。
誰も可愛いなんて言ってくれない似合ってるなんて言ってくれない。
弟も母親も父親も卒業祝いに来てくれない。
…弟はしょうがないけどな、病弱だったし。
桃「………」
先生が体育館へ集まる呼びかけをする。
集団に一歩遅れて歩き出し、体育館へ向かう。
誰も俺の身近な人は居ない、それに俺の横に座る人も居ない。
…本来の卒業式なら、内藤ないこ。猫宮いふって呼んでくれたのかな。
考えれば考えるほど寂しくなる、まろが恋しい。
これはきっとずっと前から恋に落ちていたのだろう。そんなの知ってた。
あのまろが風邪引いた日からずっと。
桃「…はぁ、」
でも違った。入場の合図がなり、体育館に足を運ぶ。
その先に見えた景色は俺の想像してるものじゃなかった。
居るんだよ、水色と赤色が。
水色はほとけっち赤色は…俺の弟、りうらが。
桃「……っ…ぁ、」
ずっと愛されてなかったかと思ってた。
弟…そっか、りうらは俺のこと好きでいてくれたんだ。
水「………(拍手」
赤「………(拍手」
ほとけっちはまろのって言えばこれるだろうし、りうらも俺のって言えばこれる。
そうだよ、誰もまろのことも俺のことも忘れていたりはしてないんだよ。
なんて2人のお陰で少し軽い足取りで前へ行ける。
自分の席の目の前に立ち、座る。
すぐ右には空席。その空席に誰も座らない。いや、空席じゃない。
写真額が置いてある。
そんなことに泣きそうになる、泣けるかどうかは置いといて。
卒業式が始まり、卒業証書授与の時間が来る。
あから順に呼ばれる。
俺の前の2つ前が呼ばれ俺も立ち上がる。
それと隣においてある、額も。
そして俺の名が呼ばれる、はいって元気よく呼ぶ。
その後にすぐにまろの名も。
俺とまろが一緒に校長のもとへ行く。
卒業式が終わり、家へ帰ろうと帰り支度をする。
周りには保護者が迎えに来てばっかり。
そんな中俺は1人ぼっち。
…じゃないんだ、少し埋もれているけど先にあの派手髪が見える。
ウキウキしながら2人のもとへ駆け寄る。
桃「来てくれてたんだ、りうら」
赤「ぁ……ごめん、お兄ちゃん。」
桃「んーん、俺は嬉しいよ?」
桃「それに、まろも…ほとけっちが来てくれて嬉しいよ。」
水「えへへ…っ、そうかなぁ…?」
3人…4人で家の方向へと足を運ばせる。
— 4月上旬 —
卒業し俺も大学生。
…ではなく、俺は働くことにした。
これ以上病気のよって人を亡くすのもしんどいし、はやくりうらを治療できるように。って就職先を頑張って見つける。
けど家は引っ越してないからこそ、あの高校の前へ通る。
桃「わぁ…綺麗。」
俺達の高校は入口におっきな桜の木が植えられている。
何年も続いてきたこの桜の木は春を感じさせてくれる。
ちょっと近寄って桜の木を見に行く。
桃「……ん?」
思わず声を出してしまう。
俺が見つけたのは小さな芽。
植えられたばかりなのか全然育っていない植物の芽。
桃「んー、なんだろう?」
でもここは桜の木しか植えない。ってどっかで聞いたことがある。
…ってことは新入り?
まぁ、広いから無理はないが…
桃「……ふーん、桜の木…ねぇ。」
『 ……なぁ、知っとる?
春に咲くあのきれいな桜の木、学校の前にも植えられている木。
あれが植えられる場所には意味があるんやって 』
いつしか彼が言っていた言葉をふと思い出す。
…ふーん、意味ってそういうことか。
桃「……桜の木には——が埋まってる。ってね。」
軽く桜の木の前でお辞儀をしてから一歩前へ進む。
彼が背中を押してくれたような気がしてまた一歩前へ進むことが出来る。
辛いことがあってもいつもそばにいてくれたのは彼だけだったから
タヒんでも俺達はずっと一緒。
一緒だから今日も前へ進むんだ。
end
コメント
2件
長く書けるの尊敬すぎるんだけど...😭😭 読んでて語彙力消えちゃってなんて💬したらいいのか分からないけどとにかく感動した...😭😭💕 だんだん距離が近くなってくのとか、周りの愛情に触れたりとか...すとちゃ天才すぎて大好きです((🤛 読み始めて即ブクマしてしまった...愛読します!!!!💕
1万字お疲れ様です ‼️ あのたくさん見てください 👉🏻👈🏻💭