テラーノベル
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相反
雨と共に桜が散る。雨の音に全部かき消されるから
思う存分泣ける。…プレッシャーって洒落になんない。
「ロウ」
「なんも言うな」
目の前で蹲る青色は酷く濡れているみたい。僕の声の
調子すらもまともに掴めてない。皮肉も込めて黙る。
屋根の下に入り込んでくる雨は、部外者だ。
それを遮るように傘を置いて、濡れてる髪にタオルを被せる。
大泣きの音もまともに聞こえないほどの大雨。
抵抗のない頭を優しく軽く拭いて、タオルをしまう。
折りたたみ傘を出して、開く。大きい傘をその場に置きっぱにして
折りたたみ傘をさして歩き始める。
少しして後ろから大きな犬が付いてきたみたい。
少し歩いて、バス停で止まって振り返る。
「ロウ」
俯き気味な男の名前を呼んで傘を取上げて座らせた。
「何がしたいの?」
少し、ほんの少しだけイラついた。この男のなよなよしてる姿は
見たくなかった。だから、強く言ってしまった。
「っ、べつに、ただ、」
はっきりと喋ってほしい。曖昧な言い方は嫌いだ。
「ロウ。僕の目見て喋って」
ロウの顎に手を当てて、グイッと僕の方を向かせる。
大きく見開かれた三日月を描く瞳が僕を捉える。
軽く開いた口から少しの空気が漏れた。
「……、ウェン、おれ…たぶん、つかれたんだと思う」
苦しそうな、かえって穏やかな表情が僕を刺した。
でも、そんなことでこんな苛立ちは収まるわけない。
「ロウ、僕にどうして欲しいの?」
「……、だきしめてほしい」
僕の強い言い方にロウは物怖じしない。
よかった、そこまで弱ってなくて。そこまで弱ってたら
殴ってた。素直なロウに関心を覚えつつ、頭を撫でて抱きしめた。
「これでいいの?これで、いつものロウになる?」
「うん、多分」
声色は戻ってこない。雨は止まない。僕の、、
「ロウ。かえろっか。僕んちきて」
雨音よりも大きく伝える。腕の中の冷たい温もりが
また、すすり泣きを始めそうで、嫌で、叩いた。
泣くな、言った声は雨音に勝ることは出来なかった。
ロウには届かず、道行く人は傘を閉じる。
相反する景色が、僕たちの姿で、、目を閉じた。
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