コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
シャーリィがワイトキングと語らうためダンジョン奥地に残ったあと、ベルモンド達は不安を抱えながらもダンジョンを脱出。手の空いた人員を総動員してダンジョン内部に構築した拠点および集積した物資の引き上げを急ピッチで行っていた。
「ワイトキングと話し合いを?あの娘はどこまで常識破りなのやら」
報告を受けたカテリナは、呆れたように溜め息を漏らす。
「死者の王は極めて強大なれど高い理性と叡智を持つと言います。そんな存在に先入観や偏見などと無縁なお嬢様が出会えば、言葉を交わそうとするのは無理もない話です」
セレスティンは感心したように話す。
「爺さん、感心してる場合かよ。俺はシャーリィが心配で堪らねぇぜ」
溜め息混じりにルイスが愚痴る。
「シャーリィがいきなり変なことするのは慣れてたつもりなんだがなぁ」
「何のまだまだ、ルイス様には今から慣れていただかないと困りますな」
セレスティンが薄く笑いながらルイスを見る。
「こんなの序の口とか言わねぇよな?」
「お嬢様に周囲が振り回されるのは幼少期から変わりませぬ。知的好奇心の塊ですからな」
「今から胃が痛いぜ」
「慣れなさい、ルイス。あの娘の奇行についていけないと恋人には成れませんよ。諦めることです」
「それでも今回のはどう考えてもヤバイだろ」
「お嬢様が大丈夫と判断されたのならば、それを信じて待つのも臣下の務めでございます。むしろ私もワイトキングと語り合いたいものですな」
「爺さんがシャーリィみたいになってるぞ、シスター」
「諦めが大事ですよ、ルイス」
カテリナの目はまるで聖母のように優しかったと言う。
ダンジョン最深部では。
《ふむ、魔王様は破れたのか。いや、そなたの身なりを見るに人間の世が来ているのだな》
「はい、マスター。伝説の勇者様の活躍で魔王は討ち果たされましたが、魔物は世に放たれたままです」
シャーリィは用意された椅子に座りワイトキングと語らう。
《さもあろう。我を含め全ての魔物は魔王様が世に解き放ったもの。勇者と言えど手に余ったか》
「復讐などは考えていないのですか?」
《他のワイトキングは知らぬが、我は左様な事を考えてはおらぬ。我が望は知識のみ、知らぬことを知る喜びに勝るものはない》
「それを聞けて安心しました」
《では此度の報酬を授けねばな。魔石を出しなさい》
「これを」
シャーリィは自らの魔石を差し出す。
《ふむ、炎の魔石か。小さなものであるな》
「はい、その為使いどころに困っているのです」
《であろうな。この大きさでは低位の魔法でも直ぐに魔力が尽きよう。では、本日の報酬はこれにしよう》
ワイトキングが魔石を持つと小さな魔法陣が現れて魔石を包む。
「マスター、それは?」
《魔石の変換効率を高めておる。容量を増やすのは容易ではないが、変換効率を高めれば使える回数も大幅に増えよう》
「そんなことが出来るのですか。マスターと仲良くなれて良かったと実感します」
《素直に言うではないか、勇気ある少女よ》
「取り繕うのは苦手なので」
魔法陣が消える。
《さあ、使いなさい。これまでの十倍は魔法を使えよう》
「感謝します、マスター」
《良い、知識の礼である。次は魔法の使い方を教えよう。無論、我の知らぬ知識と交換であるが》
「はい、私の知る限りを提示させていただきますね。マスターが至福の時間となるよう私も頑張ります」
《うむ。さて、夜も更けてきた。ここと入り口を直接繋げよう。そなたは家に帰ると良い》
「あの、マスター」
《うむ》
「彼方の泉の水を持って帰っても良いでしょうか?真っ黒な水は見たことがありません」
《構わぬ。我も良く分からぬ故な》
許可をもらったシャーリィは瓶に地底湖の液体を詰める。
《扱いに気を付けるのだぞ、勇気ある少女よ。その液体は良く燃える》
「燃える水……まさか、これは」
シャーリィは珍しく驚いた表情を浮かべて瓶に詰めた液体を眺める。
《ほう、それが何なのか知っておるのか?》
「まだ確証はありませんが、もし私の予測が正しいならば大発見となります。少なくとも、この液体を知っていて効果的に使えるであろう人を知っています」
《それは大変興味深い。では次はその液体についての知識を求めるとしよう》
「はい、必ず。状況次第ではどんどん使うことになるかもしれませんが、構いませんか?」
《構わぬ、我には用の無いもの故な。地底湖全てを自由に使っても良い》
「ありがとうございます、マスター。ではまた、これの結果をお伝えに参ります」
《うむ、気をつけて帰りなさい》
シャーリィが部屋を出ると、本当に外へと出ていた。星空が広がる夜半、周囲は松明で明るく照らされていた。
「お嬢様、お怪我はございませんか?」
マクベスがシャーリィを迎える。
「マクベスさん、警備ご苦労様です。話し込んでしまいました」
「聞きましたぞ、ワイトキングと対談をなさったのだとか。前代未聞ではありますが、お嬢様ならばと納得してしまいましたぞ」
「自分が異質である自覚はありますよ。他の皆さんは休まれていますね?」
「先ほどまでルイス君が待っていましたが、疲れている様子でしたので、近くの小屋で休ませております」
「分かりました、私も向かいます。マクベスさん、明日の朝セレスティンに聞きたいことがあるのでそう伝えておいてください」
「畏まりました。お嬢様もごゆっくりとお休みを」
「ありがとう」
小屋に向かったシャーリィは、ドアを開いて中へ入る。家具もベッドくらいしかない小じんまりとした仮眠用の小屋で、ルイスが待っていた。
「ただいま戻りました、ルイ。まだ起きて……?ルイ?」
ルイスはシャーリィに駆け寄り、その小柄な身体を抱きしめる。
「無茶すんなよ、どれだけ心配させんだ。みんな心配してたぞ」
強く抱きしめるルイス。
「……確かに軽率な行いをしました。マスターが紳士的でなかったら私は命を落としていたでしょう」
「わかってんなら、もう少し慎重になってくれ。本当に、無事で良かった」
「ごめんなさい……そして、心配してくれてありがとう」
シャーリィも優しく抱き返す。
「心配かけた罰だ。今日は手加減しねぇからな。俺がどれだけ心配したか分からせてやる」
「ふふっ、お手柔らかにお願いしますね」
そのままルイスはシャーリィをベッドに押し倒し、衣服の擦れる音が響きしばらくすると窓から差し込む月明かりが産まれたままの姿になった二人を照らし出す。
シャーリィは鍛え上げられたルイスの逞しい肉体に、ルイスは小柄ではあるが真っ白な肌に女性らしさを増したシャーリィの肉体にそれぞれ魅せられしばし硬直。
「っ!」
「っ…はぁっ…」
そして意を決したルイスがシャーリィに覆い被さると少女の熱い息遣いとベッドが軋む音が室内に響き始めた。
それは互いに無事を確め合うように交わり。誰にも邪魔されない二人きりの夜だった。