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風子さんは、とても愛想がいいのだろう。
いつも挨拶の言葉に続けて
“買い物?”
“お出かけ?”
など一言添えてくれる。
まさか、私が一人で出かけるはずもなく、アルバイトだと答えた時に少し虚しかったこともまだ記憶に新しい。
「引っ越しから、こっちへ来て困っていることない?」
「ありがとうございます。なんとか大丈夫です」
「そう。亜優ちゃんも学校に慣れて、何より中西さんが直美さんをサポートして、仲がいいものね」
髪がはねているところも見たことない、今日も綺麗にメイクした風子さんの顔を見ながら…やっぱりそう見えるよね。
仲がいい、とは少し違うのだけれど…と思いながら
「秋山さんは…羨ましいくらいに千愛ちゃんを大事にされていて、可愛がっておられて、本当にいいパパですよね」
と応じる。すると
「私は、子どもがいても夫婦で仲がいい直美さんが羨ましいくらいよ?」
と返ってくる。
「子どもがいれば、子どもを優先して当たり前だと思うんですけど…少なくとも、私はもっと亜優を優先して可愛がるパパになって欲しいんですよね」
「わからなくもないけれど……」
言葉を区切り、真顔になった風子さんは
「私の名前は秋山風子なのよ」
と当たり前のことを言う。
「秋山千愛のママ…っていう名前じゃないってことをわかってくれる夫なら、幸せよね…」
そう言って家に入った風子さんの悩みが、余裕のない私に分かるはずもなく、私の苦悩を彼女が知るはずもない。
ただ互いに羨ましいと感じているのだとは、自分のことで精一杯の私たちは気づいていなかった。
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