──2024年3月23日
待ちに待った新婚旅行!
予定通り私たちは、1日目、羽田から那覇へ
那覇で乗り継ぎをして与那国島へ向かう。
その時まで私たちは、知らなかった。
羽田からの飛行機がお父様のラストフライトデーだとは……
朝、乗り込んだ時に、何気なく聞いていたアナウンス、「本日は……」のキャビンアテンダントさんの声をサラッと聞き流していたので、操縦士、副操縦士……の部分を聞いていなかったのだ。
そして、着陸の少し前に、
「本日、パイロット生活最終日となります、機長より皆様にご挨拶がございます」と、機長さんの声が流れるようだ。
「本日は、当機をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。機長の綾瀬でございます」
「「えっ!」」
2人で顔を見合わせた。
──まさか……
那覇市の気候や気温の話をされた後、
「私事ではございますが、本日がパイロット生活の最終フライト日でございます。
皆様を那覇空港まで無事にお送りさせていただき、帰京する便を持ちましてラストフライトとなります。
本日、新婚旅行並びに観光、お仕事など様々なご多用により、多くの方々にご利用いただきまして誠にありがとうございました。
長年のフライト生活が送れたことを心より皆様に深く感謝申し上げます。
本日が皆様にとって素敵な1日になりますようお過ごしくださいませ。ありがとうございました」
拍手が起こっていた。
私は、それを聞いて泣いていた。
「お疲れ様でした」
匠の顔を見ると、匠も泣いていた。
初めて見る匠の涙。結婚式でも泣かなかったのに……。
美しい涙だと思った。
『パイロットにだけはならない!』
ずっと、寂しくて辛い思いをしていたのだろう。
でも、お父様がされて来られたお仕事が、多くの方の役に立ち、笑顔にしてくれるお仕事だと、
匠は、ようやく理解出来たのだろう。
小さかった匠には、分からなかったこと。
「お父様、凄いね。素敵なお仕事だね」
「うん」
匠の背中を撫でてあげた。
そして、那覇に到着。スムーズで素晴らしい着陸だった。
「上手だったね」と言うと、
「うん」と匠は笑顔だった。
お父様は、きっと今日この便に合わせて、どなたかに代わっていただいたのかもしれないとさえ思った。
那覇まで乗って来られると、また今日のうちに折り返し羽田に向かって帰られる。
私たちも那覇ですぐに乗り継いで与那国島へ向かってしまうので、お会いする時間はないのかもしれない。
でも、着陸後ギリギリまで機長が降りて来られるのを待とうと思った。
すると、お父様が降りて来てくださった。
「お父様! ありがとうございました。お疲れ様でした」と私が言うと、
匠は、お父様と握手をして、ハグしていた。
「ナイスフライト! お疲れ様」と……
「おお! 1時間後には帰ってしまうけどね」
「あ、そうなんだ」
「綾さん、楽しんで来てね」
「はい! ありがとうございました」
「うん、じゃあ急いで」と、時計を見ながらおっしゃってくださった。
「はい」
「気をつけて!」と手を振ってくださった。
私たちは、与那国島へ向かう、少し小さな飛行機に乗った。
匠は、長年の|蟠《わだかま》りが取れたかのように、スッキリした顔をしている。
それを見て私も笑顔になる。
「ふふ〜」
「ふふ、何?」と言うので、
「ううん、凄い場面に立ち会えて良かったよ」
「うん」とだけ匠は言った。
そして、黙って手を繋いだ。
「うわあ、綺麗〜!」と、すっかり綺麗な海を見るのを忘れていた。
那覇から1時間20分のフライト。
最後は、少し風で揺れたのか一瞬フラッとして、ドンと着陸した。
「お父様の方が上手だね」と、比べてしまうように言ってしまった。
「ハハッ」
そして、ようやく与那国空港到着。
「暑いね」
お昼1時半、すでに気温は、27℃
「おお、暑いなあ」
早速2人共半袖になる。
「日焼け止め!」
塗って来たが更に塗っておかなきゃ。
「うわ〜最高〜! な〜んもない!」
「え? 綾! その言い方は……」
「だって、普段都会でビルばっかり見てるのに、こんなに自然がいっぱいで、な〜んもないのは最高だよ」
と言うと、
「いや、そうなんだけど……言い方!」
「お腹空いた〜」
「だよな、とりあえず昼飯食うか!」
「うんうん」
そして、せっかくなので、やっぱり沖縄そばを食べた。
「あ〜美味しかった」
お腹が満たされた。
沖縄そばと言っても、その地域で少しずつ違うようだ。
与那国そばは、太麺のストレート麺に、あっさり鰹節と豚骨のスープ、三枚肉が乗っている。
ソーキ(スペアリブ)が乗っていればソーキそばと呼ぶらしい。
そして早速、レンタカーを借りて、島を周る。
「診療所に行こう!」
「いきなりだな! やっぱ1番に行きたかったのかよ」と言われた。
「うん! 今お医者さんごっこブームだから」
「ハハッ、それは俺たちだけだよ」と笑っている。
ガイドブックの地図を広げて見る匠。
「綾! ホテル目の前のコレだわ!」
「コレ? 綺麗な所だね。新しいね」
「うん。こっちから周ろうよ、診療所は真逆だから」と、灯台を指差している。
「あ、そうなんだ! じゃあ、たっくんにお任せします!」と言うと、
「了解〜!」
「うん!」
そして、地図を見ながらスマホで検索をする匠。
「|東崎《あがりざき》灯台の方に向かって走ろう」と言う。
「はい! 喜んで!」
「ハハッ」
車で少し走ると、馬が居た。
「うわ! たっくん! 馬、すぐそこに馬が歩いてるよ」
「おお、ホントだな。凄い数! あ、牛も居るよ」
「どこ? あ! ホントだ! ほら、やっぱり東京では考えられない景色だわ。沖縄本島とも全然違うね」
「うん、そうだな」
「海も綺麗だし、もう既に楽しい〜!」と馬と牛と海を見てもう私は、ハイテンションになっていた。
「沖縄最高〜」
「ハハハハッ」
東崎灯台に着いて車を降りると、馬が広い牧場で寝そべっている。
「え、こんなに普通に居るんだ! 柵もないんだね」
「うん、放牧されてる。ホントに自然だな」
「写真撮ろう!」と言って馬や灯台をバックに、たくさん写真を撮った。
与那国馬は、大人しいので、近づいても逃げたり威嚇したりしないようだ。でも、野生のため触れるのは止めた方が良いとか。
それに、1つ気をつけるとすると、馬の糞があちこちにあるので、踏まないように慎重に……
駐車場には、パイナップルに良く似た琉球アダンと言う植物があった。
「コレ、パイナップル?」と聞くと、
「ううん、琉球アダンと言うらしい」
「へ〜食べられる?」
調べてくれる匠
「そのままでは、食べられないんだって」
「残念」
「食べようとしてたのかよ、ダメだぞ」
「うん」
「アクが強くて繊維が多いし、地元の人も食べないみたいだな。でも、天ぷらとか、湯がいたりして、調理して食べた人は居るみたい。手間が大変そうだからな」
「なるほどね〜」
そして、そこからの景色を一望した。
残念ながら灯台は、老朽化で進入禁止になっていて登ることは出来なかった。
断崖絶壁なので、端までは怖くて行けない。
でも、手前からでも充分景色は見ることが出来た。
「凄いなあ」
「うん、凄い景色」
「じゃあ、次行くか!」と、車に乗って又走る。
途中、軍艦岩が見えた。
「うわあ、ホント、軍艦みたいな形だね」
軍艦のように見える岩。
そして、いよいよ、診療所へ
「うわ〜コレだわ! 凄い所に立ってるんだね。
すぐ海だ」と、マジマジ見る。
「先生大変だっただろうね」と言うと、
「知り合いかよ」と言いながら笑う匠。
「ふふ、一方的にこっちが知ってるだけですが何か?」
「ハハッ、だな!」
写真を撮って、2人でも撮る。
人気スポットだから、他の人も来られたので、
ササッと移動する。
「満足?」
「うん」
「じゃあ、売店も観光名所になってるけど……」
「お土産物屋さんかな?」
と行ってみて、お土産物を購入して、沖縄の乳酸菌飲料を飲んだ。
製塩所では、与那国の海塩を購入。
そして、比川浜には、白砂の浜辺が広がっていた。
「わあ〜ビーチだ! もう砂浜はないのかと思ってた」
「少ないからな。ココが1番綺麗だな」
「うん」
珊瑚がゴツゴツしている海岸が多いが、こちらでは、シュノーケリングを楽しんでおられる方もいらっしゃった。
私たちは、1泊だし宮古島でマリンスポーツをする予定なので、しばらく、それを見ながらビーチでまったりする。
何も考えずに、ビーチでまったりするほど贅沢なことはない! と思った。
そして、ようやく日本最西端へ
こちらは、|西崎《いりざき》と読むらしい。
ちょうど夕方になったので、夕日が綺麗だ。
「綺麗〜」
「うん、ちょうど良い時間になったな」
「うん、最高〜!」と、夕日の写真をたくさん撮った。
台湾まで111キロ。
「うわ〜ホントに近いんだね」
「でも、台湾の方は、霞んでて見えないな」
「いつも見えるわけじゃないんだね」
「運が良ければ年に数回見えるとか……」
「そうなんだ。見えたらラッキーなんだね」
しばらく海を眺める。
「あ〜やっぱり海っていいよね〜」
「うん」
「ん? あの山々は台湾じゃないの?」
「え? そうか? でも、方向的にはそうだよな」
「え〜奇跡じゃん!」
「いや、ホントかなあ?」
「後でニュースになるんじゃない?」
「かもな」
一瞬だけモヤが晴れ、山々のシルエットが見えた。
写真におさめたが、それがそうなのかどうかは、定かではない。
夕日がとても綺麗なスポットだった。
私たちは、ホテルにチェックインした。
部屋は、オーシャンビュー!
「うわ〜最高〜! ありがとう〜たっくん」
「うん、喜んでもらえて良かった」
チュッとする。
ディナーは、ホテル内のレストランで食べた。
せっかくなので、沖縄料理をふんだんに!
とりあえず、オリオンビールで乾杯。
「お疲れ様〜」
「お疲れ、乾杯〜」
「乾杯〜」
「あ〜美味っ!」と匠。
「う〜ん、美味しい〜軽いから呑みすぎちゃいそう」
「《《奥さん》》! 今夜は酔ってもいいですよ」と言っている。
「ふふ」
サラッと流した。
「美味しそう〜いただきま〜す」
「アレ? 流された」と笑っている。
「ふふっ、美味しい〜!」
お刺身の盛り合わせ、もずくの天ぷら、島らっきょうの天ぷら、じーまみ豆腐、ミミガーの酢味噌和え、ゴーヤーチャンプルー、焼きテビチなど……
見たことのないような沖縄の魚のお刺身、新鮮で美味しかった。
それに、リアルなテビチ。見た目だけで、ちょっと引いてしまって食べたことがなかった。
匠が「美味っ!」と食べていたので、1番グロテスクではない形のを恐る恐る食べてみた。
「美味しい」
これは、ビールが進む!
かしこまった料理ではなく、ご当地グルメが食べたかったので、とても堪能できて良かった。
部屋へ戻った。
明日は、いよいよ宮古島でのウェディングフォト。
「たっくん! 沖縄に連れて来てくれてありがとうね〜」
「ううん、俺も来たかったから」
「うん。明日も楽しみだなあ〜」
「おお、また綾のウェディング姿が見られる! 嬉しい」と言う。
そして、抱きしめられてキスをする。
「たっく〜ん」
「ん?」
「せっかくだから、今日は、診療所ごっこにしようね〜」と言うと、
「せっかくだから? あ〜与那国島だから? 診療所ごっこ? 又新しいのが増えた?」
「うん、大丈夫よ、切らないから」
「ハハッ、良かった! もう切らないでね」と笑っている。
匠もノリノリだ。
「あ、まだだよ、お・ふ・ろ」
「うん、分かった」
そこは、いつも妙に素直にお風呂のお湯を入れに行ってくれる。
気持ちがいいので、窓を開けてベランダに出た。
「うわ〜綺麗〜」と星空を眺める。
「ん?」と匠が戻って来た。
「見て〜満天の星空」
「うわ〜綺麗だな」
「うん、端から端まで、ぜ〜んぶ見えるね」
「うん、凄いな」
やはり、都会ではこんなにも綺麗な星を見ることは出来ない。
ずっと眺めていたい。
上を向いて眺めていると、上から匠の顔が現れた。
「ふふ」
ベランダで、そっとキスをした。
目の前は、海だから誰にも見られない。
「星、見えないよ!」と言うと、
「そっか、星には負けるよな」と、後ろからぎゅっと抱きしめられながら、一緒に星を眺めた。