「ええええー?」
麗が困惑していると、隣で義彦がぷっと吹き出し、肩に乗せていた手を離した。
「ああ、ごめん。肩に触っちゃって」
「いえ、助けていただいてありがとうございました」
麗はぺこりと頭を下げた。一人では走って逃げるしかなかっただろうし、間に入ってもらえて本当に助かった。
「麗ちゃんも親父たちのところに行く途中だよね。兄貴からタクシー代もらわなかったの?」
明彦を非難する意図を感じ、麗はふるふると首を横に振った。
「断固拒否しました。電車で行けると思って……」
残業で一緒に行けないという明彦にタクシー代を渡されそうになったが、麗は断っていた。
だって、一人で行けるとは思っていたのだ。
ただ、会社と家の往復ばかりをしていた麗にとって梅田駅を一人で歩くのは久しぶりのことだった。
そのせいですっかり様変わりしていて道が全然わからないだけである。
「梅田駅はダンジョンなのに、無茶するねぇ。俺は今からタクシーに乗るから麗ちゃんも強制連行ということで」
そのダンジョンで行き先が同じとはいえ義彦に会えたのだ。運が良い。
「すみません、ご迷惑を。助けていただいてありがとうございました」
そう言われ、義彦がこっちこっちとタクシー乗り場まで連れて行ってくれる。
「全然、大丈夫。それにしても、麗ちゃんって、ほんと引き寄せ体質だよねー」
「? おばけなんか見たことないですよ?」
麗はコテンと首を横に傾げた。
「そうじゃない、そうじゃない。麗音さんと違って変な男を引き寄せるって話」
「それは……否定できないです」
麗は実はちょっとモテるのだ。不本意な人達から。
生来の不幸オーラのせいだろうか。軽く見られることが多く、なんかこう、麗を侮ってくる男とか、それこそ二股相手にとか、不倫相手にとかが結構多い。
だが、そういう男は皆、麗が明彦に可愛がられているところをみると一瞬で引く。
別に口説いたり、恋人のふりをしてもらったわけでもないのに、明彦が登場するだけで、奴等は退散するのだ。
明彦のような男に構ってもらえる女、というだけで彼らは麗を馬鹿にできなくなるのだろう。
「でしょ? うちの兄貴なんかその最たる例」
「ええ? 明彦さんはまともですよ」
「どうだか」
ふっと、義彦が鼻で笑った。
それはふとした仕草で、兄弟故の軽口にも思えた。
だが、どうしてもその仕草が気になってしまう。
何故いつも、義彦を苦手に思ってしまうのか、麗は自分でもよくわからなかった。
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