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「前回会ったのはふた月くらい前だったっけ? 今回も先生のお使いかな」
「はい。クライヴさんにお届けしたいものがあってリズと一緒に来ました。それと、ネルさんとティナさんの様子を見に……」
ダレルさんはクライヴさんの補佐をしていることもあってか、私たちが詰所に来ると甲斐甲斐しくお世話をしてくれる。ネルとティナに会う際の付き添いだって何度もしてくれた。『クレハ』の姿の時はこんな風に話しかけてはくれないので、そこはちょっとだけ寂しいけど。
「ダレルさん、すみません。こちらの女の子は……」
ダレルさんの少し後ろにいた若い兵士さんは、私たちのやり取りを不思議そうに眺めていた。どうやら彼はラリーが分からないようだ。私の方もこの兵士さんの顔を見て思い当たるものがない。
隊長の補佐であるダレルさんと親しげに会話をする謎の子供の正体……気になるのは当然である。
「ああ、お前は直接会ったことはないんだな。彼女はラリーさん。ルーイ先生の助手だ」
「はじめまして、ラリーといいます」
ダレルさんが簡単に紹介をしてくれたので、それに続いて挨拶をした。若い兵士さんはラリーという存在自体は把握しており、ネルとティナの様子を定期的に見に来ているというのも知っていた。ただ、やはり直接顔を合わせたことはなかったそうで……今日初めて情報としてしか知らなかった『ラリー』の実物を見たのだという。
「君があのルーイ先生の……。初めまして、自分は王宮警備隊三番隊所属のハリソン・プラットといいます」
「えっ……あ、あなたがハリソン・プラットさんですか!!」
タイミングが良ければ会えるかもしれない程度の期待だったのに……こんな偶然があるのか。今私の目の前にいる彼がハリソン・プラットさん……コニー嬢のお兄様だったのだ。
意識してもう一度彼の姿をじっくりと眺めてみる。なるほど……随所にコニー嬢の面影がある。特に目もとなんかそっくりだった。
「おや、ハリソンと違ってラリーさんの方は彼のことを知っているみたいだね。ハリソン……お前こんな可愛い子に名前を覚えられてるだなんて隅におけないな。一体何をやったんだ?」
「い、いえ!! 自分は何もっ……会うのは間違いなく今日が初めてで……」
ハリソンさんが顔を真っ赤にして狼狽えている。不躾にジロジロ見過ぎてしまった。彼があらぬ疑いをかけられてしまう前に事情を説明しなくてはならない。
「驚かせてしまってすみませんでした。おっしゃる通り、私と彼は今日が初対面になります。こちらが一方的に知っているのには理由がありまして……」
彼の妹であるコニー嬢と面識があるのだと告げようとした。その時だった。
詰所の入り口の方からこちらに向かって歩いてくる人影がふたつ……それらがほぼ同時に声を上げたのだ。
「ラリーさん!?」
「リズと……クライヴさん」
一足先に詰所へ挨拶に行っていたリズが戻ってきた。それもクライヴさんと一緒に。お仕事中だっただろうに、わざわざ迎えに来てくれたのか。
「ア、アークライト隊長!!!!」
三番隊隊長の登場にダレルさんとハリソンさんは勢いよく敬礼をした。ぼんやりとクライヴさんとリズを眺めいた私も、そんな彼らにつられて背筋が伸びた。
「連絡もせずにお邪魔してしまってすみません。食べ物ですので早く届けないといけないと思って……」
「こちらこそ、ご足労頂き恐縮です。ルーイ先生には後日改めてお礼を伝えますね」
私たちは詰所内にある応接室へと場所を移した。部屋には私とリズとクライヴさん……そしてハリソンさんの4人がいる。
本日一番の目的であった『パウンドケーキを届ける』は無事に完了した。あとはネルとティナに会えばよかったのだけど……
ハリソンさんの表情は可哀想になるくらい緊張しきっていた。彼の先輩にあたるダレルさんは早々に自身の持ち場へ戻ったというのに、どうして自分だけがこの空間に取り残されているのか……頭の中はそんな疑問で一杯だろうな。更にクライヴさんが私に対して妙にかしこまるせいで、『ラリー』の立ち位置に関しても違和感を持たれてしまいそうである。
「えーと、ハリソンさん。先ほどは失礼致しました。改めて自己紹介します。私はラリー。そしてこちらは友人のリズです。リズの事はご存知ではないかと……」
「リズ・ラサーニュと申します。私ともこのように顔を合わせて会話をするのは初めてですよね。どうぞお見知りおきを……」
「……ハリソン・プラットです。リズさんはレオン殿下の婚約者の侍女をなさっているのですよね。こちらこそ、よろしくお願いします」
ぎこちない空気の中、私たちは互いの名前を名乗り合った。ハリソンさんの緊張が多少なり和むかなと思ったけど、あんまり効果はなかったみたいだ。
「ハリソン、そんなに固くならなくてもいい。別にお前に対して何かするわけじゃないんだから、もう少し肩の力を抜きなさい」
「は、はい! 申し訳ありません。アークライト隊長」
一度深呼吸をしろとクライヴさんに命じられ、ハリソンさんは大きく息を吸って吐き出した。
ハリソンさんが緊張し過ぎてどうしたものかと気を揉んでいたけど、クライヴさんが助け舟を出してくれて助かった。さすが直属の上司の言葉は強い。
「ちょっと挨拶をしたいなという軽い気持ちだったんです。どうか気楽になさって下さい」
「あ、あの……そのことなんですが、どうして自分などに会いたいと?」
クライヴさんのおかけでガチガチになっていたハリソンさんの体もほぐれてきたようだ。これなら大丈夫そう。私たちは詰所前で中断されてしまった話を再開した。
Ruu
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羽海汐遠
16,561
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