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「……これは」
そこから先に記されていたのは、今回の婚姻とはまた別の話だった。
セレノ殿下自身が生まれ持った黒髪と赤い瞳について、その色をいつまで隠し続けるべきなのか。
いずれは自らの〝本当の色〟を公にすることも考えるべきではないか――と、アレクトの意見を求める内容だった。
「…………」
アレクトはしばらく黙ったまま、その問いを見つめた。
セレノ殿下が黒髪を赤く染めていることは、理由も含め、以前から知っている。
自国イスグラン帝国とは違い、マーロケリー国では黒髪や赤い瞳を持つ者を迫害するようなことはない。
(我が父は、赤毛に緑目を毛嫌いしていたからな)
二人の男からの手紙にも散々出てきたリリアンナ伯爵令嬢は、まさにその対象だった。
父オルディス・ヴァルター・ヴァルドールが存命だったころ、デビュタントでリリアンナ嬢を見た時の険しい顔を、アレクトは忘れていない。
生まれた国が違えば、敵国の色を持った者でも冷遇されることなく過ごすことが出来る。
だが、そんなマーロケリー国においても、やはりその対象が王太子ともなるとそうも言っていられないらしい。
かつてはひとつだったノルディア王国。
そこから分かれ、長い年月をかけて別々の国として歩んできた、イスグラン帝国とマーロケリー国。
敵対してきた隣国と同じ色を、次代の王となる男が持っている。
それをどう受け止めるかは、民によって違うだろう。
まして両国の関係は、ようやく変わり始めたばかりなのだ。
(今すぐに、というわけにはいかないだろうが……)
アレクトは椅子へ深く身を預けた。
(和平が叶った暁には……)
いつか、その色を隠す必要のない日が来ることを、自分もセレノ殿下も熱望している。
セレノ王太子が自身の色を国民に向けて公に出来たならきっと、それは両国にとって意味のあることになるだろう。
父オルディス・ヴァルター・ヴァルドールの治世下では、マーロケリー国民を思わせる色を持つというだけで、リリアンナ嬢のように迫害された者たちがいた。
我が国に根付いたその価値観を変えていくためにも、セレノ殿下が生まれ持った色を公にすることには大きな意味がある。
赤い髪も。
黒い髪も。
赤い瞳も。
緑の瞳も。
それらは本来、どちらか一方の国だけに許された色ではない。
かつて同じ国に生きた者たちの血が、今も両国に流れている証なのだから。
「……悪くない」
ぽつりと呟く。
ただし、順序を誤ってはいけない。
#ギャップ
ひより
3,413
ひより
3,504
#三角関係
霞花怜
5
#白い結婚
夕凪ゆな
123
セレノ殿下が〝本当の色〟を明かすことで和平を作るのではない。
まずは両国が手を取り合える関係を作る。
イスグラン帝国とマーロケリー国は、もはや敵ではない。
その事実を民たちにも受け入れてもらった、その先で――。
マーロケリー国の次代を担う王が、自らの黒髪と赤い瞳を公にする。
そうなれば、それは両国が過去を乗り越えたことを示す、ひとつの象徴になり得るだろう。
コメント
2件
アレクト殿下も策士だなぁ!
うわ、今回のエピソード、めっちゃ考えさせられる……。アレクトがセレノ殿下の黒髪と赤い瞳をどう公にするか、順序を大事にしてるのがすごく伝わってきた。まず和平ありき、その先に“本当の色”を象徴にするっていう考え方、すごく好きだな。敵国の色を恐れない国にしたいって願いが、アレクトの過去のトラウマにも繋がってて、重いけど希望がある。この世界観、もっと深く知りたいです…🥀