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「ならば、なおさら先に進めなくてはな」
アレクトは机上に並べた二通の親書を見下ろした。
和平への足掛かりとして考えていたリリアンナ嬢との婚姻は、もう望めない。
であれば、代わりとなる縁を結べばいい。
幸い、ランディリックはその候補まで用意してきている。
ダフネ・エレノア・ライオール侯爵令嬢。
アレクトとて、彼女が王太子妃として申し分のない娘だと思っているわけではない。
ウィリアムから聞かされた一連の騒動を思えば、むしろ不安の方が大きいくらいだ。
だが、セレノ殿下との間には、すでに無視できない〝過去〟がある。
そして現在の彼女には、ライオール侯爵令嬢という身分もある。
何よりセレノ殿下自身が、ダフネ嬢との婚姻そのものを拒絶しているわけではない。
(本音を言えばお嫌なのだろうが……断れない因縁があるのも確かだからな)
「……仕方がない。あの男の思惑に乗ってやるか」
口元に苦笑を浮かべながら、アレクトは新しい紙を手元へ引き寄せた。
まずはセレノ殿下へ返書をしたためる。
一応、ダフネ嬢本人の意思も確認しなくてはならない。
とは言えそんなものは形式的なものだ。
彼女には了承するしかない。
(なんせ、俺自らが打診するのだからな)
今はまだイスグラン帝国王ではない。
だが、いずれはそうなる身分だ。
そんなアレクト自身が打診するのだから、断れようはずがない。
本人の意思とは関係なく、了承してもらうぞ、ダフネ・エレノア・ライオール。
おそらくは従姉であるリリアンナ嬢への当てつけで、彼女に想いを寄せていた侯爵家次男坊セレン――実際にはセレノ王太子であったが――を罠に掛けたのだろう。
自分の方が〝女として魅力的だった〟とでも、リリアンナ嬢へ見せつけたかったのかもしれない。
その騒動の後始末として、結果的に侯爵令嬢という地位まで手に入れたのだ。ダフネはきっと調子に乗っていることだろう。
ランディリック・グラハム・ライオール辺境伯の養女になってもなお、王都のペイン男爵邸に留まっていることから考えて、ダフネは北の地へ行くことを快くは思っていないはずだ。
(この話を持っていけば、なんとかして辞退しようとするだろう)
だが――。
(悪いが他国の王族を罠に嵌めた代償は払ってもらうぞ)
それこそ罪を赦され、さしたる追及もなく褒美まで与えられたのだ。
(侯爵令嬢という立場を得た以上、それに相応しい役目も果たしてもらわねばな)
ランディリック・グラハム・ライオールの養女になった時から、この未来は確定していたのだから。
(セレノ殿下には申し訳ない気もするが、正式に、マーロケリー国王太子妃候補として話を進めよう)
アレクトはペンを取り、インクへ浸した。
ランディリックの思惑。
セレノ殿下の思惑。
そして、自分が思い描く二国の未来。
それぞれが少しずつ異なるものを求めながらも、目指す先だけは同じところへ向かっている。
ならば今は、その道を繋いでいくしかない。
いつの日か、イスグラン帝国とマーロケリー国が、互いの色を恐れずに済むようになるために。
コメント
2件
策士だなぁ、アレクト殿下
うわ、このエピソード、アレクトの視点がめっちゃ重くて好き……! リリアンナとの婚姻がもうダメになったから、代わりにダフネを王太子妃候補として進めるって、完全に政略の駒扱いじゃん。 「お前が罠にかけたツケ、払ってもらうぞ」って、冷酷だなあ……でも、それぞれの思惑が交差しながらも同じ未来を目指してるって感じが、すごくドラマチックで引き込まれた。 最後の「互いの色を恐れずに済むように」って一文、めっちゃ染みた。 鷹槻れんさんの世界観、好きです。
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