テラーノベル
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ハザードランプの点滅が消え、再び走り出した車内の空気は、さっきまでの張り詰めた沈黙が嘘のように和やかな雰囲気に満ちていた。
彼は、淀んだ空気を一瞬でポジティブなものに変えるのが本当にうまい。
だから僕も、引き攣っていた顔が自然とほどけて、いつの間にか笑顔になっていた。
「楽しい旅行だったね、しゅん」
「ほんまやなぁ……。でも、なんか色々と……濃いことがたくさんあったなぁ?」
「え、う、うん……っ//」
「濃いこと」という含みのある言い方に、昨夜のあのシーツの上での記憶が脳裏をよぎって、僕は思わず生返事を返してしまう。
彼は前を向いたまま、優しく愛おしそうな声を続けた。
「でも、俺はじゅうの事、たくさん知れてほんまに嬉しかったわ」
「……俺も、しゅんのこと知れて嬉しかった」
「うん。気持ちも真っ直ぐ伝えられたし……。じゅうが強くなるまで、俺、ずーーっと待ってるからな?」
「え、、あ、えっと……うん、ありがと……っ//」
思い返して、僕はハッとする。
夜の、あの理性が消し飛ぶほどの熱い出来事は……恋人でもない人と、そもそもやってもいいことなのだろうか?
だって、そういう深いことって、普通はちゃんとお付き合いをしている恋人同士がするものだよな?
しかもお酒の勢いに任せて彼を誘い、彼の太腿に触れて、先に境界線を踏み越えたのは紛れもない、僕のほうだった…。
あーーー、どうしよう。
冷静になればなるほど、とんでもないことをやらかした気がしてきた。
いや、でも、そもそも彼だって彼だ。
付き合ってないって分かっているのに、僕に煽られたからって、あんな…
…あんなに奥まで激しく、乱暴に犯すみたいに咥えさせて、挙げ句の果てに僕の口の中に……っ////
「……っ、」
昨夜の、あののどを突かれる苦しさと、彼のもので満たされた生々しい感覚が五感に蘇って、一気に顔がカッと熱くなる。
「じゅう? なんか顔赤いけど、暑いん? 暖房下げよか?」
「あ、いや、大丈夫!! 全然寒いくらいだから!!」
大慌てで手を振って否定する僕を、彼はチラリと横目で盗み見て、ニヤニヤと意地悪そうに口角を上げた。
「……もしかしてじゅうちゃん、またエッチなこと考えてたんちゃうん??」
「っ、な……!////」
……図星だ。
図星すぎて、心臓が口から飛び出そうになる。
このままおもちゃにされるのは癪だし、何より頭の中をぐるぐる巡っているこのもやもやを解消したくて、僕は今の率直な疑問を彼にぶつけてみることにした。
「……ねぇ、しゅん。僕たち、付き合ってもないのにあんなこと……して、本当によかったの?」
「あー、まぁ、そうやなぁ……」
彼はハンドルを握る手をトントンと叩きながら、少しだけ困ったように、でもどこか余裕のある声で返事をする。
「だめじゃん。普通は付き合ってからするもんだよ」
「……じゅうは、嫌やったん?」
「あ、いや、嫌じゃ……ない、けど……」
「じゃあ、良かった?」
「え、っと……まぁ……、……幸せだった、かな……」
恥ずかしさで消え入りそうな声で、それでも嘘をつけずに本音を白状すると、彼は「ふふっ」と満足そうに優しく微笑んだ。
「じゃあ、ええんやない? じゅうが幸せなら、何も問題ないわ」
「そ、そうなのかな……?」
彼があまりにもあっさりと肯定するから、そっか、いいのか……と、一瞬だけ納得しかけてしまった。
……いや、待って。
でもそれって、世間でよく言うセフレのようなものになってしまうのではないだろうか…?
付き合っていないのに身体の関係だけがあるなんて、まさにそれだ。
でも、彼は「最後まではせぇへん」って言って我慢してくれた。
だからセフレとは違う、ような気もするし…。
……あぁ、もう、どうなんだろう。
今の距離感の正解が分からなくて。
人として良いことではないのは分かっているのに、この人になら何をされても愛おしいと思ってしまう自分に、僕は車窓に映る真っ赤な顔を隠すようにして、深く、深くため息を吐き出すのだった。
to be continued…
ち び
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