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ち び
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まとまらない思考を頭の中でぐるぐると巡らせているうちに、車は僕の住むマンションの前に到着した。
エントランスのすぐ前の路肩に、彼はそっと車を寄せて停めてくれる。
結局、さっきの疑問への明確な答えは出ないままだった。
「さーて! 着いたで! 3日間、ほんまに楽しかったわ、ありがとうな!」
「俺のほうこそ、しゅんと行けて本当に楽しかった。色々と……ありがとうね」
「俺、もっともっと頑張るからな! はやくじゅうに振り向いてもらえるように」
車のシートに深く背中を預けながら、彼は真っ直ぐに僕を見つめて笑う。
……もう、すでに大好きなんだけどな。
でも、これは、僕が自分自身を好きになって胸を張れるようになるまでの、僕自身の心の問題だ。
「うん……。俺も、頑張るから」
「おぅ!」
彼は優しく微笑み、愛おしそうに小さく頷いた。
車から降りるため、僕は彼に背を向け、助手席のドアに手をかける。
……その瞬間、不意に腕を強い力で引っ張られ、僕の身体は彼の方へと引き戻された。
ハッと息を呑んだ時にはもう彼の顔が目の前に迫っていて、顎を指先でクイと掴まれる。
そのまま熱い余韻を残すように唇に触れるだけの短い、けれど熱いキスをされた。
「、、んえっ?//」
あまりに急な出来事に、頭が真っ白になってシートの上で硬直してしまう僕の頭を、彼は「よしよし」とポンポンと優しく叩くと、悪戯っぽく笑って先に車を降りていった。
心臓がうるさい。
僕はパニックになりながら、彼の行く末をただ目で追うことしか出来なかった。
彼はトランクから僕の重いキャリーバッグを手際よく下ろすと、助手席のドアを外側からエスコートするように開けてくれた。
「はい! じゅうちゃん、どうぞ!」
にっこにこの満面の笑みでドアを押さえ、僕に向かって大きな手を差し伸べる。
「あ……、あ、ありがと……っ//」
柄にもないお姫様みたいな扱いに戸惑いながらも、僕はその手のひらに自分の手を重ねた。
すると彼はその手をグイっと引き上げ、僕をシートから軽々と立ち上がらせてくれる。
「ちょっ! 自分でできるから、もう、はずいって……!」
「へへっ、ええやーん! これくらいやらせて?」
しゅんは繋いだ僕の手をそのまま離そうとせず、空いたもう片方の手で僕の鞄を持ち、マンションのエントランスへと歩きだした。
「あ、しゅん。ここでいいよ? 荷物ありがとね」
「まぁまぁ、お部屋の前までやらせてや!」
「……あ、うん。ありがと」
正直に言うとまだ彼と離れたくなかったから、彼のその過保護な強引さが本当はすごく嬉しかった。
ロビーを抜け、僕たちは並んでエレベーターに乗り込む。
上へ移動する狭い密室のなかでも、僕たちの手はしっかりと繋がれたままだった。
手のひらから伝わる彼の温かい体温。
心地よくて、でもだからこそ、さっき車の中で頭を悩ませていた「恋人未満」の境界線が、再び僕の胸をチクリと刺した。
「……あのさ、しゅん。俺たち、付き合ってないんだよ……?」
「んー? わかっとるよ?」
「だって、この手……、」
僕は繋がれたままの手を胸の高さまで持ち上げて彼の顔をじっと見つめた。
付き合ってないのにこんな風に当たり前みたいに手を繋ぐのは、やっぱり良くない気がして。
僕の言葉に彼は一瞬だけ息を呑み、少しだけ困ったように考えるような表情を見せた。
「……、」
ほんの少しの張り詰めた沈黙のあと。
彼は僕の手を、掠れていく体温を惜しむようにゆっくりと離した。
自分から線を引くようなことを言ったはずなのに、離れていった瞬間、胸の奥に驚くほど冷たい風が吹いて猛烈な寂しさが押し寄せてくる。
自由になって行き場をなくした僕の右手には、彼が残していった熱い体温だけが寂しくじんわりと残っていた。
「そうやんなぁ、ごめん! ついうっかり繋いでもうたわ!」
へらっとした、いつものおどけた顔で笑ってみせる彼。
けれど、その瞳の奥が隠しきれない寂しさで微かに揺れているのが見えて、胸がギュッと苦しくなった。
チン、と気の抜けた音が響き、目的の階にエレベーターが到着する。
僕たちは静かに降りて僕の部屋の前へと向かった。
自由になった右手がやけに冷たくて寂しかった。
部屋の鍵を回しドアを開ける。
カチリと鍵が外れる現実の音に背中を押されるように、僕は振り返って彼を見つめた。
「……しゅん、少し、部屋に入っていく? 珈琲でも淹れるよ」
このままバイバイしてしまうのがどうしても寂しくて、僕はすがるように彼を誘ってみた。
なんとなく、彼なら「じゃあお邪魔しよっかな!」って断らずに喜んで入ってくれるだろうという、根拠のない自信があったんだ。
……だけど違った。
「あー……。今回は、ええわ! 車、路駐で停めっぱなしやしな!」
「え……、」
彼は優しく眉を下げて、車のキーを指先で揺らしながらそう言った。
絶対に断られないと思っていただけに、胸の奥が鋭い刃物でチクリと刺されたように痛む。
「そ、そっか……! 運転も荷物も、本当にありがとうね!」
「おう!ほな、また連絡するわ」
「うん! また明日、会社でね!」
荷物を受け取り、僕は彼を玄関で見送った。
大きな笑顔を作って手を振る。
完全な空元気。
バタン、と静かにドアが閉まり、彼の気配が僕の前から消え去った。
「…………え〜……。なんか、普通に、めちゃくちゃへこむんですけど……、」
静まり返った部屋の中に、力の抜けた僕のひとり言が寂しく響き渡る。
でも冷静に考えれば断られて当然の状況だ。
外の車は路駐だし、明日も朝から仕事だし……。
彼は大人の正しい判断をしただけ。
だけど……さっきエレベーターの中で、僕が「付き合ってない」なんて突き放すような冷たいことを言ってしまったから、彼に距離を置かれてしまったような気がしてたまらなく不安になった。
そもそも悪いのもずるいのも僕。
待っててほしいと言いながら、いざ距離を置かれたら寂しがるなんて、本当に自分勝手でどうしようもない。
誰もいない冷え切った暗い部屋で、僕はひとり寂しく大きなため息をついた。
手洗いうがいを済ませて、旅の荷物を床に置いたまま、リビングのソファーへとバタリと腰掛ける。
「…、はぁー……」
また、ため息。
この3日間、ずっと彼の圧倒的な体温と笑顔がすぐ隣にあったからだろうか。
たった数分ひとりぼっちになっただけなのに、この部屋がひどく広くて寂しく感じられた。
壁の時計に目をやると、現在の時刻は18時を少し過ぎたあたり。
……そうだった。
浸っている時間はない。
あと1時間もしないうちに、はやちゃんがここにやってくる。
彼が来るまでに、やるべきことを全部終わらせてしまおう。
「よっし……!」
両手で自分の頬をパンッと叩き、無理やりに自分に気合を入れる。
僕はソファーから立ち上がると、お揃いで買ったシマエナガのマグカップを大切に棚へと仕舞い、旅の荷物の片付けと明日の仕事の準備に大急ぎで取り掛かった。
to be continued…..
コメント
4件
🤍ちゃん自ら突き放したのにその後寂しくなってるの可愛いすぎる‼️その後突き放されてそっけなくしてる♥も凄い好き。でも、しょうがないよねとも思ってしまう!!うん!凄い好きです!!語彙力なくて変な文になってしまいすいません…😢