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目を開けた。
「美穂……!」
そこには県外にいるはずの叔父と叔母の姿があった。
「―――叔父さん、叔母さん……!」
美穂は握られた二人の手を、握り返した。
「ねえ!私、友達といたはずなんだけど、どうなった?一緒にいた人は!?」
叔母にしがみ付く。
「ああ、一緒にいた人かい……?」
叔母が戸惑ったように叔父を見つめ、叔父も俯きながら小さく首を振った。
アリスの言ったことは本当だった。
戻ってきたのだ。運命を変えて。
浩一というかけがえのない人を失って。
浩一。
こういち。
世界一、大好きだったよ。
私の命を―――。
二度も救ってくれて、
ありがーーーーー
「美穂!!」
その声に、美穂は飛び起きた。
病室の入り口には、息せき切って駆け付けた浩一が立っていた。
「よかった!!」
駆け寄り抱きついてきた浩一を抱きしめ返す。
「浩一!生きてる!!」
言うと浩一はふっと笑った。
「こっちのセリフだよ。美穂。意識が戻って、本当によかった……!!」
美穂の眼から涙が流れ出した。
「………」
隣で立っていた叔母も涙ぐむ。
「―――夢を……」
美穂は浩一の耳元に囁いた。
「夢を見ていたの」
「夢?」
浩一が優しい声で聞き返す。
「ーーーとっても、怖い夢だった………」
………………………
アリスは、筒井美穂が吸い込まれていった闇を見つめ薄く笑った。
―――自分のことを誰が一番愛しているかなんて、本当のところは誰にも分からないものですね。
6月19日。
駐車場で彼女の亡骸を抱き上げながら、木村浩一と、小笠原里奈は泣き崩れていた。
そこに、死神が現れた。
『筒井美穂さんを生き返らせてあげましょうか?』
その提案に2人は深く頷いた。
『しかしそのためには、どちらかに死んでいただきますよ?』
死神の言葉に頷いたのは、
木村浩一ではなく、小笠原里奈だった。
聞けば彼女は高校時代から筒井美穂を恋い慕っており、大学までも追いかけていった。
ずっと後輩としてそばにいられれば満足だったが、木村浩一の浮気癖を知るや否や、二人をどうにか別れさせようと執拗に付きまとい、その結果が今回の事故に繋がった。
『―――本当に、いいんですね?』
死神の言葉に、彼女は浩一を睨みながら、
『ーー美穂さんを悲しませたら許しませんから』
と言い放った。
こうして小笠原里奈は、筒井美穂のかわりに事故で致命傷を受けて、『自殺』した。
木村浩一からはすでにこの記憶は消えている。
今はかろうじて覚えている筒井美穂からも、夢と済ませた記憶もやがて完全に消えるだろう。
―――それでいいんです。この世は生者の為にある。
アリスはクククと笑いながら、扉を閉めた。
言葉を失い唖然としている4人を振り返ると、アリスは彼らに手を差し出した。