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「皆さんも命を懸けた勝負にお疲れだと思いますので、次のゲームはまた明日にしましょう。
安心してください。ここでの時間は無限ですので。生き返るときにはちゃんと6月19日に戻してあげますから。
――――おっと忘れるところでした」
アリスは唐突に尚子の方を振り返ると、指を振って見せた。
―――あ。
口が開いた。
よかった。唇の糸を抜いてくれたらしい。
「今後、騒音には十分気を付けてくださいね、土井さん。ゲームで不利になるのはあなたですよ」
尚子の気持ちを見透かしたように言うと、アリスはスタスタと自分の部屋に向けて歩き出した。
また部屋に戻るのか。
土井尚子はため息をついた。
これならさっさとゲームを続けて終わらせてくれた方が楽なのに。
「あ、あの……」
尾山がその後ろ姿を呼び止める。
「何ですか?」
「トランプを貸してくれないか?その一晩でいいから」
「うっわ。せこ。なんか仕掛けするつもりだぜ、このおっさん」
仙田が頭の後ろで手を組みながら笑う。
「そんなんじゃない……!人生でそんなにトランプゲームなんてやってこなかったから、触り慣れておこうと思って。弄ってるだけで気分も紛れるし………ん!?」
「勉強熱心なのは」
自室の前に立っていたはずのアリスが正面にいて、尾山は息を飲んだ。
「いいことですね」
アリスは至近距離で顔を寄せながら彼の手にトランプカードを握らせた。
「でも残念なお知らせがあります。明日からのゲームにはトランプは使いません」
「え………」
花崎が眉間に皺を寄せる。
「ちょっと身体が鈍ってきましたしね。明日は身体を動かすゲームをしましょう」
アリスはニコッと微笑むと、
「では皆さんおやすみなさい」
と、今度こそ自室に戻ってしまった。
「また寝んのかよ。それもだりーなー」
仙田が言いながら頭を掻く。
「仙田さん」
花崎が口を開いた。
「ここでの喧嘩は不毛だから、もうあなたと言い争ったりもしたくない。仲直りをしよう」
言いながらスタスタと仙田の前に来ると、彼は手を差し出した。
「……うげ。キモッ!君ってさ、生徒会長とか○○委員長とか進んでやっちゃう鳥肌君タイプ?」
仙田は笑ったが、花崎の真剣な顔を見ると、「はいはい」と仕方なく手を握った。
「では、おやすみなさい仙田さん」
「―――は?」
「俺はあなたが部屋に入り、施錠するのを見届けたい」
「―――どこが仲直りだよ」
仙田は鼻で笑うと、尾山、尚子の順に視線を移してから、自室のドアを開けた。
ギイーー。
ガチャ。
カチャン。
施錠の音が響く。
誰からともなく3人の鼻から息が吐き出された。
「―――土井さん」
花崎がこちらを振り返る。
「今日は鍵をかけるのを忘れないで。ゲームが始まるときは俺かアリスが君を呼びに行く。だからそれ以外の人が来ても開けないで。いいね?」
「あ、はい……」
誰だろう。
最近テレビに良く出ている俳優に顔が似ている気がする。
クラスの女子が大好きだって、クリアファイル持っていたような……。
尚子はそのままその視線を下に滑らせた。
白いワイシャツ。
茶色い皮ベルト。
グレーのスーツがとてもよく似合っている。
学校の男性教師みたいな“背広”ではなく、ちゃんと“スーツ”。
オーダーメイドで作っているのか、身体のラインにぴったり合っている。
かっこいい。
かっこ、いい………。
視線は股間に行く。
―――ダメだ。やっぱり。あの人の言う通り……。
尚子は太腿を擦り合わせた。
―――私のこれは、死んでも治らなかった。
少しだけ潤みを含めた視線で花崎を見つめてみたが、彼はその意味に気づくことなく、踵を返すと自室に入っていってしまった。
失望し、小さく息をつく。
しかし残っているのと言えば―――。
尾山は迷ったようにトランプを眺めていたが、やがてそれをダイニングテーブルに静かに置くと、自室に戻っていってしまった。
「――――」
尚子は小さく息を吐くと、仕方なく自室のドアを開けた。
その瞬間―――。
「お前さ」
驚いて振り返ると、先ほど施錠をしたはずの仙田のドアが数センチだけ開いていた。
そこから銀髪頭と光るような目が覗いている。
「昨日俺が部屋に行ったとき、オナニーしてただろ」
尚子は身体を硬直させた。
「俺、わかるんだよなー、女のあのときの匂い。別に臭いってんじゃないんだけどさー。甘酸っぱい、なーんか温かい匂い?」
「――――!!」
ダメだと思っているのに顔が熱くなる。
「ーーー今夜も疼いてどうしようもなくなったら、我慢しないで俺んとこおいで。今度はお前から」
「誰が……!」
「一緒にキモチよくなろーぜ。大丈夫。秘密にするから」
「………!」
「鍵、開けとくからさ」
そう言うと仙田は静かにドアを閉めた。