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数学の授業中だった。
サークル先生が黒板に円の証明を書いている。
いつも通りの静かな時間。
そのとき――
教室の中央、空間が歪んだ。
紙を裂くような音とともに、
“それ”は現れた。
少女の姿。
だが、目は焦点が合わず、存在感が現実と噛み合っていない。
アリス。
教室が凍りつく。
サークル先生は一歩、静かに後退した。
他の教師たちも、廊下の向こうで距離を取っているのが見える。
(刺激しなければいいタイプか……?)
森での経験が、内田の頭を冷静にする。
オリバーが立ち上がった。
「アリスちゃん、大丈夫だよ。落ち着いて」
知り合いなのか。
優しい声で、両手を見せる。
だが――
周囲の生徒の悲鳴。
椅子が倒れる音。
その“恐怖の波”が、アリスの表情を変えた。
目が見開かれる。
空気が裂ける。
次の瞬間、アリスが跳んだ。
一直線に、誰かへ。
内田は咄嗟に机を蹴り、横へ転がる。
鋭い衝撃が背後を掠める。
(来る!)
森での対ヨシエ戦法。
意味があるとは思っていない。
ただの癖。
内田はカメラを構え、
フラッシュを焚いた。
パシャッ――
閃光。
だが、今回は違った。
光が、ただの光ではない。
波紋のように空間へ広がる。
衝撃波。
目に見えない圧が、アリスへ直撃する。
アリスの身体が仰け反った。
そして――
空中で、止まった。
数秒間。
見えない鎖に縛られたように。
教室中が息を呑む。
内田も、自分の手を見つめる。
(効いてる……?)
フラッシュは、
ただ過去を写すだけではない。
“異常存在”を拘束する。
カメラの光が、波動として作用している。
数秒後。
拘束が解ける。
アリスはゆっくりと体勢を立て直した。
そして――
内田を見た。
正確には、
内田の手にあるカメラを。
敵意ではない。
理解。
警戒。
そんな色が、わずかに混じる。
次の瞬間。
空間が裂け、
アリスは消えた。
テレポート。
教室に残るのは、静寂と焦げた空気。
オリバーが呆然と呟く。
「……今の、何?」
サークル先生は、黒板の前で静かに内田を見ている。
その視線は、初めて“評価”を含んでいた。
観察対象を見る目。
内田はカメラを下ろす。
鼓動が速い。
(効いた……確実に)
フラッシュは鍵。
吉田の言葉が蘇る。
これはハンデ。
FPEの“敵”に対抗するための力。
内田は確信する。
この学校には、教師だけではない“異常”がいる。
そして、自分は――
もうただの転校生ではない。
アリスが逃げた理由。
それは恐怖か。
それとも、警戒か。
どちらにせよ。
内田一輝という存在は、
FPEの均衡を崩し始めている。