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瑞黄兄弟が可愛すぎて、、
実家へ集まることになったある日のこと。
先に到着したのは、らんとこさめだった。
玄関前で靴音を止め、らんがドアノブに手をかけようとした、そのとき。
「らんくん!」
背後から呼ばれて振り向くと、こさめがほんの少し背伸びをしていた。 ふわりと唇が触れる。
一瞬だけの、軽いキス。
「……え?」
完全に不意を突かれたらんが目を見開くと、こさめはにこにこと満面の笑み。
「びっくりしたー??」
楽しそうに笑うその顔に、らんは一気に耳まで赤くなる。
「……可愛いことするの、ほんとやめて」
そう言いながらも、視線は優しくて、どこか嬉しそうだった。
照れを隠すようにらんがドアを開ける。
――が。
視界に飛び込んできた光景に、二人は同時に固まった。
玄関ホールで、すちがみことを壁に追い込むように立ち、唇を重ねている。
みことはぽやんとした、とろけた表情で、すちの胸元に手を添えていた。
気配に気づいたすちが、ちらりと顔を上げる。
「あ」
ほんの一瞬、気まずそうな顔。
(あ、ばれた)
と言わんばかりに、らんを見る。
らんは深く息を吸い込み、こめかみを押さえながら言った。
「頼むから玄関先ではやめてくれ」
至極真っ当な意見である。
こさめはというと、状況よりもみことの表情に夢中だった。
「みこちゃん、ぽやぽやだ……! かわいい!」
そのまま勢いよく抱きつく。
みことは驚きもせず、ふにゃりと笑って、こさめをぎゅっと抱き返す。
今にも寝そうな、幸せそうな顔。
そのとき、階段から足音が響いた。
視線を向けると、ひまなつといるまが降りてくる。
「お、来たか」
ひまなつが気楽に声をかけるが、 いるまはこさめの腕の中で蕩けているみことを見て、ゆっくりと視線をすちへ向ける。
じとー……。
「お前……」
言葉は短いが、すべてが込められている。
すちは苦笑しながら、小さく言い訳をする。
「いや、ちょっとだけだから」
らんはもう一度ため息をつき、
「ほんとに頼むから場所を選べ」と真顔で言い渡すのだった。
みことの意識はすっかり冴えてきていた。
リビングには両親の穏やかな声と笑い声が空気を丸くしている。
ソファに並んで座るのは、いるま、みこと、こさめの三人。
「いるまくん、パーカー着てるの珍しいね?」
みことが首をかしげながら尋ねる。
普段はもう少しラフでも、どこか体のラインが見える服を選ぶことが多いのに、今日はゆったりとしたパーカーで首元まできっちり隠している。
いるまは一瞬だけ視線を泳がせ、ふっと横を向いた。
「……たまにはな」
短い一言。
だが耳の先がほんのり赤い。
本当は朝、ひまなつとふざけ半分にじゃれ合い、結果として首筋や鎖骨を含む全身に名残を刻まれてしまったのだ。
それを隠すためのパーカー。秘密の防御壁である。
みことは深く追及せず、にこりと笑う。
その笑顔は無垢で、少しだけいたずらっぽかった。
こさめがふと、みことの左手を取った。
「あ、やっぱりつけてる!」
きらりと光る指輪。
いるまも自然と左手をテーブルに置く。
同じ場所に、同じように光る輪。
「誕生日にもらったんだよね」
みことが照れくさそうに言うと、こさめも頷く。
「うん、こさめも!」
「…俺も」
三人、顔を見合わせて。
「幸せだねー」
ぽわっとした空気が広がっていた。
その様子を少し離れた位置から眺める、らん、すち、ひまなつ。
「……三つ子だから思考回路が似るのかな?」
すちがぽつり。
「まさか誕生日に指輪渡すのが被るとは思わなかったわ」
らんが腕を組み、しみじみと呟く。
ひまなつが鼻を鳴らす。
「真似すんなよ」
「いやそれはお前もブーメランだろ」
らんの即座のツッコミ。
ひまなつは一瞬言葉に詰まり、視線を逸らした。
結局三人とも、考えることは同じだったというわけだ。
そんなやり取りの中、すちは再びリビングの中央を見る。
みことが、両親の話に相槌を打ちながら笑っている。
目を細め、頬をゆるめ、柔らかな声で。
すちは思わず本音をこぼす。
「……ほんとにかわいい。襲いたい」
らんが即座に振り向く。
「帰ってからにしてくれ」
呆れと諦めが半分ずつ混ざった顔。
ひまなつはそれを聞き流しながら、両親の方へ視線を向けた。
「なぁ、出張ってもうほとんどないんだよな?」
「ああ、今後は落ち着くよ」
その返答を聞き、ひまなつは淡々と続ける。
「じゃあ俺、いるまと家出るね」
さらっと言うが、決意ははっきりしている。
いるまは一瞬目を見開き、それから小さく笑った。
リビングに流れていた穏やかな空気が、ふと静まる。
らん、すち、ひまなつの三人は、顔を見合わせ、小さくうなずき合った。
そして同時に立ち上がる。
父親の前まで進み、背筋を伸ばす。
「……義父さん」
らんが代表するように口を開く。
その声はいつもの軽やかさを潜め、真っ直ぐだった。
「「「息子さんをください!」」」
すちもひまなつも、深く頭を下げる。
三人の左手。
そこにはそれぞれの指輪が光っている。
その姿を見て、いるま、みこと、こさめも一瞬きょとんとしたあと、すぐに立ち上がる。
そして今度は母親の前へ。
「義母さん」
みことが少し緊張した声で言う。
「息子さんが欲しいです」
こさめも、ぎゅっと拳を握りながら続ける。
「ずっと一緒にいたいんです」
いるまは短く、けれどはっきりと。
「大事にします」
三人の左薬指にも、同じように指輪がはまっている。
六つの輪が、部屋の光を受けて静かに輝いていた。
母親は、ゆっくりと目を細める。
その表情は、どこまでも優しい。
「まあ……」
少しだけ目尻を潤ませながら、ふわりと微笑んだ。
「ぜひ、うちの子達をよろしくね」
一方で父親は、突然の宣言に目を丸くしていた。
「……改めてどうした?」
驚きと戸惑いが混ざった声。
だが、三人の真剣な眼差しを見て、次第にその表情がやわらいでいく。
しばらく沈黙したあと、父親は静かに言った。
「傷つきやすくて、扱いづらい息子たちだ」
いるま、みこと、こさめは思わず顔を見合わせる。
「でもな」
「お前たちのおかげで、あいつらの笑顔をたくさん見ることができた。あんなに安心した顔、家ではなかなか見せなかったからな」
声が少しだけ震える。
「……嬉しかったよ」
らん、すち、ひまなつは、ぐっと唇を引き結ぶ。
「これからも、よろしく頼む」
その言葉に、三人はもう一度深く頭を下げた。
やがて父親が一人ずつ、順番に抱きしめる。
がっしりとした腕の中で、らんは目を閉じ、すちは静かに息を吐き、ひまなつはほんの少しだけ照れたように笑った。
母親もまた、いるま、みこと、こさめを優しく抱き寄せる。
それぞれの想いが重なり合い、家族の輪がまたひとつ大きくなる。
笑い声と、少しの涙と。
温かな約束が、交わされた瞬間だった。
「みこと」
いるまが、ふっと優しく微笑む。
「小さい頃の夢、叶ってよかったな」
その一言に、みことは目をぱちくりと瞬かせた。
「……覚えてたの?」
驚きと、少しの照れが混ざった声。
こさめがぱっと手を挙げるようにして笑う。
「こさも覚えてるよ!」
両親と、らん、すち、ひまなつは顔を見合わせる。
「夢? 何の話だ?」
父親が不思議そうに尋ねる。
みことは一度だけ深く息を吸い、ゆっくりと視線を落とした。
左薬指の指輪が、静かに光る。
「……家族、に憧れてて」
その声は穏やかで、でも芯があった。
「ずっと、欲しかった…。あったかくて、帰る場所があって、いるまくんもこさめちゃんも安心できて、名前を呼んでくれる人がいること」
母親が、そっと口元を押さえる。
「この家で、家族になれたことが、本当に幸せで」
みことは少しだけ笑う。
あの日々を思い出すように。
「すちに愛されて、すちを愛せて」
「別の形で、またすちと家族になれることが……嬉しい」
その言葉は、決して大きくないのに、部屋いっぱいに広がった。
静寂。
けれど、それは冷たいものではなく、胸の奥をあたためる沈黙だった。
いるまが頷く。
「ずっと言ってたもんな。家族がほしいって」
こさめも目を細める。
父親はゆっくりとみことに歩み寄り、肩に手を置く。
「もう、とっくに家族だ」
短い言葉。
けれど、揺るぎない重みがある。
母親は涙を浮かべながら笑った。
「これからもずっとね」
らんは照れ隠しのように話す。
「まあ、離す気ないしな」
ひまなつは小さく鼻で笑う。
「簡単に手放すわけねえだろ」
すちは、みことの隣に立ち、その手をそっと握った。
「手離さないから、覚悟してね」
その言葉に、みことは静かに頷く。
ずっと家族になりたかった。
ずっと欲しかった居場所。
その夢が、いま確かにここにある。
未来には、きっといろんなことが待っている。
笑う日もあれば、ぶつかる日もあるだろう。
迷い、悩み、立ち止まることもあるかもしれない。
それでも。
家族という繋がりは、簡単には消えない。
指輪よりも強く、言葉よりも深く、心と心を結ぶもの。
皆は顔を見合わせ、自然と笑い合った。
光の差すリビング。
重なり合う手。
あたたかな視線。
夢は叶った。
そして物語は終わらない。
これからも続いていく日々の中で、 彼らは何度でも確かめ合うだろう。
ここが帰る場所だと。
ここが、家族だと。
__𝐹𝑖𝑛.